4.スクランブル
同日 10時30分
沖縄県那覇市 航空自衛隊那覇基地
ピロロロ――
その着信音にアラート待機室の全員が身構えた。受話器を取る飛行管理員に視線が集まる。
「スクランブル!」
赤い受話器を片手にディスパッチャーが告げた。
日本の領空を侵犯する恐れのある国籍不明機に対して、戦闘機を緊急発進させて警告する対領空侵犯措置。年間六百〜七百件に上る緊急発進のうち、対象は約七割が中国で、発進基地は約六割が那覇基地という内訳になっていた。少なくとも週に五回は緊急発進する頻度だった。
ディスパッチャーがアラームのスイッチを押す瞬間には、パイロットと整備員達が動き出していた。
ウゥ―― 甲高いアラームが鳴り響く。
全員が足で地面を蹴り上げて立ち上がる。アラートハンガーの扉を開けるボタンを叩きながら、クッションの貼られたドアにタックルし、一目散にアラート待機室を飛び出した。夏の日差しと熱風に目が眩むが、アラートハンガーに全力疾走する。アラートハンガー横の赤色回転灯が発光していた。松戸裕一は、アラートハンガーの開き始めた巨大で分厚い扉の隙間から中に飛び込んだ。僚機の高田幸希2等空尉が隣のアラートハンガーに走り去るのが、視界の隅に入った。バンカーとも呼ばれるかまぼこ型のコンクリート製掩体内にはアラームが反響していた。B/S、C/S、KILLと並ぶ情況表示灯は左端のS/Cが激しく点滅している。
全国二十八ヵ所のレーダーサイト、早期警戒機・早期警戒管制機が二十四時間三百六十五日、日本の空を監視している。このレーダーや地上電波測定装置によって、領空侵犯の恐れがある国籍不明機は早期に探知・監視されるため、コックピット内で待機するコックピット・スタンバイや滑走路端で待機するバトルステーション・スタンバイが半数を超えるが、ホット・スクランブルでは五分以内に直ちに離陸しなければならない。救命胴衣や耐Gスーツの重みも忘れて、無心で走る。
バンカーでは一機のF-15J戦闘機が羽を休めていた。米マクドネル・ダグラスのF-15C/Dイーグルを三菱重工が日本仕様にライセンス生産し、二百十三機を調達した航空自衛隊の主力戦闘機である。実に四十年以上に渡り、日本の空を守ってきた。垂直尾翼にはロービジで白頭鷲が描かれている。イーグル・オブ・イーグル――最強のイーグル飛行隊を意味する第204飛行隊の部隊マークである。
松戸は耐Gスーツで曲げにくい膝を無理やり動かして、F-15Jにかけられたラダーを駆け上がると、コックピットに飛び乗った。目の前の計器類は一部が変更された近代化改修機(F-15MJ)のそれだった。他の航空団が半数程度なのに対し、最前線である那覇基地の第9航空団は、全機がレーダー・電子戦システム・コンピューターを換装したF-15MJとなっている。
松戸は|ジェットフューエルスターター《JFS》のハンドルを、射出座席に座りながら引いた。ヒュイーンという作動音を遮るように、コックピットの傍に置かれた|ヘルメット装着式統合目標指定システム《JHMCS》を被る。その数秒間で圧縮された作動油が蓄圧器から一気に流れ、緑色のJFS READY LIGHTが点灯した。JFS始動。JHMCSに繋がった酸素マスクを装着しながら、内臓マイクに「右回します」と伝えた。機体の正面に立つ整備員のヘッドセットにケーブルで繋がっている。併せて、キャノピーの外に伸ばした右手の人差し指と中指を立てて、合図する。
『クリア』
安全確認した整備員が、インターフォンのヘッドセットに応えた。
「ナンバー2、エンジンスタート」
ENG MASTER S/W、右エンジンのスロットルレバー下部のFINGER LIFTをそれぞれON。
ギュイーン――
JFSがクランクシャフトに接続され、右エンジンの回転が始まった。
FIRE WARNING TEST。トグルスイッチをTESTに下げる。赤い警告灯が一瞬点灯し、消える。異常なし。
その間に右エンジンの回転数が上昇し、メーターの針は18パーセントを示した。それを確認すると、スロットルレバーを「IDLE」と書かれた位置まで前進させる。エンジンに燃料が供給され、イグニッションが作動。ドンッと軽い振動とともに右エンジンに着火した。30パーセント・320度、40パーセント・440度、45パーセント・520度と、上下に並ぶエンジン回転数と|ファンタービン入口温度《FTIT》のメーターが上昇する。正常に着火している。
ヒュイーン――
メーターの上昇に従って、エンジン音も大きさを増す。
フォォン――
右のエアインテークがガクンと下がる。
エンジンがアイドルに達した作動だった。FTITが570度まで上がると、徐々に510度まで下がり安定する。JFSが切り離され、右エンジンの始動が完了。
「JFSスローダウン」
右エンジン回転計が65パーセント、燃料流量計が500ポンド毎時、ノズルポジション計が80パーセント。コックピット右側に並ぶメーターを流れるように確認する。
