表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第3話  ―竜兮竜兮―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/79

第3話  ―竜兮竜兮― ⑮

 ナツメの「解答編」は続く――


 一目竜っていうのは、普通の竜とはちょっとだけ毛色の違う種族で、生き残っている数もすごく少ないんだってさ。アイロン爺さんは「この世界に、もう自分しか残っていないのではないか」って言っていた。

 ちなみに、竜は二千年くらい当たり前に生きるらしいんだけど、アイツの齢は「二千と五百を超えたあたりで、数えるのをやめてしまった」だそうで……その言葉を信じるなら、二百年前の時点ですでに年寄りだったのは間違いないだろうね。


 で、そんな二百年前の話なんだけどね。

 老いぼれドラゴン、最近は気力も体力もめっきり衰えてきた。けれど助けを求められるような親戚もご近所さんもいない。しょうがないから得意な幻術を駆使して、なんとか人間から家畜を掠め取って暮らしていたんだと。


 そんなある日、自分を退治するためにオーシと名乗る騎士がやってきた。アイロンは、老いぼれたとはいえ竜の一族、並の武芸者程度であれば楽勝だったろうさ。


 ところが、運の悪いことにオーシは正真正銘の英雄様だった。

 頼みの魔道は次々と打ち破られ、竜の喉元にはついに白刃が突き付けられた――



                § § §



 ●日時――9月12日 17:00頃

 ●場所――イクドモ村 「オーシ記念館」内 館長室


 アイロンは、へべれけになりながら語り続ける。


「……そこでオーシは尋ねた。『お前は、なぜ人間を困らせるようなことをする』

だから私は言ってやった。『自分は独りぼっちで、年老いて、生き延びるにはドン臭い家畜を狩るしかなかったのだ』と。そしたらオーシの奴、あろうことか私の境遇に同情し始めてな。『話はわかった。ならば、私と共に村人に謝りにいこう。そうすれば、命までは取られないだろう』などと言い出しおった」


 ナツメは、おつまみのピーナッツを口に放り込むと、素朴な疑問をぶつけた。


「二百年前は、謝れば許してもらえるような時代だったの?」

「んなわけあるかい! 今よりずっと家畜は貴重で、牛盗人や馬泥棒は裁判抜きで即刻縛り首よ。 おまけに私は竜、人間からしたら怪物だぞ!? あまりの馬鹿馬鹿しさに『もういいから、とどめを刺してくれ』と言ったら、あ奴め『それはいけない。このままでは、お前が救われないままではないか』と涙をこぼし始めた」

「うわあ……そりゃキツいわ……」

「いやあ、あの時は困った困った……要するに、オーシと言う男は、救いようがないほどの正直者でお人よしだったわけよ。そんな奴に宮仕えなぞ勤まると思うか? ましてや、騎士として荘園の経営など夢のまた夢だろうよ。だから奴は【竜殺し(ドラゴンスレイヤー)】と呼ばれてしかるべき腕を持ちながらも、一か所に留まることすらできなかった――」


 老いたる竜の昔語りは、酒が進むにつれ、次第に熱を帯びてきた。


「そこでオーシは幾つかの代案を出してきたのだが、そのどれもが “自己犠牲” なのにはもう呆れ果てた。つまり、村人と私の両方を幸せにするために、オーシ自身が犠牲になると言うものだな。『村に補償する家畜の代金を稼ぐため、オーシが死霊術の被検体になればいい』とまで言い出したときには、もう……」


 アイロンは、ぐっぐっぐっと杯をあおると――


「そんなもん、受け入れられるわけないだろうが! 私にも矜持があるのだぞ!?

……しょうがないので、奴にひとつアイデアを授けてやった。それは『私の魔道で一目竜の死体の偽物を作り、オーシがそれを持って村に凱旋する。私は、どこか別の場所に移り住む』というものだ。これなら、村人は平穏を得、オーシは栄誉を得、私も生存の道を得ることができる」

「たぶんだけど……オーシは納得しなかったんじゃないの?」

「御明察! お主もだいぶオーシのことがわかってきたようだな」

「すぐそばに、似たようなのがいるからね。理解は早いよ」


 その返事に、アイロンは「お互い苦労するよなぁ」と嬉しそうに笑った。


「それからがまた大変だったのだ。まずはオーシの『人々を騙すのはどうにも嫌だ』という駄々を説き伏せることから始まり、奴が『結局、一目竜おまえは独りぼっちのままではないか』と鼻水を垂らして泣き出す頃には、私はもう疲れ果てていた。それでも私と奴は三日三晩、相談に相談を重ね、ようやく妥協点に達した――」

 

 かくして孤独な一目竜は、オーシの相棒ナルンとして生きる道を選んだのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