第3話 ―竜兮竜兮― ⑬
ナツメはそれを聞くと、驚いたように目をしぱしぱさせ、次の瞬間、堰を切ったように笑い出した。
息が苦しくなるまで笑い、目尻に浮かんだ涙を指で拭うが、それでもなお笑い続ける。
「うはは、なるほど、とんだ悪徳警官もいたもんだ。いや、ひっでえひっでえ」
ジーンは、さきほどの自分の発言が、だんだん恥ずかしくなってきた。
「……もういいでしょう、そんなに笑わんでください」
それでも、ナツメは上機嫌な様子を崩さない。
「あんた、けっこうロックなおまわりさんだったんだね。そこは気に入った!」
「はあ、それはどうも……」
「捜査力とか推理力とかも、大したもんだよ。でも、そのせいで中途半端な『真相』に到達されるのはすごく面白くない。オーシのためにも、アイロン爺さんのためにもね。いいよ、話してやるよ」
§ § §
●日時――9月12日 15:00頃
●場所――イクドモ村 「オーシ記念館」内 館長室前
展示室をひととおり調べ終えたナツメは、特段の成果も得られないまま、館長室のドアをノックした。
「どうぞ、お入りください」
その声は、深い深い年輪を感じさせる、しわがれた声であった。
促されるまま室内に足を踏み入れると、声の主は穏やかな調子で名乗った。
「ようこそいらっしゃいました。私がここの館長を務めているアイロンです。
まあ、館長といっても、体のいい便利屋ですがね。はっはっは」
「……ああ、どうも。ナツメ・カナワと申します」
アイロンはナツメに席を勧めると、愛想よく彼女に問い掛ける。
「村長から伺っていますよ。なんでも『魔道探偵』をなさっているとか。聞きなれないお仕事ですが、どのようなことをされているのですか?」
「なんと言いますか……私も便利屋のようなものです」
それを聞くと、アイロンは愉快そうに大きな目を細めた。
「そうですか。それでは便利屋どうし、仲良くしていただけるとありがたい――」
そこで彼は、ナツメが自分をまじまじと見つめていることに気が付いた。
「おや、あなたのように美しい方に、そこまで見つめられると照れてしまいますよ。何か気になることでも?」
己の無礼を悟ったナツメは、わずかに頬を赤らめて答えた。
「これは失礼しました。その、あなたのような方にお会いするのが初めてだったもので、驚いてしまって。それに、とても体調が悪そうにお見受けしますが……大丈夫ですか?」
アイロンは内心驚いて、部屋の隅に置かれた姿見へと視線を走らせた。
そこには、二十代と言っても十分に通用するであろう、血色の良いハンサムな青年が映っていた。
「おや、そのように見えますか? よくご覧ください。どうです、健康そのものでしょう。医者でもある私が言うのだから間違いなし。……まあ、我ながら『酒は少し控えなくては』と思っていますけどね」
そう言って、彼は朗らかにナツメに笑いかけた。
しかし、ナツメは意外な言葉を返してきたではないか。
「これは重ね重ね失礼。なにぶん、その……あなたのような “種族” の方とお会いするのが初めてだったもので。つい人間の基準に当てはめて考えてしまいました」
アイロンは立ち上がり、今度は姿見の正面に立って、己の姿をしかと覗き込む。
――映っているのは先程と同じ、人間の美丈夫の姿であった。
「なにかの御冗談ですかな。ちなみにナツメさん、あなたには私がどのような姿に見えているのですか?」
ナツメは少し黙り込んでから、申し訳なさそうに答えた。
「正直申し上げて、その、えらく年を取った一つ目のトカゲ男に見えますが……」
アイロンは、驚愕のあまり床にへたり込んだ。




