第3話 ―竜兮竜兮― ⑧
「さて、あたしが話せることはこれが全部。もういいでしょ」
「まあまあ、そんなことを言わず、もう少し付き合ってください。名探偵の推理をぜひともお聞きしたいのですよ」
ジーンは、隙を見ては話を切り上げようとするナツメをなだめすかし、どうにかこうにか席に押し戻した。それから、大急ぎでメモ帳の「9月14日」のページを探し当てる。
「ここまでが、第一の事件『一目竜の首喪失事件』のあらましでした。続きましては第二の事件『アイロン氏失踪事件』です」
穏やかでない単語が出たにもかかわらず、ナツメは仏頂面で黙り込んでいる。
(……おやおや、朝まで酒を酌み交わした相手が失踪したというのに、ずいぶんとそっけない反応じゃありませんか)
喉まで出かかったその言葉を飲み込み、ジーンは説明を続ける。
「9月14日、あなたがイクドモ村を出てから数時間後、アイロン氏もまた村を出発しています。これは、医師として近隣の集落を巡回診療するためであり、毎月のスケジュールどおりのことで、特に不審な点はありません。翌15日になっても彼は村に戻りませんでした。彼は随分とお酒が好きでしたので、行った先の集落で歓待され、酔い潰れているのではないかとイクドモ村の住民は思ったそうです。これまで
何度もそういったことがあったようで……」
「だろうねぇ。とにかく酒好きだったからなあ。ホントこまった爺……人だよ、まったく」
ジーンは、ナツメがアイロンを爺さんと言いかけたのに気付かぬフリをしながら、話を続ける。
「ところが16日、彼が訪れるはずだった集落から遣いの者がやってきます。『アイロン先生がお見えにならないが、何かあったのか?』――ここで初めて、アイロン氏が行方不明になってしまったことが判明したのです。村の住人が、念のため彼の宿舎を尋ねてみると、そこには村長に向けた書置が残されていました。内容について細かいことはお伝えできませんが『一身上の都合により、職を辞したい』ということでした」
そこでジーンは、内心ほくそ笑みながら、まじめな顔で一言付け加える。
「村長が詳細を明らかにしなかったため、村人たちの中には、ナツメ所長に一目惚れして追いかけて行ったのではないかなどと噂するものもおりましたが」
「はあ? 何それ!? ちょっと、カンベンしてよ、もう……」
そう言って頭を抱えるナツメを、山羊のように虚ろな瞳で見つめるユースケ。
すると、いつのまに入り込んだものか、黒猫がナツメの足元にまとわりつき
「にゃあぁぁぁぁ」と嬉しそうに鳴いた。
ナツメは、無言でその黒猫をひっつかむと、応接間の外へと連行する。
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【猫物ファイル】
名前: ミーシャ
所属: 『魔道探偵ナツメ事務所』非常勤職員??
体長/体重: めんどうくさいわ
年齢: さあ、忘れちゃった
備考: 他人の「恋バナ」は大好きよ!
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ジーンは、戻ってきたナツメに、
「御安心ください、それが根も葉もないデマだということは承知しております」
と慰めの声をかけた。
「だったら最初から言わなきゃいいでしょ――」
そこでナツメは、何かに気付いたように目を見開き、猛抗議を始める。
「数日前からやたら視線を感じると思ったら、アンタたちか! ……ってことは、斜め向かいのジョンソンさんちに遊びに来ている孫ってのは、ありゃ私服警官かよ!?あのさぁ、あたしたち、ただでさえご近所で浮いているんだから、あんまり余計なマネはしないでもらいたいね!」
ジーンは、探偵のカンの鋭さに舌を巻くも、「さて、なんのことやら」――そう言うにとどめた。




