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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第3話  ―竜兮竜兮―

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第3話  ―竜兮竜兮― ⑭

「魔道士アイロン――」


 ナツメの回想に、思わずジーンが口をはさんだ。


「やはり彼は、竜の眷属だったのですか」

「そのとおり。だから、ジーンさんの推測はだいたい合っていたワケ」

「彼も一つ目……ということは、一族の遺骨を取り戻すために今回の事件を?」

「待ちねぇ待ちねぇ。そこらへんは、今からちゃんと説明するからさ」


 そう言うとナツメは、ソファーの上でどっかり胡坐を組んだ。


「それからが大変だったんだから。意識が遠くなったアイロン爺さんに、部屋にあったキツい蒸留酒を気付け代わりに飲ませたりしてさ――」



                § § §



 ひとまず落ち着きを取り戻した老竜は、その一眼でナツメをしかと捉え、言った。


「まさか、我が【幻影投射】を見破るほどの魔道士が来てしまうとは……まったく誤算であったわ」


(なんだか、最近も似たようなセリフを聞いた気がするなあ)


 そんなことを思いながら、ナツメは竜にぐいと顔を近づける。


「あたしが何のためにここに来たかは、知っているよね」


 凄味を効かせた声に、アイロンは力なくうなずいた。


「で、今回の事件は、アンタが犯人ということでいいのかな?」

「そうでもあるし、そうでもないと言える」


 アイロンは、それきり口を開こうとしない。

 ナツメはふと、()()()()()()()()()()()()()()のことを思い出した。それを鞄から取り出し、アイロンに突きつける。


「これ、何だかわかる?」


 一目竜はそれを大きな瞳で見つめていたが、すぐに見当がついたようで、たちまち顔色を変える。


「どうやってそれを持ち出した? まさか、あの箱を打ち壊したのか!?」

「そんなことをするまでもない。ただ、()()()()()だけだよ」


 突如、アイロンの瞳が赤く煌めいた。ナツメは反射的に警戒したが、すぐにそれが魔道的な “見” だろうと察して、させるがままにしておいた。


 程なくして、瞳の色は尋常に戻り、そして――


「おお……何もない……何もない……まるで虚無を覗き込んでいるようだ!

お主ほどの魔道士が、今までに世に現れることなく、いったいどこに隠れていた? なぜこんな片田舎の、取るに足らぬ事件に首を突っ込む?」

 

 さすがのナツメも、この流れで「生活のため」と答える気にはなれなかった。

 そんな時は、黙るが上策。


「……ノーコメント。で、どうする? 事件のこと、話してくれる気になった?

まあ、話してくれないなら、それでもいいよ。アンタを犯人として村長に突き出すだけのことだからさ」


 その脅しは、口にしたナツメにとっても意外なほど効果があった。

 アイロンは、たちまち反抗する意思を失い、ぽつりぽつりと事件の経緯を語り始めたのだった。



               § § §



「すみません、さきほどから気になっていたのですが――」


 回想が一区切りついたところで、ジーンが尋ねた。


「ナツメ所長が展示ケースの中で見つけたものは、一体何だったのですか?」

「ああ、それはね……」


 ナツメは自分のデスクの引き出しを開け、何かを取り出す。

 見れば、それは長さ20㎝ほどの石塊だった。


「これ、アイロン爺さんの牙なんだって」

「なぜ、そのようなものがケースの中に?」

「爺さんはね、自分の牙の一本に【幻影投射】の魔道をかけて、一目竜の頭蓋骨に見せかけていたんだってさ。そうすると、牙が魔力バッテリーの役目を果たして、高度な幻影を長時間維持することができるんだと」


 一瞬、ジーンは怪訝そうな表情を浮かべたが、それはすぐに驚愕へと変わる。


「そうしますと、あの展示ケースの “鍵がない” という性質上、中に納められていたのは “最初から一目竜の頭蓋骨の偽物であった” ということになりませんか?」

「そのとおり。ずっと昔から皆がありがたがっていたのは、アイロン爺さんの牙の一本だったわけだ。まあ、どっちも竜の一部だからそう変わりないでしょ」


 ナツメはそう言って「わっはっは」と笑うが、ジーンは依然として真剣な表情を崩さない。


「では、英雄オーシが退治した一目竜の首は、どこへ消えたのでしょう?」

「そもそも、オーシが最初に村へ持ち帰った首こそが、この牙で見せた幻影だったそうだよ」


 ジーンは必死に思考を巡らせる。


「……そうなると、一目竜が退治されたという証拠が無くなってしまう。いやいや、ちょっと待ってくださいよ。むしろそれは、一目竜が生存していることを隠すための行為に他ならないのでは?」


 その問いかけに、ナツメは少し考えるようなそぶりを見せてから、


「ここらでネタバレしてしまうと、魔道士アイロンは二百年前に村を襲った一目竜であり、オーシの相棒の魔道士ナルンであり、その後、村に常駐した歴代の魔道士たちでもあった――ということなんだ」


 ジーンの口から、「なんともまあ……」という感嘆の声がこぼれ落ちる。


「一目竜は英雄オーシを何らかの手段で篭絡した後、高度な魔道で人間に擬態し、

二百年の昔から村人たちに紛れていたというわけですか」


「だいたいそんな筋書きだね。でも、『一目竜が英雄オーシを篭絡した』ってのは

正しくない。……まあ、なんというか、英雄オーシにとっても一目竜にとってもイレギュラーな事態が起きていたんだな、これが」

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