整備員が機体に歩み寄り、視覚から消えた。セカンダリエアフローを確認し、前脚の元に滑り込んでASPを点検・リセットしている。
『セカンダリエアフローとASPリセット、OKです。ノーズピン抜きました』
整備員の声が、ヘルメット内のヘッドフォンから聞こえた。機体の下から出てきた整備員が掲げたノーズピンを確認して、親指を立てる。
「了解。ナンバー1、エンジンスタート」
『クリア』
今度は右手の人差し指を立てて、左エンジンスタートを合図した。同様の手順で左エンジンも始動させる。
「JFSシャットダウン」
左エンジンも始動すると、JFSは自動的に切り離され停止した。十二万馬力を誇る二基のF100-IHI-220Eは無事に始動した。キャノピーを閉める。
『ECSエアフロー、OKです。そのまま下回り確認します』
「了解です。お願いします」
排気口に手を当ててJSFが停止していることを確認した整備員から、報告が上がった。
松戸が電子機器やハーネスの点検をしている間に、整備員達が機体の下に潜り込んで、点検し、セーフティピンを抜いていく。続けて、主翼下のAAM-5、胴体下側面のAAM-4の安全装置がSAFEからARMに切り替えられて、セーフティピンが抜かれた。最近では赤外線誘導の短距離ミサイル二発に加えて、レーダー誘導の中距離ミサイル二発も搭載されるようになった。機体下部から出てきた整備員が両手に持ったセフティピンをこちらに掲げている。八本あるのを数えて「OKです」と親指を立てた。
『ICSケーブル、ディスコネクトします』
「了解」
松戸と整備員をつなぐ通話装置のケーブルが外され、コネクタのある154Lドアが閉じられた。これ以降の整備員とのやり取りはハンドサインのみとなる。
スロットルレバー側面の通話スイッチを押して、UHF-2で僚機の高田を呼び出した。『準備OK』との返答。続けて、UHF-1で地上管制席と連絡を取る。
「JOCKY15, check in. Naha ground, JAGUAR15. Request taxi, scramble」
〈JOCKY15〉は松戸の搭乗する機のコールサインである。
『JOCKY15, Runway36R at E9. Line up and wait』
国土交通省航空局の管制官から地上滑走の指示が来た。戦闘機が配備されている基地で自衛官以外が管制を行なっているのは、ここ那覇だけである。
「Runway36R at E9. Line up and wait」
親指を立てた両手を広げて、車輪止めを外す合図を整備員に送った。整備員も同じ動作を行い、車輪と止めが外れるとグッドサインをして右手を高く掲げた。こちらも親指を立てて返す。
整備員が両手を広げては閉じる動作を繰り返し、発進を誘導する。両足で踏み込んでいるラダーペダルを調整して、エンジン推力で前進。敬礼で見送る整備員達に答礼し、アラートハンガーを出た。コンクリートの照り返しが眩しい。JHMCSのバイザーを下ろした。
ここまで約三分。あとは離陸するだけだ。
松戸はキャノピー枠にあるミラーで、斜め後ろに僚機〈JOCKY16〉がついてきていることを確認した。アラートハンガーから滑走路南端まで最短の誘導路E7に縦一列で進入する。視線を右にやると、誘導路E6の手前で旅客機が待機していた。スクランブルは最優先される。
国内第五位の離発着数を誇る沖縄の玄関口――那覇空港と滑走路を共有し、陸海空自衛隊、沖縄県警航空隊、海上保安庁が所在する那覇基地は超過密だった。二〇二〇年に第二滑走路が新設されたことで、ようやく混雑は緩和された。だが、数日前に第二滑走路と第一滑走路を繋ぐ連結誘導路が陥没したことで、海上の第二滑走路は孤島と化し、昔の過密状態へと戻った。防砂シートが大規模に破れ、そこから埋立の海砂が大量に流出して緑地部が崩壊し、そのまま誘導路埋立部の岩ズリも崩れた。防砂シートが破れた原因は不明で、警察が捜査しているとの噂すら飛び交っていた。
『JOCKY15, contact Tower 118.1』
「118.1. JOCKY15」
地上管制席から飛行場管理席にハンドオフする。
「Naha tower, JOCKY15. On your frequency」
『JOCKY15. Line up and wait, Runway36R』
「Line up and wait, Runway36R. JOCKY15」
『JOCKY15, read back is collect. Order Vector 230, climd angels10』
松戸は管制官にスクランブルオーダーを復唱しながら、滑走路に進入して停止した。斜め右後ろの位置で僚機が止まった。
領空までそんなに接近されているのか? 演習の関係で台湾の東から来ているのか? それなら国籍不明機は艦載機か航続距離の長い爆撃機だろうか?――
