―家出娘と猫と指輪― ③
黒猫によれば、家出娘のアイラス・チックタイアは、ナツメ事務所から4kmほど南に行った湾岸倉庫地域の一角に監禁されているという。
誘拐犯の人数は、目に見える限りで4人ということであった。
§ § §
海へと続く道を、軽い足取りで先導するミーシャ。
その小さな背中を追うナツメが、尋ねた。
「あのさ、ミーシャは魔道が使えるんでしょ。4、5人くらいならそれで何とかできなかったワケ?」
ミーシャに支払い能力がないとわかったので、ナツメの口調には遠慮がない。
「あのね、猫は人と暮らすとき、人の言葉だの魔道だのを使ってはいけないの」
「どうして?」
「仕事をおしつけられたら嫌だから」
「今のセリフ、真面目に働いているアニマルの皆さんが聞いたら怒るんじゃない?
特に番犬やってるワンコとかさぁ……」
「猫も犬も、人間のことはお気に入りなのよ。でも、その愛情表現はそれぞれ」
ナツメには、そう言ったミーシャが微笑んだように見えた。
しかし、黒猫はすぐに真面目な顔になって――
「あ、それに今回は、奴らの中にそこそこ強力な魔道士がいるの。わらわ一人ではとてもかなわない」
「はぁ? そういうことは早く言ってよ!? 危険手当も請求するからね」
「忘れていたの、本当よ。にゃーん」
「アンタ、本当にしたたかだな……。まあ、心配しないでいいよ。それを聞いたからといって、仕事を放りだすようなマネはしないからさ。正直、はぐれ魔道士なんてモノの数じゃないんだ」
自信に満ちた様子でそう言い切ってから、ナツメはちらりと後ろを振り返る。
――そこには、息を切らせて顔を真っ赤にしているユースケの姿があった。
「ユウちゃ~ん、もうちょっとスピード上げたいんですけどぉ~」
「だいじょう……ぶ……よゆう……うう……」
今にも息絶えそうな彼の姿は、大丈夫でも余裕でもないことを物語っている。
ミーシャが、ユースケには聞こえないようにナツメにささやいた。
「彼、すごい魔道士なのに【身体強化】系の魔道は苦手なのね」
「……鍛えてないからね。ま、言い出しっぺにはせいぜい汗をかいてもらえばいいのさ」




