宿屋【黒猫亭】にて(登場人物の紹介など)
2025.2.7更新
目の前に黒猫がいる。
彼女は、あなたの姿を認めると口を開いた。
「まあ、おどろいた。お客様なんて滅多にいらっしゃらないものだから。
わらわはこの宿の主をつとめておりますの。どうぞよしなに」
流暢な日本語であった。
「ここはいったい、どういうところなのだろう」
あなたは訝しむ。
「この宿では、この世界に流れ着いたマレビトの物語を記録しているの。
もしかして、登場人物や世界観の解説が必要かしら?」
黒猫はそう言って、あなたの顔を覗き込む。
このまま物語を読み進めても問題は無い。
黒猫ともう少し話をしていってもいいだろう。
もちろん、このまま宿を出てもかまわない。
―― 以下、諸解説 ――
【作品の時系列について】
「二人はいかにして彼の地に至ったか」(未発表)
「キタブ=アッカの箱」
「家出娘と猫と指輪」
「事故物件」
「竜兮竜兮」
「死に損ない狂騒曲」
【主な登場人物の紹介】
●ナツメ・カナワ
「ネコってさ、喋らないほうがいいよね」
現代日本から異世界【第三の箱庭】に流れ着いたマレビト。
この物語の主人公その1。
日本語では鉄輪ナツメと表記する。
「魔道探偵ナツメ事務所」の「所長」
難解な謎を腕力で引きちぎって解決するタイプの名探偵。
身長 180cm、
体重 68kg、
年齢 平成生まれの24歳(第1話の時点)
好きなもの……ロックンロール
嫌いなもの……面倒くさいこと
★スケッチ
客観的に見て、鉄輪さんちのナツメさんは美人である。どこか物憂げながら整った顔立ち。やや長身で、腰まで伸ばした見事な黒髪。地元の友人の中には「あの黒髪に絞め殺されたい」などと言う者もいたが、ただ単に切ったり染めたりするのが面倒くさいだけだということを雄介は知っている。
(「二人はいかにして彼の地に至ったか」より ユースケによるナツメ評)
ナツメさんの生まれた鉄輪家は、武術の道場を経営している。ナツメさんが言うには、その流派には名前がないため、鉄輪一族はとりあえずそれを「鉄輪流」と呼んでいる、とのこと。もとは戦場において生き延びるための実践的技術だったそうで、素手での格闘技術、火器を含む武器を使った戦闘技術、果ては山河での生存技術に至るまで鉄輪流には内包されているらしい。
(「二人はいかにして彼の地に至ったか」より 同上)
ナツメ自身は、この世界の一般的な言語である「共通語」を喋ることができない。
もちろん、アルバートも日本語はちんぷんかんぷんだ。
なのに、今こうして会話が成立しているのは、ナツメの両肩に留まっている鳥型の魔道具の機能によるものであった。ナツメの左肩にとまっている鳥は、周りの共通語を日本語に翻訳してナツメの耳に届け、右肩の鳥は、ナツメの日本語を共通語に翻訳して発声するものである。
(「キタブ=アッカの箱」より 会話はできても読み書きはできません)
●ユースケ・サイトー
「そう、そう、怖いですよね、あれ!侵入者がそれぞれスプラッターなやり方で消されていくのだけれどどこかユーモアが感じられて(中略)特に3人目の魔道士が消されるシーンなんかは(中略)そしてラスト最後の一人が……」
現代日本から異世界【第三の箱庭】に流れ着いたマレビト。
この物語の主人公その2。
日本語では斉藤雄介と表記する。
「魔道探偵ナツメ事務所」の「助手」という名の雑用係を務める。
ときに悲しい街角ピエロ。
身長 163cm
体重 50kg
年齢 平成生まれの20歳(第1話の時点)
好きなもの……オタク十八般(※)
嫌いなもの……リア充の臭いがするもの全て
※……一般的に漫画、アニメ、ゲーム、プラモ、鉄道、オカルト、ホラー、映画(ただしB級以下限定)、三国志、戦国時代、刀剣、ミリタリー、昆虫、特撮、競馬、猫動画、プロレス、ファンタジーを指す。諸説あり。
★スケッチ
どこか頼りなさそうな小柄の青年が顔をのぞかせる。(中略)分厚い眼鏡に、もじゃもじゃの癖っ毛が特徴的なユースケは、アルバートと決して視線を合わせようとせず、早口で一気にまくし立てる。
「よっ、ようこそいらっしゃいませナツメ探偵社にようこそっ!」
(「キタブ=アッカの箱」より)
まあ、とりたてて美男子というわけでもないが、嫌われるような容貌をしているわけでもないし、性格は…少々偏屈ではあるが、「それも御愛嬌」で済む範囲だろう。多分。
