―家出娘と猫と指輪― ④
喋る猫に導かれてたどり着いた先――
そこは確かに、湾岸倉庫地域の一角だった。
しかし、船着き場から距離があるため、倉庫自体の数は少ない。代わりに、港で働く労働者や、彼らを客とする露天商たちが住むバラックが乱立していた。
限られた土地にできるだけ多くの人数を収容しようとした結果、道幅は狭くなり、人がすれ違うのがやっとという有様。さらには無計画な増改築が繰り返されているため、一帯はまるで迷路のような様相を呈していた。
§ § §
ナツメとユースケが潜んでいる物陰に、小さな影が音もなく入り込んできた。
偵察に行っていたミーシャが戻ってきたのだ。
「中に4人全員そろっているわ。1階に3人、例の魔道士は2階にいて、お香を焚いてリラックスタイムを満喫中だから、今がチャンスかもしれない」
「あいよ!」とナツメが応えれば、ミーシャも「にゃん!」と一声鳴いて、
「それからアイラスは、1階の大きな部屋の隅にあるソファーの上にいる。縛られているけど無事みたいね」
「了解。それじゃあ、話をつけに行こうか。万が一あたしたちに何かあったら、ミーシャは適当に助けでも呼んできて、ええと……」
「ここだと統領府が近いから、そこに駆け込むのが一番かな」
ユースケはナツメの言葉を引き継ぐと、北西に見える白亜の殿堂を指さした。
「あそこに見える建物の守衛所で、『ナツメ事務所の関係者です』って伝えてもらえれば、誰か話のわかる人に繋いでもらえると思います」
そして、ナツメの方を向き直ると――
「それより何度も言うけど、ナツメさん、やり過ぎないでよ。今回はアイラスさんの事情もあるから、できるだけ穏便にね」
「ハイハイ、ガンバリマ~ス」
「うわっ、腹立つ……なにその不真面目な返事!? 昭和のパ・リーグの不良助っ人外国人選手だってもう少しマシな返事をするよ!? ちょっと、聞いてる!?」
「ハイハイ、ワカッテマ~ス」
ユースケの小言を背に受けながら、ナツメはすでに歩き出していた。




