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01.自分勝手な王子様


本日から投稿を開始します。

どうぞよろしくお願いいたします!




「……え? 婚約解消?」




 王立大学の研究室にて。

 ソファに腰かける魔法士の制服を着た女性――アニスは、驚きの声を上げた。


 その正面で微笑む金髪碧眼の美青年――彼女の婚約者であるフェリクス王子が、にっこり笑った。



「ああ、そうだよ。君から国王陛下(父上)に婚約解消を申し出て欲しいと思っていてね」



 アニスは、目をぱちくりさせた。



「……あの、おっしゃっている意味がよく分からないのですが」

「そのままだよ。私は君との婚約を解消したいと思っているから、君から父上に申し出て欲しいんだ」



 君からの方が、私も楽だからね。と爽やかに言う王子を、アニスは戸惑いの目で見つめた。



(……この人、何を言っているの?)



 脳裏に浮かぶのは、婚約してからこれまでの出来事だ。



 *



 アニスとフェリクスが婚約したのは、約5年前だ。


 彼女は、地方男爵家の娘だが、桁外れの魔力量と卓越した魔法の才能の持ち主だった。

 それに目を付けた王家が、彼女の血を王家に取り込もうと、第3王子であるフェリクスとの婚約を命じたのだ。


『まずは婚約。そして、フェリクスが大学を卒業する5年後に結婚せよ』


 突然の決定にアニスは憮然とした。

 勝手に結婚相手を決められて、釈然としないものを感じる。


 しかし、王命なことに加え、両親も大喜びだったため、彼女は渋々この婚約を受け入れることにした。


 婚約したからには、ちゃんとしなければと、アニスはひたすらフェリクスの期待に応えようとがんばった。

 忙しいという彼に代わり、大学に提出する論文のほとんどを彼女が書いてきたし、一部仕事も代理で行った。

 魔法士団の任務と重なって、忙しさのあまり倒れそうになったこともあったが、5年間必死に彼を支えて来た。


 そして今日。

 徹夜で仕上げた論文を届けに来たところ、いつもなら論文を受け取ったらすぐに帰れと言う彼が、どういう風の吹き回しか、

「お茶でも出すよ」

 と言ってきた。


 もしかして感謝してくれたのかもしれないと嬉しく思いながら、部屋に入って高そうなお茶を頂いていたところ、突然、

「婚約解消を申し出て欲しい」

 と言われた、という次第だ。



 *



 混乱した頭を落ち着けようと、アニスは小さく息を吐いた。

 とりあえず状況を把握しようと、顔を上げて王子の涼しげな顔を見る。



「あの、理由を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」



 王子が、「かまわないよ」という風にうなずいた。



「理由は2つだね。1つは――」



 彼は、ローテーブルの上に置かれた、アニスが持って来た分厚い論文を取り上げた。



「この論文で、一区切りついたからだね。あとは――」



 王子は論文を机の上にポンと無造作に放ると、にっこり微笑んだ。



「心から愛おしいと思える女性に出会ったからだ。私に相応しいね」



 信じられないような自分勝手な理由に、アニスは目を見開いた。

 動揺を隠すように視線を伏せると、低い声で確認する。



「……つまり、殿下に相応しくないわたしは、論文を書き終わったから不要になった。――そういうことですか?」

「おやおや、私はそんな下品な言い方はしていないよ?」



 涼しげに言うフェリクスから目を逸らしながら、アニスは思わず右手首にはめている“魔力漏れ防止の腕輪”を握り締めた。

 お腹の底から、怒りがふつふつとこみ上げてくる。



(ひどい!)



 もしもこの婚約が一般的なものであれば、この場で了承して、婚約などさっさと解消してやるところだ。

 しかし、この婚約は王命だ。簡単に解消できるものではないし、両親も大反対するだろう。


 そして、「とりあえず、ここは我慢よ」とアニスが気持ちを落ち着けるようにゆっくりと息を吐いていた、そのとき――



 バタンッ



 突然、背後で扉が勢いよく開いた。


 振り返ると、そこにはピンクブロンドの髪にピンク色の瞳の小柄な女性が立っていた。



(……誰?)



 アニスが首をかしげていると、女性がアニスを見て、「キャッ」と、あざとく両手を口元に当てた。

 潤んだ目でフェリクスを見る。



「ごめんなさい、フェリクス様。まさかお客様が来ているとは思わなくて」

「かまわないよ、よく来てくれたね」



 フェリクスが、アニスに見せたことのないような笑顔で立ち上がった。

 女性の肩を優しく抱くと、アニスを見下すように見た。



「紹介しよう、カトリーナ・ラウゼン侯爵令嬢だ。彼女が私に相応しい相手だよ」

「はじめまして、アニス・レイン第2魔法士団副師団長様。カトリーナと申します。お噂はかねがね」



 カトリーナが、恭しくお辞儀をする。

 一見礼儀正しく見えるが、その目と態度には勝ち誇ったような色が見える。


 アニスは黙ってお辞儀を返しながら、拳をギュッと握り締めた。

 つまり、アニスに論文を書かせている間、彼女とよろしくやっていたということだろう。



(しかも、わたしから婚約解消させて楽をしようなんて、どこまで都合が良いのよ!)



 彼女は何とか怒りを抑えると、王子を冷静に見た。



「先ほどの話ですが、わたくしには王命に反することはできません。婚約解消を希望されるのであれば、ご自身で申し出て下さい」



 王子が蔑むような顔をした。



「そうか。これは君のためにはそれがいいと思ったんだけどね」

「誠に申し訳ありません」



 アニスは、顔を強張らせたまま一礼した。

 これ以上ここにいたら、魔法をぶっ放してしまいそうだと思いながら、


「失礼します、お茶ありがとうございました」


 と挨拶して、扉を開けて外に出る。

 早足で廊下を歩いて研究所を出ると、ズカズカと魔法士団本部に向かって歩き始める。


 そして、人気のない空き地のよう場所に来ると、彼女は足を止めた。

 近くに誰もいないことを確認すると、唇を噛み締める。


 そして、



「……もう無理だわ、耐えられない」



 そうつぶやくと、怒りに震える息を吐きながら、静かに詠唱した。



「<音声・魔力防御結界>」



 その瞬間、アニスの周囲に黄金の魔法陣が広がった。

 空気がピリリと張り詰める。


 その中で、彼女は怒りを解放するように叫んだ。



「こんなの無理でしょっ!!」



 結界内の空気が、声と魔力でビリビリと震える。


 そこから彼女は叫び続けた。

「ひどすぎるでしょ!」、「わたしのこと何だと思っているのよ!」、「わたしの時間を返せ!」など足を踏み鳴らしながら叫ぶ。


 散々叫んだ後、彼女は指をパチンと鳴らして結界を解いた。

 肩で息をしながら、叫んだ際に乱れた衣服を直す。


 そして、踵を返すと、険しい表情を浮かべながら、王宮へと戻っていった。







本日は話の区切りがつくまで投稿しようと思います。


ちなみに、ややスロースタートで、6話辺りからぐっと動き出す感じです。

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― 新着の感想 ―
とんでもねぇドブカス王子だなぁ 諸侯に知られたら王族の権威まで揺るがす大スキャンダルやん 王がマトモなら廃嫡も十分あり得るぞこんなん
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