国籍不明機はこちらから見て230度(南西)の方角、高度一万フィートを飛行して領空に向かっている。宮古島や石垣島、さらには台湾の方だ。中国本土から真っ直ぐ尖閣方面に向かってくるなら、指定される方角は270度以上になるはずだ。
UHF-2で「急ごう」と高田に伝えると、『16』と返事があった。
『JOCKY15, Wind 350 at 4. Runway36R, cleared for take off』
「Runway36R, cleared for take off」
松戸はスロットルレバーを押し、二基のF-100エンジンの出力を上げた。ゴオォ――とエンジンが唸り声を上げ、エンジン回転計とFTITのメーターが、それに応えて跳ね上がる。ラダーペダルから両足を離すと、機体は加速しながら滑走を始めた。加速Gが身体をシートに押し付ける。コックピットの正面中央に備えつけられているHUD(正面を向いている時はHMDの表示は自動的に消える)の速度スケールがみるみるうちに上昇していき、エプロンに並ぶ多数のF-15やP-3C哨戒機が後ろへ流れていく。150ノットに達したところで、右手で握る操縦桿を手前に倒して機首を上げた。機体が浮き上がる。視界にあったターミナルビルが下へと消え、HUD右側の高度スケールが上がっていく。
「ギアアップ、フラップアップ」
主脚と前脚を格納し、揚力を増すためのフラップを上げる。
『16、離陸する』
十五秒の間隔を置いて、僚機も滑走を始めた。
『JOCKY15, contact departure 119.1. Good luck』
「119.1. ありがとうございました」
嘉手納基地の最終進入コースに入らないように左旋回させ、機首を230度へ向けながら上昇を続けた。
航空自衛隊那覇基地・那覇防空指令所
奄美大島から与那国島までの南西諸島地域約八百キロの防空を担う南西航空方面隊の司令部庁舎の東側。盛り土で地下化された建物に那覇DCはある。セキュリティで厳重に隔離され、空調も特殊なフィルターを介すことでNBC兵器にも対応し、外部と遮断された区画。南西航空警戒管制団防空管制隊の兵器管制官等がレーダー情報を映すパソコンに向かっている。防空指令所といっても真っ暗な部屋にモニターが並んでいるわけではない。航空自衛隊の戦術指揮通信システムがBADGEからJADGEに更新されて、ブラウン管のコンソールは民生品のディスプレイとキーボードに置き換わった。液晶ディスプレイとなったことで、わざわざ照明を落とす必要がなくなったのだ。SOC/DCも、さらに上位のAOC/AOCCも、LED蛍光灯が照らす空間に事務用デスクと市販のPC・電話機が並んでおり、普通のオフィスと大差はない。ディスプレイに表示されているのが、全国のレーダーサイトやAEW・AWACSのレーダー情報、全国十二コの戦闘機部隊や二十四コ高射隊の情況といった防衛秘密という点を除けばだが。
「先任管制官、JOCKY15・16が離陸しました。タイムアット34。これより誘導開始します」
「了解」
先任管制官の小笠原敬は兵器管制官の報告に答えた。
『ROAD RICK, JOCKY15. Air bone. Request radar pick up』
兵器管制官はヘッドセットのマイクを口元に寄せた。
「JOCKY15, ROAD RICK. Loud and clear. How do you read me?」
『JOCKY15. Loud and clear』
「JOCKY15, ROAD RICK. Radar contact. Vector 230, climb angels 20, set speed Mach 1.2」
『Roger. Vector 230, climb 10, Mach1.2. JOCKY15』
ヘッドセットを被った兵器管制官が離陸したJOCKY15・16の誘導を始めた。
正面の航空現況表示スクリーンの地図上に、緑色のシンボルが二つ現れた。沖縄本島の西にJOC15・16と表示されたそのシルエットは、ジリジリと南西に進んでいく。その先には、国籍不明機を表すオレンジ色のシンボル。台湾の東側から西に向かって航跡が伸び、防空識別圏を超えて領空を示すラインに差し掛かろうとしていた。防空識別圏を示すラインは東シナ海の日中中間線と台湾・与那国島の間に直線に引かれていた。重なる線の西側が台湾の防空識別圏となっており、与那国島の領空線が台湾側の防空識別圏に食い込んでいた。日本最西端の与那国島はそれほどまでに台湾と近い。
「アンノン、速度490ノット、高度1万フィート、進路80度、変化なし。領空まで5マイル」
「了解。通告警告員は、引き続き通告を実施せよ」
国籍不明機をレーダー画面で監視する航跡追尾員の報告に答えた。通告警告員は「了解」と返答し、国際緊急周波数にセットした無線機のヘッドセットに英語で話し始めた。
