(閑話)初ごはんと名前
おはようございます!
本日もサクサク投稿しています ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-
アニスが部屋をめちゃくちゃに荒らした、その日の夕方。
彼女が部屋でうとうとしていると、ハロルドが戻ってきた。
「一緒に食堂に行かないか? そろそろお腹が空いただろう」
アニスは自分のお腹に前足を当てた。
そういえば、ちょっとお腹が空いた気がする。
気を遣ってもらっていることを申し訳なく思いつつ、同意するように「にゃあ」と鳴くと、ハロルドが籠を持ってきた。
中に入ると、上からハンカチをかけられ、部屋から出る。
そして、籠の中で丸くなりながら揺られること、しばし。
籠がどこかにそっと置かれた感覚がした。
ハンカチが取られ、明るくなる。
アニスが外をのぞくと、そこはシャンデリアが飾られた広くて豪華な部屋だった。
白いテーブルクロスがかかったテーブルが並んでいる。
(あれ? 食堂に行くんじゃなかったの?)
アニスが首をかしげていると、ウエイターの格好をした中年男性が現われた。
ハロルドにお辞儀をすると、メニューを渡す。
「本日はいかがされますか」
その様子を見て、アニスは理解した。
ここはきっと、上位貴族専用の食堂だ。
(初めて入ったわ、こんな感じなんだ)
物珍しそうにキョロキョロしていると、メニューをながめていたハロルドが口を開いた。
「肉のコースと、それからこの猫に何か食べさせたいのだが、皆何を食べさせている?」
ウエイターが思案した。
「そうですね……、普通の猫と違って食事に制限がございませんので色々ですが、生肉、特に鶏肉を好んで食べる個体が多いかと」
(ええ!? 生肉!?)
アニスは目を見開いた。
生肉なんて冗談じゃない!
ハロルドを見上げ、にゃあにゃあと鳴いて、絶対に生肉は嫌だと訴える。
その様子を見て、ハロルドがウエイターを見た。
「生肉の他には何を食べるんだ?」
「そうですね。果物やお菓子を好む個体もいます」
(そう! それよ!)
先ほどの必死な様子から一転、つぶらな瞳でハロルドを見上げ、「にゃーん」と訴える。
ハロルドがおかしそうな顔をすると、果物とお菓子を注文した。
少しして、ハロルドの肉料理と同時に、葡萄やイチゴ、クッキーなどがのった皿が運ばれてくる。
(おいしそう!)
アニスは喜んで皿に近づいた。
葡萄を両手ではさむと、もぐもぐと夢中で食べ始める。
(は~、生き返る~)
久々の固形物を食べたせいか、体の底から力が湧いて来る。
そんなアニスの姿をながめながら、ハロルドがゆっくりと食事を始めた。
手を伸ばして頭を撫で、「食べている時は気にしないんだな」と口角を上げる。
そして、果物とクッキーをあらかた食べ終わり、アニスが満足げにしていると、珈琲を飲んでいたハロルドが、そういえば、という風につぶやいた。
「名前、どうするか……。もともとの名前は分からないようだしな」
珈琲を置くと、考え込むように彼女の目をジッと見る。
アニスはその場にちょこんと座り込んだ。
この流れは、名前をつける感じの気がする。
(別にかまわないけど、エカテリーナとか貴族っぽい名前は嫌だな……)
彼はアニスの姿をまじまじと見ると、考えるように視線を伏せる。
そして、
「モカはどうだ? お前のご主人様はチョコレートが大好きだからな」
アニスは、ふむ、と考え込んだ。
ハロルドが、アニスのチョコレート好きを知っていたのは意外だが、名前としては悪くない。
アニスの満更でもなさそうな様子を見て、ハロルドが「決まりだな」と口角を上げる。
その後、アニスは命名記念として頼んでもらったチョコレートケーキを堪能。
ハロルドに、「にゃーん」とお礼を言うと、ご機嫌に尻尾を揺らしながら部屋へと戻っていった。
次話から、第2章スタートです。
ちなみに、このお話は全45話の予定です。