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魔道探偵ナツメ事務所  作者: 吉田 晶
第1話 ―家出娘と猫と指輪―

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27/64

―家出娘と猫と指輪― ③

 黒猫ミーシャによれば、家出娘のアイラス・チックタイアは、ナツメ事務所から4kmほど南に行った湾岸倉庫地域の一角に監禁されているという。

 誘拐犯の人数は、目に見える限りで4人ということであった。



                § § §



 海へと続く道を、軽い足取りで先導するミーシャ。 

 その小さな背中を追うナツメが、尋ねた。


「あのさ、ミーシャは魔道が使えるんでしょ。4、5人くらいならそれで何とかできなかったワケ?」


 ミーシャに支払い能力がないとわかったので、ナツメの口調には遠慮がない。


「あのね、猫は人と暮らすとき、人の言葉だの魔道だのを使ってはいけないの」

「どうして?」

「仕事をおしつけられたら嫌だから」

「今のセリフ、真面目に働いているアニマルの皆さんが聞いたら怒るんじゃない?

特に番犬やってるワンコとかさぁ……」

「猫も犬も、人間のことはお気に入りなのよ。でも、その愛情表現はそれぞれ」


 ナツメには、そう言ったミーシャが微笑んだように見えた。

 しかし、黒猫はすぐに真面目な顔になって――


「あ、それに今回は、奴らの中にそこそこ強力な魔道士がいるの。わらわ一人ではとてもかなわない」

「はぁ? そういうことは早く言ってよ!? 危険手当も請求するからね」

「忘れていたの、本当よ。にゃーん」

「アンタ、本当にしたたかだな……。まあ、心配しないでいいよ。それを聞いたからといって、仕事を放りだすようなマネはしないからさ。正直、はぐれ魔道士なんてモノの数じゃないんだ」


 自信に満ちた様子でそう言い切ってから、ナツメはちらりと後ろを振り返る。


 ――そこには、息を切らせて顔を真っ赤にしているユースケの姿があった。


「ユウちゃ~ん、もうちょっとスピード上げたいんですけどぉ~」

「だいじょう……ぶ……よゆう……うう……」


 今にも息絶えそうな彼の姿は、大丈夫でも余裕でもないことを物語っている。

 ミーシャが、ユースケには聞こえないようにナツメにささやいた。


「彼、すごい魔道士なのに【身体強化】系の魔道は苦手なのね」

「……鍛えてないからね。ま、()()()()()()にはせいぜい汗をかいてもらえばいいのさ」

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