「Attention! Attention! Attention! Unkown aircraft flying over East Chinese Sea near Yonaguni Island. This is Japan Air Force. You are approaching to Japanese airspace. Take heading west! Take heading west!」
通告警告員が英語、続けて中国語で呼びかける。
「JOCKY15. Target unkown. Position 230/280, heading 80, alt 10. 領空侵犯の恐れあり。地上から通告実施中」
『JOCKY15, roger』
国籍不明機は、台湾の花蓮を僚機と離陸して、しばらく沖合を飛行していた。この段階では、いつもの訓練中の台湾軍機と判断し、警戒を緩めていた。それが突如、一機が針路を変えて、真っ直ぐ西に進み始めた。台湾と日本の防空識別圏は接し合っていて、当該機はあっという間に日本の防空識別圏に侵入した。戦闘機が最大速度を出せば、台湾本土から与那国島まで約三分しかかからないが、那覇基地からだと十五分程度かかる(実際は燃費や積載重量の関係で三十分は要する)。緊急発進はさせたが、間に合わない可能性が高かった。念のためCAPさせておけば良かったと悔やんだが、後の祭りだった。
しかし、台湾軍機は何を意図しているのだろうか。防空識別圏が接している故にやむを得ない緊急発進を命じることはあるが、領空侵犯しますと言わんばかりに堂々と防空識別圏に突っ込んできたことはない。中国やロシアが情報収集のための偵察機、嫌がらせや疲弊を狙った戦闘機・爆撃機を差し向けてくるが、台湾がそれをする理由もメリットも考えられない。ベレンコ中尉のような亡命も、台湾の政治状況からして考えにくい。
「シニア、通告二回目終了」
「了解」
「ターゲットの針路に変化なし! ターゲット、領空侵入!」
航跡追尾員の声で画面に目をやると、オレンジ色のシンボルが領空線の上に表示されていた。
「了解。ターゲット、領空侵入。領空侵犯機と判定された。通告警告員は警告開始」
通告警告員に命じた。
「Warning!! Warning!! Warning!! Unknown aircraft flying over East Chinese Sea near Yonaguni Island. This is Japan Air Force! You have violated Japanese airspace! Take heding west immediately! Take heding west immediately!」
通告と異なり、警告では口調を強めて行う。通告警告員が英語と中国語で呼びかける。
スクリーンに目をやるが、動きは変わらない。シンボルは与那国島に重なりそうだった。
「ターゲット、オンマップ! 与那国島領土侵犯」
「二回目の警告を実施せよ。JOCKY15の現在地は?」
「現在、宮古島の東約135マイルの宮古海峡上空。ターゲットが現針路と速度を維持した場合、会敵予想は1052、宮古島周辺」
「了解。急がせろ」
「警告二回目終了。ターゲットから応答なし」
「ターゲットに変化なし。まもなく与那国島領空を出ます」
航跡が与那国島の上を突き抜け、オレンジ色のシンボルはそのまま直進する。
「シニア、東シナ海で新たな不明機探知しました! 速度540ノット、高度2万フィート。識別員、情報はあるか?」
「スタンバイ・・・・・・ フライトプランに該当なし。識別不能。アンノンと判断します」
「了解。シニア、不明機は針路160度で飛行中。現針路で領空侵犯の恐れあり」
「了解。スクランブル!」
小笠原は迷うことなく緊急発進を命じた。
航跡からしておそらく中国軍機だ。台湾軍機の方に針路を取っているようにも見えた。
「Hot scramble. JOCKY17, 2-F-15, Vector280, climb angels20, contact ROAD RICK, ch2」
管制技術員が透かさず受話器を取って、第9航空団に伝達した。アラート待機していたもう一組のF-15が緊急発進する。
10時50分 石垣島東方沖の上空
松戸は左手で握るスロットルレバーのスイッチを操作し、機首のAN/APG-63(V)1レーダーを長距離索敵モードで起動し、索敵距離を80マイルにセットした。左上の|垂直状況表示ディスプレイ《VSD》に長方形のシンボルが出現した。探知した目標はIFFに応答があれば丸、なければ長方形で表示される。単独目標追跡モードに切り替え、画面左上に表示された速度、その下の高度、右下の方位を確認して報告する。
「Radar contact. 230/85, ALT10」
HUDにはDCからのデータリンクで目標の方向が矢印で映し出されており、それとも一致している。
『That’s your target. 目視確認急げ』
DCの兵器管制官から、探知した目標がターゲットの国籍不明機であると返答があった。
