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どこか遠い彼の地にて ①

 ――強い風が吹きつける。


 非常口の外には、曇天が広がっていた。湿った空気が肺に染み渡る。

 頭がずきずきと痛み、吐き気もひどい。肉体がとても重く感じられて、雄介はバランスを崩してしまった。

 前につんのめるように膝をつくと、荒い石畳が歓迎してくれる。


(夜じゃなかったのか? くっ、膝がイテェ……なんなんだよぅ……)


 立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。横になろうにも、石畳の感触がごりごりと骨に響く。痛い、とにかく痛い。しょうがないので、膝立ちの体勢でしばらく目を閉じていると、心なしか体が軽くなったように感じた。


 ようやく立ち上がり、辺りを見回してみる。


(おいおいおいおい……どこなのさ、ここは!?)


 時折、強く風が吹く。周囲360度に視界を妨げるものは何もない。四方は崖のようになっているから、どうやら高い建物の屋上部分にいるらしい。

 石畳が組み合わさって構成されているフロアは、一辺が10メートル程の正方形。雄介は、なんとなく自分が住んでいるマンションの屋上を連想した。


(……もっとも、こっちには転落防止の柵は無いけどね。おお、怖!)


 恐る恐る床の端に近づき、身を屈めて下を覗き込んでみる。すると、この建物はピラミッド状の構造で、森の中にポツンと立っていることがわかった。

 雄介は、ピラミッドの頂上部分にいるわけだ。下の段までは3メートル程の高さだろうか。降りられないほどの高さではないが、一度降りたら登るのは大変そうだ。


(落ちつけ、落ちつけ、落ち着いても餅はつくな、落ちつけ)


 まず、痛くなるほど強く目をつぶり、パッと開く。

 世界は何も変わらない。


(夢だったらこれで醒めるのに……やっぱり現実なのか。だとすると、考えられる可能性は……さっき真っ暗になったとき、建物ごと見知らぬ場所に移動したとか?)


 混乱した思考は、だんだんと自嘲めいてくる。


(いやいやいや、それって馬鹿みたいにお金かかるし、そもそもなんでそんなことをする必要がある? あとは、あとは、やべえ……自分のブレインがクラッシュしたっていう可能性がいちばん高い……)


               § § §


 さんざん悩んだ挙句、雄介はこの場所で救助を待つことにした。

 自分が通ってきたはずの非常口は、いつの間にか消え失せていた。よって、戻るという選択肢は無い。ピラミッドから降りて助けを呼びにいこうかとも考えたが、見渡す限り森、森、森。地図無しで迷い込んだら遭難しかねない。


(いや、ほんとに……ちゃんと品行方正に生きててよかったよ……。僕が丸一日帰らなかったら誰かが警察に届け出てくれるだろうし、ヘリコプターが捜索に来たら、高い方に居た方が発見されやすいよね)


 方針が定まった途端、眠気が襲ってきた。いまさら焦ってもしかたない。少しだけでも体を休めよう――そう思って腰を下ろし、目を閉じようとしたその時、ギギギギギ……と尾骶骨びていこつに振動が伝わった。

 地震か!? と慌ててあたりの様子を伺う。すると、少し離れた場所で、床の一部――石畳の一枚が、ゆっくりと持ち上がっていくのが見えた。


(!?)


 開いたその隙間から覗きこんでみると、そこには石造りの階段が続いていて、奥から音が近づいてくる。それは、少し乱れたふうの靴音に感じられた。

 雄介が思わず後ずさった直後、隙間からひょいと見知らぬ髭面の男が顔を出す。


――目が合ってしまった。


 西欧風の彫りの深い顔立ちで、控えめに言っても悪人面で、おまけに目が血走っていてハアハア息を切らせている。あきらかにヤバい様子である。

 相手もまた、ここに誰かいるとは思っていなかったらしい。えらく驚いている。


 雄介は、とりあえず「はろー」と声をかけてみた。

 男がびくっとする。


「あい きゃん のっと すぴーく いんぐりっしゅ そーりー おーけぃ?」

 

 反応は無い。ただ、震えている。怯えているように見えなくもない。

 男の剣呑な視線が、ちらちらと階段の奥へと向けられる。何かに追われてでもいるのだろうか。 

 一方、雄介自身もかなり動顛どうてんしている。


「もしや英語じゃだめなのか? ワタシ エイゴ ワカリマセン オーケィ?」


 その言葉が理解できたはずもないが、突然、男は罵声らしきものをあげると、雄介のいる屋上階に駆け上がってきた。


 あろうことか、抜身の剣を右手にひっさげて――

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