確かに「運動神経鈍い、音感ゼロ、手は不器用」と芸術スポーツ領域は壊滅的である。だが、無駄に広い知識に支えられた豊富な話題は魅力的と言えなくもないかもしれない。多分。
(「二人はいかにして彼の地に至ったか」より ナツメのユースケ評)
アルバートさんの顔面に驚愕の電流が駆け巡る。
「ユ、ユースケおぬし、共通語が話せたのか!?」
「アガクに教えてもらいました」
「んなアホな!あれから一週間と経っておらん!教えてもらったからといってどうにかなるものでもないじゃろ!?」
興奮を隠せないアルバートさんをなだめるように、アガクが口を開いた
「信じられないかもしれないが、本当の話だ」
「アガク大師が、その、『何か』なさったので?」
「魔道がまったく効かない相手に私ができることは少ない」
「では、どうして?」
「あくまで推測だが、彼は集中力を極限まで高めることによって、常人であれば一瞬にすぎない時間を何倍にも引き伸ばして感じることができるようだね」
「それは、つまり…」
「君の感じている1秒が、集中している彼にとっては1分にも1時間にも匹敵して感じられる、ということだ」
(「二人はいかにして彼の地に至ったか」より だからユースケは共通語が話せます)
●アルバート
「何と、セルジャダンカンの一点物だったんじゃぞ、あれは!?」
国際人材派遣業者「グアン兄弟社」所属の伊達男。
魔道十一階梯の魔道士(作中にて十三階梯へ昇段)。
ナツメとユースケがこの世界に漂流してきて最初に出会った人間の一人。
身長 182cm
体重 73kg
年齢 30代後半~40代くらい?
好きなもの……美しいと思うもの
嫌いなもの……考えを押し付けてくる人間
★スケッチ
年は壮年に足を踏み入れたくらいだろうか。
その装いから、どうやら魔道士であるらしいことが見て取れる。
魔道士が身に着ける道衣というものは、機能を優先するために、基本、質素であるが、この男のそれには、旧大陸の古代貴族様式がアレンジされている。
彼自身のダンディズムの吐露はそれにとどまらず、伸ばした波毛を背中で結び、カイゼル髭に片眼鏡、見様によっては「なかなかの伊達男」とも言えようが、果たしてその感性が、この新大陸で一般的かどうかには若干の疑問が残る。
男の名はアルバート。家名は捨てたと言う。
現在は「グアン兄弟社」という「荒事専門の何でも屋」に所属し、そこで数人の部下を抱える立場にある。
(「キタブ=アッカの箱」より)
「だが、不幸中の幸いと言うべきか、副官を仰せつかった!」
「は…はぁ?災いの間違いじゃないんスか?どこに幸いがあると!?」
「とりあえず、被害を最小にすべく動ける余地がある!」
「……お師匠、後ろ向きだけど楽天的っス」
「褒め言葉だな?褒め言葉なんだな?ふん、ありがたく頂戴するぞい。最近、人の優しさに飢えておっての、く…涙がとまらんわい…」
(……相変わらず不憫な人だ)
いつも思う、どうしてこの人はいつも厄介事に巻き込まれるのかと。
能力はある。漢気があって人望もある。なのに、ツイていない。
(「二人はいかにして彼の地に至ったか」より ガリレオによるアルバート評)
●アガク
「もしかしたら、君の世界の何者かが、その恐怖の大王とやらを退散させたということはないか?崩れようとした空を縫い合わせたものがいたのではないか?そのことを、誰も知らないだけでは?」
【人形使い】【機巧師】その他数えきれないほどの称号をもつ伝説の魔道士
身長 157cm、
体重 すごい重い(ナツメ談)
年齢 伝承通りなら2000歳くらい(ユースケ談)
好きなもの……未知なるもの
嫌いなもの……特に無し
★スケッチ
日本語、それも公共放送のアナウンサーを彷彿とさせる落ち着いた発声。
声がした方に振り向くと、そこには魔道士の道衣を身にまとった少年が立っていた。
十代前半くらいだろうか、整った顔立ちをしているが、その表情からは感情というものがまったく読み取れず、どこか作り物めいた印象を受ける。
少年は「アガク」と呼ばれる存在である。
それが姓なのか、名なのか、あるいは字なのか、今やそれすらもはっきりしない。
伝承に曰く、遥か古に「魔道規範」の草案を作成したのは彼であると。
