【Another Side】報告会
アニスが、ハロルドの部屋を荒らしてしまい、
「にゃあああ――!!」
と叫んでいた、ちょうどそのころ。
魔法士団本部にある師団長の執務室に、ヘクトールとニーナ、そしてアニスと最後まで一緒にいた新人魔法士の3人が集まっていた。
皆、これ以上ないほど深刻な顔をしている。
ニーナが信じられないという顔で口を開いた。
「つまり、地下迷宮で迷子になったと届け出があった子どもたちは、そもそも地下迷宮にすら行っていなかった。ということですか?」
「ああ」
ヘクトールが重々しくうなずいた。
「何でも別邸に行っていたらしい。地下迷宮に入る子どもたちを見た、というのは何かの間違いだったようだ」
「それじゃあ……アニスさんは……」
小さくつぶやくニーナに、ヘクトールは苦い顔をしてため息をついた。
「会議ではこの事態を重く見ての。当初は貴族を罰するべきだという意見もあった。……しかし、フェリクス殿下がお止めになったのだ。子がいなくなり、親も動転していたのだろうと」
「……そうですか」
ああ。とヘクトールが眉間にしわを寄せてうなずいた。
「お優しい殿下は、婚約者であるアニスの行方不明に深く悲しんでおられた。最初はご自身で探しに行くと申し出られた」
「……それは危険では」
「ああ、だから会議室の全員でお止めしたところ、せめてもということで、フェリクス殿下が正式に総指揮官となり、捜索の全権を握ることになった」
総指揮官になったフェリクスは、3カ月は捜索を続けて欲しいという要望を出したらしい。
ニーナが目を瞬いた。
「3ヶ月、ですか」
「昔、洞窟で行方不明になった魔法士が2ヶ月半後に生還した例があるそうだ。殿下は、それを信じたいのだろう。それに、アニスは1カ月分の栄養食を持ち込んでいるハズだ。そこも考慮に入っているのだろうな」
沈黙が落ちる。
ヘクトールは手元の書類を閉じると、ゆっくりと新人魔法士を見た。
「フェリクス殿下が、お前に現場での指揮を頼みたいそうだ。唯一アニスがどこにいるか分かっている人間だからな」
「お任せください」
新人魔法士がうなずいた。
「なるべく早くお助けできるよう、まずは副団長が行方不明になった迷宮の入口あたりを、全力で捜索いたします」
「うむ。入ったばかりで荷が重いが、頼んだぞ。彼女がいないと私も仕事が回らないからな」
「もちろんです」
深々と頭を下げた新人魔法士は、執務室を出た。
彼の後ろで扉が閉まる。
そのまま廊下を歩き出した彼は、まっすぐ馬小屋を目指して歩みを進めた。
馬に飛び乗ると、王宮を出て、古代迷宮方面に向かって進んでいく。
――そして、馬を走らせること約3時間。
彼は、古代迷宮の入口にほど近い森の中に入った。
進んでいくと、人相の悪い男が岩に座っている。
魔法士は馬から降りると、男に近づいた。
「塩梅はどうだ?」
男は、ニヤリと笑ってうなずいた。
「ああ、問題ない。混乱に乗じて、新たに崩落を何か所か起こしておいた。アニスが自力で出て来れる可能性は限りなくゼロだろう。そっちはどうだ?」
「こちらも無事、捜索隊長に任命されて、入り口付近の捜索をすることが決まった」
男が満足そうにうなずいた。
「あとは、時々崩落を起こして、奥から出てこられないようにするだけだな。あのバカ強いハロルドとかいう騎士が現れた時は肝が冷えたが、発見されなくて幸いだった」
魔法士が苦笑した。
「本当に助かったよ。もし発見されていたら、騎士団長もろとも始末する必要があったからな」
「そうだな。――ただ、あの騎士は危険だ。あの方に頼んで探索に参加させないようにしておいてくれ」
「任せてくれ。なにせ俺は探索隊長様だからな」
アニスを宝物庫に閉じ込めたことを確信し、笑い合う2人。
彼らはもちろん知らなかった。
猫になったアニスが、すでにハロルドに救出されていた、ということを。
ちなみに、閉じ込められたのは陰謀ですが、猫になったのは偶然です。
陰謀側は、まさか猫になって逃げ出したとは思っていない感じです。
ややこしいので補足させて頂きました。(*'▽')