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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
プロローグ
7/42

慮外の客 ①

慮外りょがい

 (一)思いのほか。意外。

 (二)ぶしつけ。無礼。



                § § §



(やれやれ、おかしなことになってしまったわい……)


 自慢の髭の先をいじりながら、心のなかでそう呟く伊達男。

 彼の名はアルバート。「グアン兄弟社」という()()()()で中間管理職を務めている。今は二人の部下を率いて、大公ブーザックの隠し遺産を追っていたはずが、いつのまにか怪しい二人組と対峙することになってしまった。


(それにしても興味深い……。あの少年の服装もなかなか洒落ていたが、新手の女のセンスもこれまた刺激的ではないか。いったいどこのデザイナーの意匠であろう? ぜひ聞いてみたいものだが――)


 飄々とした声が、そんなアルバートの思考を断ち切った。


「ね、ね、アルバートのとっつあん、どうする? あいつらも処分しちゃう? だったら手足を落としておいたほうがいいんじゃない。あの女の方、かなり厄介だよ」


 声の主はドミニィ・フロマンタン。

 天使のような容貌を持ち、多士済々の「グアン兄弟社」の中でも屈指の使()()()なのだが、とにかく性格がよろしくない。


「アホッ、だったらさっきの時点でグレゴリィごと吹き飛ばしておるわい。そもそも、この場所はあんな軽装で来られる場所ではないぞ。何か得体の知れないことが起きておるようじゃ。慎重にいこう」


 アルバートは、事あれば暴走しようとする部下を制止してから、女武闘(ナツメ)家と少年ユースケに声をかけた。


「おーい、そこのお前さんがた。こっちはアンタらに対して敵意は持っておらんぞ。もしその気だったら、始めから問答無用でドでかい一撃をぶち込んでおったはず。

……それくらいわかるじゃろ? とりあえず剣を収めてはくれんか」


 少年の方が、女武道家の方を見て何か言っている。しかし、女武道家はこちらに意識を集中させ、まったく揺るがない。


お師匠(アルバート)、どうも言葉が通じていないようですぜ。あと、ドミニィ、あのねェちゃんを挑発するのは止めろ。テメエの害意に反応して構えてるんだぞ、あれは」


 おさまりの悪い蓬髪を掻きながらそう言ったのはガリレオ。ドミニィとは腐れ縁というやつで、その愚行を抑えつけることができる数少ない存在であるため、揃いでアルバートの元に付けられている。


「ガリレオごときに言われなくてもわかってますぅ。まあ、戦闘禁止ならこのまま我慢比べってのも悪くないかもね。口の中で飴玉をとかすように、奴らの精神削ってやろうよ。うふふ」


 実に楽しそうなドミニィの様子を目にして、アルバートが溜息をつく。


「ふむ、排除するってわけにはいかんが、このままじゃ時間ばかりかかりそうだの。しょうがない、【催眠】……いや、それだと我々がキャンプまで運ぶことになるな。ええい、ドミニィよ、あまり好みではないが【人心掌握】をやつらにかけて、キャンプまでついてくるよう言いきかせてくれ」

「えー、個人的には【魅惑】とか【傀儡】のほうが得意なんだけど」


 ニヤニヤしながら上司に盾突くドミニィ。そのふらちな態度をガリレオが咎める。


「ろくでもないことになるのが目に見えているんだよ、ン? 黙ってお師匠の指示に従え。いいな?」



                 § § §



 ところで、アルバートとドミニィ、そしてガリレオは、この世界において【魔道士】と呼ばれる存在である。

 【魔道士】は、この世界の万物に循環しているエネルギー【魔力】を媒体として、自他に様々な影響を及ぼすことができる。この手段を【魔道】という。先ほど、アルバートとドミニィの会話に出た【人心掌握】とか【魅惑】とか【傀儡】とかいった単語は、すべて【魔道】である。


 ――この物語を読み進めるに当たっては、以上のことさえ知っておいていただければ、それで十分だ。以下は補足であるので、読み飛ばしていただいても構わない。


 さて、魔道には様々な種類がある。参考までに、【人心掌握】と【魅惑】、そして【傀儡】の違いを解説してみよう。

 まず、【人心掌握】とは「対象に尊敬の念を抱かせ、協力的にさせる」魔道であり、相手が見知らぬ者であっても、敵対していても、無理のない願いであれば従わせることができる。ただし、対象の倫理観や使命に反する提案・命令をした場合には、術が効かないことがほとんどである。

 次に【魅惑】、これは「対象を愛の虜とし、術者の命令を聞き入れさせる」魔道であり、対象は自分なりに最大限その命令に従おうとするが、本人の能力の限界を超えるような命令は遂行されない可能性がある(例えば、「空を飛べ」とかはそもそも一般人には不可能だし、「死ぬまで息を止め続けろ」といったようなことも非常に困難である)。

 最後の【傀儡】は「対象の体を、術者の思うがままに動かす」ものである。大体の場合、対象の意識は断ち切られ、筋肉の限界を超える動きを強いることも可能であるが、その衝撃に耐えられず廃人となってしまうことも多い。


 なお、魔道士組合は、術者が無闇に魔道を使うことを魔道規範(魔道士の守るべきルール)で戒めている。具体的に言えば、先程名前の挙がった【魅惑】は、魔道規範の細則により準禁術(正当防衛等の理由がない限り使用禁止)に分類されているし、【傀儡】に至っては禁術指定(使っちゃダメ! ゼッタイ!)である。これを守れない者には、魔道士組合によって制裁が加えられるであろう。


 ちなみにアルバートは【人心掌握】【魅惑】【傀儡】をすべて使用することができない。理由は「魔道で人の心をもてあそぶのは無粋だから」とのこと。ただ、本気で学べば【人心掌握】【魅惑】くらいは使うことができるようになるだろう。ガリレオは【人心掌握】【魅惑】【傀儡】をすべて使うことができるが、出力の調整が苦手なため、ドミニィに役割が回ってきたというわけだ。

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