一方、とある文献には「魔道規範」に背いて不死の秘術を極めた「外道三師」の一人として彼の名が記されている。
先ほど話題に上がった「魔道十三階梯」の制定にも関わっているし「ナワール魔道大学」の創立者も彼である。その他、世界各地に散らばる業績を集めれば、いったい何巻の本になるのだろう。
アガクとは、今なお刻まれ続ける伝説である。
(「キタブ=アッカの箱」より スゴイ人です)
●アイラス・チックタイア
「子どもの頃、前歯が抜けた時に、『歯抜けのブス子』ってからかわれたのが、どうにも許せなくて……」
北大陸でそこそこの貴族の御令嬢。故あって現在家出中。
「魔道探偵ナツメ事務所」の「会計担当」にして唯一の良心。
魔道士と呼べるほどではないが魔道の心得がある。
身長 155cm
体重 48kg
年齢 14歳(第1話の時点)
好きなもの……甘味ならなんでも
嫌いなもの……ニンジン、イラクサ
★スケッチ
「あの、お二人ともすいません、少しまじめなお話をしてもよろしいですか」
そう声をかけられて、ナツメたちはバツが悪そうにアイラスを見る。
「手続きのために財務諸表を作っていて気がついたのですけど、この事務所の経営、あまりうまくいっていないですよね?」
給料泥棒たちの沈黙は、この上ない肯定に他ならなかった。
(「事故物件」より 苦労してます)
「……アイラスがまだ小さい頃の話なのだけど、わらわが庭を散歩していたら、
あの子、わらわと遊びたくて後をつけてきたの。その時はちょうどもみくちゃにされたくない気分だったから、撒こうと思ってイラクサの垣根をくぐったわけ。
そしたら、わらわを追いかけてその垣根に顔から突っ込んだのよ。あの子の無鉄砲を痛感した事件だったわ」
(「家出娘と猫と指輪」より 表面はおしとやかですが、根は活発です)
●ミーシャ
「たまには美味しいものが食べたかったのよ」
アイラスの飼猫。
「魔道探偵ナツメ事務所」の居候(実は非常勤職員だという噂もある)。
身長 りんごだったら7個分くらいね。
体重 りんごだったら30個分くらいじゃない?
年齢 忘れちゃったわ
好きなもの……魚介類、他人の色恋沙汰
嫌いなもの……尻尾をつかんでくる子供
★スケッチ
「あのね、猫は人と暮らすとき、人の言葉だの魔道だのを使ってはいけないの」
「どうして?」
「仕事をおしつけられたら嫌だから」
「今のセリフ、真面目に働いているアニマルの皆さんが聞いたら怒るんじゃない?
特にワンコとかさぁ……」
「猫も犬も、人間のことはお気に入りなのよ。でも、その愛情表現はそれぞれ」
(「家出娘と猫と指輪より」 ねこです)
「村長が詳細を明らかにしなかったため、村人たちの中には、ナツメ所長に一目惚れして追いかけて行ったのではないかなどと噂するものもおりましたが」
「はあ?何それ?ちょっと、カンベンしてよ!もう……」
そう言って頭を抱えるナツメを、山羊のような虚ろな瞳で見つめるユースケ。
すると、いつのまに入り込んだものか、黒猫がナツメの足元にまとわりつき
「にゃあぁぁぁぁ」と嬉しそうに鳴いた。
ナツメは、無言でその黒猫をひっつかむと、応接間の外へと連行する。
(「竜兮竜兮」より 他人の恋バナ蜜の味)
【この物語の世界設定】
●この物語の舞台は、『第三の箱庭』と呼ばれる世界である
極めて古い神話によれば――
ウタの神は箱の中に世界を創造した。
最初の世界は固まらなかった。二番目の世界は動かなくなった。
三番目の世界を作った時、ウタの神は天秤の番人を遣わした。
天秤の番人は世界が傾いてしまわぬように、重すぎる石を取り除いた。
こうしてできた世界に、我々は生きている。
●この世界でも、太陽は東から登って西に沈み、1年は365日で、1日は24時間である
●度量衡については、現在の日本で一般的に使われている単位に置き換えて記す
●この世界の固有名詞は、どこか我々の世界と通じるものがあったりする。
なぜだろう?不思議なことである
●この世界の万物に循環しているエネルギーを『魔力』と呼ぶ
●『魔道』とは、『魔力』を媒体として、自他に様々な影響を及ぼす手段を指す
●この物語の主人公であるナツメとユースケは『絶対零魔力』の存在であるため、
『魔道』を使用することはできないが、『魔道』によって害を受けることもない