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第3話 ―竜兮竜兮― ①
「ただいま」と探偵の声がした。
だから助手と新人は、ぱたぱたと事務所の玄関に向かった。
「おかえりなさい。どうだった? うまくいった?」
ナツメは、そう声を掛けたユースケをぽんと抱きしめて、言った。
「ああ、ウチの “オーシ” のマヌケ面は、ほんとうに癒されるわ……」
予想外の事態に、ユースケが「いいいっ!?」と硬直する。
「ちょ、ちょっと、ナツメさん!? 変だよ!? 控えめに言っておかしいよ!?」
その時アイラスは、ナツメの異変に気が付いた。
「ナツメ所長、お体のぐあいが悪いのでは? 目の下、すごい隈ができています」
「ありがと、だいじょうぶ。でも、疲れたからちょっと寝る。おやすみ」
ナツメはそれだけ言うと、今度はアイラスの頭を優しく撫でてから、ひとり寝室に入っていった。
こうして、名探偵は何も言わずに退場してしまった。
ユースケとアイラスは、おろおろと顔を見合わせるばかり。




