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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第3話  ―竜兮竜兮―

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第3話  ―竜兮竜兮― ⑪

 この奇襲には、さすがのナツメも虚を突かれた。


「え、なに? もしかして、あたしが疑われてンの!?」

「いえいえ、とんでもない。あくまで形式的な質問にすぎません。関係者全員への聴き取りが義務づけられておりまして、はい。どうかご協力を、はい」


 ジーンは、ナツメの返事を待つそぶりすら見せず速攻を仕掛ける。


「ではナツメ所長、9月14日午前にイクドモ村を出た後、どうされましたか?」

「どうって……すぐにこの事務所に帰ってきたよ。仕事も失敗していい気分じゃなかったからさ」

「いつ、この事務所に到着しましたか?」

「ええっと、9月……15日の夕方……くらいだったかな。最近は日が沈むのも早いでしょ。だから14日は早めに宿を取って、15日はその宿で昼過ぎまで不貞寝してたから……」


 ジーンは、間髪入れずユースケに問いかける。


「ユースケさん、それで間違いありませんね」


 急に話を振られたユースケはどぎまぎしながら、


「あ……はい、それくらいだったと思いますけど」

「ナツメ所長、9月14日の晩はどちらに宿泊されましたか?」

「来た時とは別のホテル……街道沿いの……なんて名前だったかな。ごめん、忘れちゃった」

「そうですか、それで十分ですよ。御協力どうもありがとうございました」


 実はこのとき、警察ジーンは既にナツメの動向を確認し終えていた。

 ジーンは、メモを見返しつつ自問自答する。


(確かにナツメ所長は、9月14日の晩、往路で用いた宿に泊まってはいない。

ただし、村から新東京に至る街道沿いのホテル全てに泊まった形跡が無い)


(宿帳に記載が無いということは、偽名で泊まった? いやいや、彼女は目立つ。両肩に鳥型の魔道具を乗せたそのファッション・スタイルが、宿の受付の記憶に残らぬはずがない)


(ナツメ事務所周辺の証言によれば、ナツメ所長がここに戻ったのは9月16日の昼過ぎ。本人の証言とはおよそ1日のタイムラグがある)


(その間、どこで何をしていたか……。彼女が素直に話すとは思えない)




 ジーンは、応接間にあった黒板に目をつけた。


「失礼、これを少し使わせていただいても?」


 許可が下りると、白墨でさらさらと事件の要点を書きだす。


-----------------------------------------------------------------------------------

【第一の事件】 イクドモ村における一目竜の頭骨消失事件

・誰が、いかなる手口で頭蓋骨を盗み出したのか

・頭蓋骨は、今、どこにあるのか


【第二の事件】 魔道士アイロン氏の失踪事件

・アイロン氏は、なぜ村からいなくなったのか

・アイロン氏は、現在どこにいるのか


【第三の事件】 湖岸で発見された首無竜の遺骸事件

・竜はどこから来たのか

・誰が竜を殺したのか

・なぜ、首を持ち去ったのか

-----------------------------------------------------------------------------------


 ジーンは、指に付いた白墨の粉を払い落とすと、言った。


「さて、わたくしジーン・ウェンは、今回の一連の事件がアイロン氏とナツメ氏の共犯によって引き起こされたものだと考えています」

「……ハナからそう言えば良いんだよ。回りくどいマネしちゃってさ。それに、探偵が犯人とか、いまどき流行らないんじゃないの?」


 動じるそぶりも見せずに嫌味を飛ばすナツメ。しかしジーンもまた、それに応じることはなく――


「まず、【第一の事件】。手順はこうです。9月9日の夜、オーシ記念館が閉館した後、アイロン氏が【幻影投射】の魔道をケースの周囲に展開しました。これにより、頭蓋骨はケースの中にまだ存在するにもかかわらず、外からは消えたように見えたのです。その後9月12日、ナツメ所長がケースの中に入り、頭蓋骨に【圧縮】の魔道をかけて小さくし、鞄に入れて持ち出しました」


「あの、ちょっといいですか」


 声の主はユースケだった。


「【圧縮】はそんなに都合のいい魔道じゃないはずです。巨大な頭蓋骨を鞄に入れられるくらいまで無理やり縮めるなんて、至難の業ですよ」

「ナツメ所長の技量なら、不可能ではないと思いますが」


 (ユースケたちとしては)困ったことに、ジーンはナツメを「桁外れの魔道士」と信じて疑う気配すらない。

 ユースケはよっぽど「僕たち魔道なんかこれっぽっちも使えましぇ~ん」とカミングアウトしてやろうかと思ったが、それは最後の手段だと思いなおした。

 縁もゆかりもないこの異世界で生きていくために、「桁外れの魔道士」という評判は何にも代え難いものだったからだ。

 やむを得ず、ユースケは別の方面から反論を試みる。


「……それに、もう裏も取っていると思いますけど、今回ウチのナツメが村に呼ばれたのは、『グアン兄弟社』のアルバートさんの紹介によるものです。つまり、事件に関わったのは本当に偶然なわけで」

「そうですね。ナツメ所長は “偶然” そういった形で介入することになりましたが、声が掛からなかったとしても、旅行者として村を訪れればよいだけのことです。アイロン氏という協力者がいる以上、記念館に忍び込むのも簡単なことでしょう」


 ユースケは、さらに食い下がる。


「もうひとつ、仮にイクドモ村の副村長が『グアン兄弟社』と契約を結べていたとして、彼らがナツメさんより先に村に到着していたら? あるいは、村長が初めから警察を呼んでいたら? 専門家の目は節穴じゃない。並の魔道士の【幻影投射】なんて簡単に見抜くはずです。そもそもの計画自体が、ずいぶんと綱渡りじゃないですか」

「おそらくアイロン氏は、()()()()()()()()()に自分の魔道が破られることはないという自信があったのでしょうし、実際、それだけの力量を備えていたはずです」

「……どういう意味ですか?」


「湖で見つかった首の無い竜――あれこそがアイロン氏の成れの果てだったのではないでしょうか」


 ユースケは、ごくりと喉を鳴らした。

 ジーンはまるで事実を語るかのように、淡々と話を進める。


「だとすれば、【第二の事件】にも説明がつきます。アイロンと呼ばれた魔道士は、村のシンボルを盗んだがために村から逃亡し、首を落とされたがために、もうこの世にはいないのです。アイロン氏とナツメ所長は、頭蓋骨を盗み出したのち、村の北東にある湖に向かいました。そこで何があったのでしょう? 二人は仲違いしたのか、あるいは何らかの儀式か……ともかく、ナツメ所長はアイロン氏を殺害し、首を刎ね、再び【圧縮】の魔道をかけて持ち去った――以上が、今回の三つの事件のストーリーとなるわけです」

【補足】 ジーン・ウェン捜査官の主張に基づく時系列

9月 9日:夜、アイロンが展示ケースに【幻影投射】で細工。

9月10日:頭蓋骨の喪失が判明(このとき、頭蓋骨はまだケースの中)

9月12日:ナツメが展示ケースを調査→頭蓋骨はこのとき持ち出された

9月14日:朝、ナツメ撤退

9月14日:昼前、アイロン出発

9月14日:夕刻、二人は湖へ到着? アイロン殺害?

9月15日:ナツメ、事務所に帰還(ナツメ証言)

9月16日:ナツメ、事務所に帰還(周囲の証言)

9月19日:竜の死体発見

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