するとRWSがチッ・・・・・・チッ・・・・・・と音を鳴らした。索敵モードのレーダー波が照射されていることを知らせる音だ。こちらのSTTレーダー波を探知して、向こうもレーダーを起動したのだろう。続けて、VSDの画面左下、相手のレーダー波から機種を特定する|NCTR《非協力的目標認識システム》に、B-1Bと表示された。
B-1B戦略爆撃機を採用しているのは米空軍だけだ。中国に示威飛行でもした帰り、嘉手納基地に向かう飛行計画を提出し忘れたか、何かしらのトラブルで嘉手納に一旦降りることにしたのか。B-1Bは北朝鮮に対して示威飛行を行っているし、共同訓練で編隊飛行したこともある。しかし、フライトプランの出し忘れに、IFFの入れ忘れとは迷惑な話だ。
「Roger」と兵器管制官に応答し、B-1Bに向かう。石垣島と宮古島の中間あたりで会敵できるだろう。
眼下に宮古島を見送った数分後。
HUDのデータリンクシンボルが左に大きく傾き、VSDからターゲットのシンボルが消えた。正対していた国籍不明機とすれ違った。視界の左端にほんの一瞬だけ、胡麻粒ほどの機影が入った。
『JAGUAR15. Turn left heading050』
「Roger」
松戸は操縦桿を左に倒し、機体を急旋回させた。兵器管制官の誘導に従って、ターゲットの後方につく。
『JAGUAR15. Targets position 50/13, ALT10, speed 490』
VSDにも再び長方形のシンボルが表示された。
前方13マイル。見えた。まだ胡麻粒程度にしか見えないが、確かにグレーの塗装の航空機が飛行している。
「ROAD RICK, JAGUAR15. Visual contact. これより接近する」
『Roger』
スロットルレバーで速度を調整しながら、ターゲットに近づくが――
B-1Bじゃない。もっと機体が小さく、塗装も淡い。戦闘機だ。
「横に出る。後方を頼む」
『16』
UHF-2で高田に伝えた。一機が対象機の横や前方に出て通告や警告を行い、僚機は対象機の後方に占位して監視しつつ、万が一に備える。撃墜されれば、正当防衛で僚機が反撃を行う。対領空侵犯措置は最も実戦に近い任務だ。操縦桿についたトリガーは、まさに国家の重みである。
対象機の死角となる下方からさらに接近すると、機影がはっきりしてきた。F-15より小型の機体に、単発エンジンと一枚の垂直尾翼。
F-16だ。
日本周辺でF-16を装備しているのは韓国空軍、三沢の在日米空軍第35戦闘航空団、在韓米軍第7空軍、台湾空軍だが、位置的に台湾空軍だろう。
松戸は操縦桿を手前に引く。対象機のやや下方から上昇し、グッと右横に並んだ。真っ先に国籍マークを探す。ロービジで見にくいが、垂直尾翼の下、胴体に太陽のデザイン。台湾空軍で間違いない。
主翼の付け根上部が膨らんでおり、コンフォーマル・フューエル・タンクが取り付けられている。F-16でも最新のブロック70だ。それと同時に、NCTRの誤表示を思い出した。米軍のF-16CM/DMや韓国軍のKF-16のレーダーはAN/APG-68だが、F-16V(ブロック70)はB-1Bと同じAN/APG-83を搭載している。台湾空軍でも大半はまだF-16A/B(ブロック20)で、レーダー等がブロック70相当に改修され始めているが、コンフォーマル・フューエル・タンクを装備した新造のF-16Vは納入されたばかりのはず。NCTRにF-16Vのデータは、まだ記録されていなかったのだろう。
国籍と機種に気を取られていたが、キャノピーに目をやるとパイロットと目が合った。台湾空軍のパイロットは、右手を耳に当てた後、ブーイングのように親指を下向きに立てて振っている。おそらくハンドサインで無線機が使えないと、伝えようとしている。
まずはDCに報告する。
「ROAD RICK, JAGUAR15. 目標の右側、所定の位置に占位した。ターゲット、国籍台湾、F-16V戦闘機、単機、heading080, alt10, speed 485. なお、パイロットよりハンドサインあり。無線機が故障している模様」
『了解。国籍台湾、F-16V、単機、針路80度、高度1万フィート、速度485ノット。現在、多良間島付近の領空を侵犯中。警告を実施せよ』
「Roger. 警告を実施する」
相手が無線を使えないとは言っても、まずは所定の手順を踏むしかない。
「Warning!! Warning!! Warning!! Taiwanese aircraft! Taiwanese aircraft! This is Japan Air Force! You have violated Japanese airspace! Take heading west immediately! Take heading west immediately!」
台湾空軍のパイロットを見ながら、国際緊急周波数で英語と中国語で呼びかけるも『無線が使えない』とのハンドサインが繰り返されただけだった。F-16Vの後方で監視している高田からも『ターゲットの行動に変化なし』と無線が入った。
