第2話 ―事故物件― ⑦
新大陸に派遣された祓魔師は、総勢五名。統率者たるルーカス司教を筆頭に、いずれもが教会の秘奥を授けられた精鋭である。
その人選には、「万が一にも失敗は許されない」とする神聖教会の意志が示されていた。
§ § §
祓魔師たちは、館を取り囲む封鎖の一角を解除すると、悪霊の力が最も弱まる時刻、すなわち太陽が天頂に至る正午を待って、館へと突入した。
一同に向けて最初に挨拶をしたのは、完全なる静寂。
澱みきった空気は、存在するはずのあらゆる色彩を蒸発させていた。
残るは、すべてを覆い尽くす塵埃の灰色のみ。
すでに一世紀半を超える時が流れている。
さすれば積もる怨念も、あらかた風化しているのではなかろうか――
そんな淡い期待を胸に、五人は館の二階最奥、応接間の扉を押し開けた。
軋みを孕んだ、鈍く重たい音が響き渡る。
まるでそれが先触れであったかのように、突如、色彩が帰ってきた。
床一面の深紅は、未だ乾かぬ鮮血であった。
血で織りなされた忌まわしき絨毯の上には、立ちすくむ二つの人影が見える。
銀光を放つ甲冑に身を固めた武人。
その傍らには、真珠を散りばめた夜会服に身を包む貴婦人の姿があった。
館の主モートンと、その娘の成れの果て――
周囲では、小さな異形の者たちが、音無き旋律に合わせて舞い踊っている。
呪いは、古より薄れることなく、今なお脈動していた。
かくして、死闘の幕が開けたのである。




