第2話 ―事故物件― ⑥
そこまで語り終えたイノサンは、一瞬、ナツメとユースケの顔色をうかがった。
「皆様は強力な魔道士だと聞き及んでおります。ですので、悪霊といった “非魔道的” な存在を軽蔑されるかもしれませんが、この業界――不動産の現場では、なかなか無下にできない話なのです」
「軽蔑などしませんよ」
ユースケが、さも得意げに相槌を打つ。
「最近では、その手の事象に関する魔道的研究もずいぶんと進んでいます。魔道とオカルトがより高次で融合する未来も遠くはない。僕はそう確信しています」
……もっとも、そうやって偉そうにのたまう彼は、魔道士でもなんでもない。
ナツメに至っては、魔道の「ま」の字も知らない完全無欠のド素人である。
そんな真実を露ほども知らぬイノサンは、単なる耳年増にすぎないユースケの言葉に、ほっとしたように頷いた。
「専門家に同意していただけるとは心強いですね。私はこの仕事に就いて十余年になりますが、この手のトラブルは大小を問わず、たびたび起こるのです」
そこで、「ふう」とひとつ息をつき、
「とはいえ、実際に処置を行ったのは、せいぜい四、五回といったところでしょうか。つまり、『本物』が紛れ込んでいる割合も、その程度だということです」
バンクス=グループは、昔から今に至るまで、神聖教会に少なくない献金を行ってきた。それはもちろん、信仰心に基づく行為ではあるが、同時に “別の理由” があることも否定できない。
「魔道が万能と謳われる現代ですが、こうした分野では、まだまだ神聖教会の方が頼りになりますからね――おっと、もちろん冗談ですよ!」
イノサンはそう軽口を叩くと、表情を引き締め、再び事の経緯を語り始めた。
§ § §
(バンクス=グループ独力では、手に余る……)
クレストヒル館の現状を把握したイノサンは、最終的にそう判断し、神聖教会に祓魔師の派遣を要請したの。
しかしながら、北大陸(※旧大陸の北部を指す)に本拠を置く神聖教会からすれば、新大陸は “縄張り” の外である。そのため、教会内部では反対の声も上がったという。
とはいえ、百五十年前に比べれば、新大陸と旧大陸の往来はずっと安全で容易なものになっている。
さらに昨今、教会の影響力は著しく低下している。それゆえに──
「この状況下で、長年の “お得意様” の信頼を損なうのは得策ではない」
そうした多数派の声に押し切られ、神聖教会の意志決定機関である「大司教会議」は、とうとう祓魔師の派遣を決定したのであった。