「警告一回目終了。変化なし。機体による信号を実施する」
松戸はスロットルレバーを少し押して僅かに加速させると、F-16の斜め前に出た。所定の位置とは言っても、相手の戦闘機が背後にいるのは気持ちの良いものではない。
「Follow my guidance! Follow my guidance!」
無線機に言いながら、機体を左右に大きく振る。
機体信号なら無線機に関係ない。どうだ?――
『ターゲットは我に従う意思を示している』
高田からの無線を聞いて、ミラーを見た。F-16Vが機体を左右に振っている。
こちらに従う意思があるのに、なぜ領空から退去しない? 航法ミスでなければ、軍事的意図もないならば、もしかして――
キャノピーの前方には、碧海に大きな島が浮かんでいる。宮古島だ。その手前には、エメラルドグリーンの珊瑚礁に囲まれた伊良部島と下地島が見える。
那覇DC
『ターゲットは我に従う意思を示した。しかし、ターゲットは機体トラブルを申告している。機体外部のチェックで損傷等は確認できないが、安全のため下地島への強制着陸を上申する』
JOCKY15からの無線をモニターしていたDC内が一瞬静寂に包まれた。
「シニア。ファイターが下地島への強制着陸を求めています・・・・・・」
領空侵犯機に対する措置は退去か強制着陸の二択だが、これまで強制着陸は実施されたことがない。強いて言えば、一九七六年に函館空港にソ連防空軍のMiG-25が強行着陸した事例があるのみだ。警告射撃ですら過去に一度しか実施したことがない。
小笠原は頭を抱えた。空自のいる那覇基地ならまだ対応のしようがあるが、本当に機体トラブルなら那覇までは飛べないだろう。いまF-16Vのいる先島諸島で戦闘機が離着陸できるだけの滑走路を備えているのは下地島空港しかない。だが、着陸させたとしても、対応する自衛官がいない。それに、沖縄本島と中国本土・台湾の中間に位置する下地島空港は、かねてより自衛隊の利活用について提案されているが、「屋良覚書」に基づき設置管理者の沖縄県が軍事利用を認めていない。もちろん、緊急時を除くと但し書きはあるが。
「レーダーサイトでスコークは受信していないか?」
「受信していません」
ATCトランスポンダも故障しているというのか。無線機が故障したのなら、スコーク7600を発信するはずだ。
やはり、下地島に降ろすしか方法はない。滑走路は三千メートルあるし、旅客機の就航便数も少ないから影響は最小限に抑えられる。
「SOCに確認する。待機せよ」
航空自衛隊那覇基地・南西航空方面隊作戦指揮所
南西航空方面隊庁舎地下の作戦指揮所へと、司令官の海老野均は降りた。DCよりも一回りは大きなオペレーションルームに入ると、当直幹部の立川防衛部長が早足で出迎えに来た。航空服姿で胸にはウィングマークを付けている。慌ただしく参集した要員達を掻き分けながら説明を聞く。
「台湾空軍のF-16は花蓮を離陸し、しばらく台湾北東の洋上を飛行したのち、与那国島西から領空侵犯。そのまま東に進み、竹富島、石垣島を越えたところでスクランブルしたF-15と会敵。通信機器が故障しているようで、パイロットとは手信号で意思疎通を図っています」
オペレーションルーム最前列中央の司令官席に座る。正面の大型モニターを見上げると、先島諸島を拡大した航空現況表示画面には、オレンジ色のシンボルとそれを囲む緑のシンボル二つが、宮古島の手前で旋回していた。
立川が隣に座り、説明を続ける。
「スクランブル編隊長JOCKY15が緊急着陸の必要があるとして、下地島空港への強制着陸を求めています。また、水門空軍基地を離陸した中国軍のJ-10戦闘機二機が宮古島方面に向け我の防空識別圏を飛行中でして、これについては緊急発進した別の編隊JOCKY17が対応中です。おそらくF-16の動きを察知して、行動を起こしたのだと思われます。訓練を予定していた304飛行隊の二コ編隊計四機をそれぞれの応援に向かわせています。まもなく上がるかと」
モニター左側の情報表示スクリーンには、『1057 JOCKY17 レーダーコンタクト』『1058 ELDER01 那覇基地離陸』等と続々と文字情報が増えていく。
対応すべきことは山のようにある。頭をフル回転させる。
「まずはJOCKY15に下地島管制塔への緊急事態を宣言させろ。F-16を下地島に降ろす。総務部は県と沖縄県警、それに福岡入管那覇支局とCABにも領侵機を下地島に着陸させると大至急連絡。報道対応も準備を。また当面、中国軍の妨害が予想される。防衛部はCAPを含む防空態勢強化の計画を立案せよ。装備部は下地島空港への要員派遣を調整。市ヶ谷の中央監視チームと横田にも報告を上げる。幕僚長が統括し、上級司令部の対応は副司令官、頼みます」
地下に参集した幕僚たちが「了解」と答え、オペレーションルームの各セクションが慌ただしく動き始めた。
