第3話 ―竜兮竜兮― ⑲
「一つ、アイロン爺さんの遺志は、『一目竜が生き延びていたという事実を隠し通すこと』にあった」
「二つ、かつてオーシたちが一目竜の頭蓋骨を村に持ち帰ったのは、その特徴的な形状を見れば、一目竜を討ち取ったことが文字通り『一目瞭然』だったからだ」
「三つ、一目竜という種族は、とにかく数が少ない」
ナツメは、そこまで要因を数え上げてから、
「つまり、首さえ処理してしまえば、ここで死んでいるのが一目竜だと分からなくなる。そうすれば、最低限ではあるけれど、爺さんの遺志を達成することができるんじゃないか……そう思ったわけさ」
「ああ、納得しました――」
ジーンが、どこか満足げな表情で頷く。
「確かに、絶滅危惧種である一目竜の標本など、ほとんど存在しないでしょう。実際、鑑識担当の魔道士も、その死体を一目竜だとは断定できませんでしたからね。いやいや……お見事です」
「そいつはどーも。で、そうと決まれば、あとは行動あるのみってね。運が良かったのは、ここらで林業が盛んだったってことだ。湖まで来る途中に樵の小屋を見かけていたから、ちょっくら忍び込んでバカでっかい鋸を拝借……それで爺さんの首を切り落とした」
ジーンは思わず目を見開く。以前、彼自身が語ったように、竜の鱗や骨、そして皮膚は、どれをとっても強靭な素材の代名詞である。一方、鉄は魔道と親和性が低いため、竜骨を鉄器で切断するなど、常識的にはほとんど不可能なことなのだ。
「なんとまあ……そこらへんに転がっていた鋸で竜の首を切断したのですか!?」
「ああ、さっきユウちゃんも言ったみたいに、そういう魔道は得意だから」
ナツメは、こともなげにそう応じると――
「それから、肉をできるだけ削ぎ落として、脳味噌を掻き出して、下顎の骨を外したあたりで、なんとか一人で引っ張れるくらいの重さになった。あとは、近くにあった木材運搬用の筏に頭蓋骨を載せて、湖の真ん中あたりでドボン。ついでに、解体に使った鋸も一緒にね。そうそう、骨って思ったより重いから、水に沈むって知ってた?」
押し寄せる生々しい表現の波に、ユースケは思わず顔をしかめた。
ナツメはそれを知ってか知らずか、フンと鼻を鳴らす。
「あたしは、死体は単なる物質にすぎないって教育されてきたから、案外割り切って作業ができたけどさ――」
一瞬だけ、声が落ちる。
「それでも、まだ仄かに温かさの残る友達を解体するってのは、なかなかにハードな体験だったよ」
「……心中、お察しいたします」
ジーンが頭を垂れ、厳かにそう告げた途端、まるでスイッチが切り替わったかのようにナツメの口調が一変する。
「いやあ、それにしても大変だったぜ。あんなに大きな生き物を解体したのは初めてだったから、余所行きの服を台無しにしちゃった。あ、でも一つ発見。竜の生き血か何かには、どうも虫除けの効果があったみたいで、思ったより刺されなかったんだよねえ。いっひっひ!」
彼女は、いかにも軽薄そうに言い放つと、ソファーから立ち上がった。
「あたしの話は、これでおしまい。これ以上は何一つ話すつもりはないから。
さあさあ、とっととこの部屋から出て行ってよ。おつかれさん」
気が付くとジーンは、ナツメの手によって部屋の外につまみ出されていた。