立川が椅子をくるりと、こちらに向けた。
「現在、久米島周辺にいるE-2Dを先島諸島まで進出させて支援に回し、待機中のE-2をあげます。ローテが乱れるため、警空団にE-767の支援要請をお願いします」
通常、沖縄本島西方沖で警戒監視をしているE-2C/D早期警戒機を先島諸島まで進出させれば、中国本土を離陸した時点での探知が可能になり、余裕を持った対応ができる。ただ、那覇基地の第603飛行隊には稼働中のE-2C/Dが四機しかおらず、遠方に進出してローテーションを組むのは難しい。そのため、より滞空時間の長いE-767早期警戒管制機の支援が必要というわけだ。
「了解」
「司令官。在日米軍にも情況を共有しましょう。三沢の整備員を応援に出してくれるかもしれません」
輪島幕僚長の進言に同意した。航空自衛隊のF-2戦闘機は、F-16ベースの日米共同開発機とはいえ機体設計は垂直尾翼以外が全て変更されていて、まるで別物だった。F-2を装備する第8航空団の整備員を築城基地から派遣したとしても、F-16の本格的かつ根本的な修理は難しいことが予想された。整備資格が機種毎になっているように、安全上の懸念も生じる。それに米軍の支援を得られれば、台湾空軍の要員を下地島空港に受け入れるという政治的な課題も回避できる。
「現在、9空団の整備員をCHで、宮古島分屯基地の警備班及び増強要員を陸路で派遣準備中です」
装備部長が装備部のデスクからマイクで報告した。
「着陸までに間に合わなさそうだな」
「F-15も一緒に降ろして、DCとの通信を維持させますか?」
「それがベストだな」
立川防衛部長に頷いた。
海老野は卓上マイクのスイッチを入れて「JOCKY15も下地島に降ろして、要員到着までの間LOとして対応させる」と命じた。整備員が到着するまでの機体の保全は、警察や入管には任せられないし、警備班も航空機の専門的な知識はない。警察が台湾軍パイロットと意思疎通できるかという不安もあった。中国語はともかく、パイロット同士なら英語で意思疎通ができるだろう。
「県空港課への連絡完了しました」
報告に来た総務部長に「お疲れ様」と答えるが、険しい表情を浮かべている。
「機体トラブルの緊急着陸だと伝えているのですが、知事に確認しないと判断できないと」
「そんな馬鹿な話」
真っ先に立川防衛部長が不満を露わにした。
「第一、緊急着陸自体は管制塔の了承さえあれば問題ない。県の連中は何を勘違いしているんだ」
立川防衛部長の言う通りだった。赴任した際の前司令官からの引継ぎや沖縄県隊友会との席で、県は知事に萎縮していて判断が遅いと聞いていたが、その通りだった。
「空港課へは、あくまで情報の共有と伝えたのですが・・・・・・」
総務部長が苦笑いする。
「防衛部長の言う通り問題ないのだから、安全第一で降ろすぞ」
「それはもちろんです。県警と入管にも連絡し、そちらも人員の派遣準備を進めています」
下地島西方沖の上空
「Sakishima approach, JOCKY15. Diclaring emergemcy. Request landing at Shimojishima Airport. 緊急時につき、日本語で通信します。現在二機でエスコート中の領空侵犯機に機体トラブルが発生中です。このまま三機で進入したいです」
『JOCKY15, roger. 航空局より連絡ありました。現在、下地島空港は受け入れ態勢を整えています。Contact tower 118.3. お気をつけて』
「118.3. thank you」
松戸はF-16の斜め前で、再び主翼を左右に振った。ミラーを確認すると、F-16も左右に翼を振っている。このまま、何事もなく下地島空港まで着いてきてくれと、念を送った。
「Shimoji tower, JOCKY15. Approaching DIANA, Runway17」
『JOCKY15, Shimoji tower. Continue approach Runway17』
「Roger. Continue approach. JOCKY15」
徐々に高度を降ろしていくと、F-16も続けて降下する。眼下に広がるコバルトブルーの海がキラキラと夏の日差しを反射している。やがてウェイトポイントDIANAを通過した。
「JOCKY15. Over DIANA. 台湾軍機をエスコートしたまま進入。ゴーアラウンドして、台湾軍機の着陸を確認。その後、右旋回してJOCKY15・16の順で着陸します」
『了解しました。 JOCKY15. Runway17 cleared to land. Wind 160 at 7. Guiding Taiwanese aircraft with light gun signals』
「Runway17 cleared to land. JOCKY15」
目の前の海は、ターコイズブルーからエメラルドグリーンへと変化し、透明度が増してきた。珊瑚礁に囲まれた陸地に近づいている証だった。正面の滑走路左手に見える管制塔が、|緑色の光《STEADY GREEN》をこちらに向けている。無線機が故障した航空機に「着陸許可」を示す指向信号灯である。
F-16は高度を下げながら、ギアダウンした。意図は伝わっているようだ。松戸と高田はF-16の左右上方で挟み込むようにして飛ぶ。こちらもギアダウンして、スピードブレーキで減速する。
沖縄県下地島 下地島空港エプロン
久居大智は最新のトヨタ・クラウン220系パトカーを、空港事務所職員の誘導で管制塔の前に停車させた。広大なエプロンとその奥には三千メートルの長い滑走路。
警ら中に「領空侵犯中の台湾軍機が機体トラブルのため、自衛隊機のエスコートで下地島空港に着陸する」と一本の無線が入ったのが五分前。指示通りに空港まで来たは良いが、そんな対応の教範も前列もなかった。容疑は入管法と航空法の違反になるらしいが、パイロットに手錠をかけるのだろうか。
久居が回転警告灯をつけたまま運転席から降りると、航空局職員が駆け寄って来る。
「まもなくかと思います。北側から着陸します」
そう言って、右手の空を指差した。
遮るもののない一面のコンクリートからの照り返しに目を細めながら、遠くの空を見た。目を凝らすとまだ小さな機影が三つ見えた。
振り返ると、助手席のドアを開けたまま八尾巡査部長が首を傾げた。
「俺には見えん。老眼さ」
八尾巡査部長はぐるりとドアの後ろ側に回ると、車載通信系(基幹系)の無線機のハンドマイクに手を伸ばした。
「宮古島三から沖縄本部」
『沖縄本部です。どうぞ』
八尾巡査部長が通信司令室に報告をあげている。
「二七九事案について、現着。航空局の担当者と接触済です。当該航空機にあっては、既に着陸体制にある模様。どうぞ」
『沖縄本部、了解。受傷事故防止に留意の上、パイロットの身柄を拘束し、現場の保全に努めよ。なお身柄の拘束にあっては、外交問題に発展せぬよう十分に注意されたい。以上、沖縄本部』
受令機から伸びるイヤホンに飛び込んできた指示に呆然とした。八尾巡査部長の方に振り返る。
「久居! 英語か中国語できるやんなー?」
冗談か本気なのかわからない。
「いやいや、無理ですよ!」
パトカーに向かって声を張り上げた。
エンジン音が近づいてきた。音のする北の空を再び見る。
戦闘機が三機。中央を飛んでいるのが台湾軍で、その左右に見える一回り大きい二機が自衛隊か。
「このまま着陸するそうです!」
航空局の職員が特小無線機を片手に、戦闘機に負けじと声を張り上げた。
F-16は脚を展開すると、両脇のF-15から離れるように高度を下げる。F-15二機は高度を維持したまま飛行し続け、やがて滑走路に接地したF-16を追い越して行った。
久居は首を持ち上げて、空を見上げた。
ゴオォ――
上空を通過した二機のF-15の発する轟音が、空気と地面を振動させている。久居の身体にも響き渡った。
久居が視線を滑走路に戻すと、着陸した戦闘機は機首を上げたまま滑走し、徐々に減速していく。航空局の空港用化学消防車が滑走路脇で待機し、機体を出迎えていた。
一帯が静かになると、八尾巡査部長はハンドマイクを手に話し始めていた。
「宮古島三から沖縄本部」
『沖縄本部。どうぞ』
「台湾軍所属とみられる戦闘機がいま着陸した。どうぞ」
『沖縄本部、了解』
やがてF-16は、ハンドリング会社の誘導員に従ってエプロンに進入し、停止した。その後ろでは、ぐるりと旋回して戻ってきたF-15が二機連続で着陸した。
「エンジンが切れるまで近づかないで下さい」と、ハンドリング会社の職員に注意され、久居はその場に踏みとどまった。
英語なんか話せないのに、どうやって警察署まで連れて行けば良いだろうか。身振りで何とか伝わるだろうか――
そんなことを考えながら、エンジン停止を待った。
耳を劈く甲高いエンジン音は、ギュウゥン――と音を立てたかと思うと、徐々に静かになっていった。
キャノピーが開く。パイロットはヘルメットを脱いで立ち上がると、機体の曲面をするりと滑るようにコックピットから降りた。機体の上を慎重に歩き、主翼からピョンと飛び降りた。振り返って機体をその場で見回した後、パイロットはこちらの方へ歩き始めた。
誘導員をチラリと横目で見てから、八尾巡査部長と共にパイロットのもとへ駆け寄る。
パイロットは立ち止まると、手に持ったヘルメットを地面に置いて両手を上げた。
何と声をかけるべきか悩みながら近づき、諦めて日本語で声をかけようとした時だった。
「台湾空軍の劉慷仁大佐です。ご迷惑おかけします」
パイロットは流暢な日本語で言った。
驚いて八尾巡査部長と顔を見合わせた。
「日本語を話せるんさね?」
八尾巡査部長が尋ねると、劉と名乗るパイロットは首を縦に振る。
「日本に留学していました」
「では劉大佐。恐縮ですが、警察署までご同行頂けますか?」
標準語で話そうと努めているのであろう、ぎこちなく八尾巡査部長が尋ねた。
「もちろんです。全て指示に従います」
カクヨムにも同作を投稿しています。