第8話 『北の魔王』フェルグラント・アーサー
「お待たせ」
『北の魔王』フェルグラント・アーサーは単身で西の魔王の居城へ乗り込んできた。
全身の鎧に腰には一振の剣。その姿は騎士そのものであるが、現れた状況は明らかに異常だった。
魔王の元へ魔王が盟約も無しに訪れる。
それは、宣戦布告で間違いない。四天王とウォルターはアーサーを警戒する。
「ほう。流石は『セルア大陸』一の召喚魔術師、ウォルター・ブランドだね。より良き『魔王』の召喚に成功したと見える」
「くっ! やはり……隙を与えてしまったか!」
『魔王』の住居でもある魔王城への乗り込んで来るとは。アーサーの行動は弱りきった西の領地にトドメを指しに来たのだ。
「私としてもこの痩せた領地に資産的価値は見出だしていない。しかし、四つの領地を取り合う『セルア大陸』にて、統一王となるには当然ながら他の領地が必要になるからね」
かなり弱っていたにも関わらず他の魔王が西の領地に手を出さなかった理由は『炎の魔王』の存在にあった。
奪う事はどこも可能だった。しかし、その戦いで消耗した所を他に狙われると今度は自分達がやられてしまう。
絶妙なバランスで保たれていた均衡は、『炎の魔王』が死んだ事で崩れたのだ。
例え、新たに『魔王』を召喚したとしても、経験の浅い新入り。倒すことは容易であるとアーサーは判断したのである。
「ウォルター卿、現状を受け入れたまえ。他の魔王よりも私はマシな方だよ」
「くぅ……」
アーサーの言葉と行動は間違いなく、こちらを致命的に貫いている。
「ふむ。どうやら、完全に君達を納得させるには、新たな『魔王』を我が剣の錆びにするしかないようだね」
え? と甘奈はその言葉に身を強ばらせる。
その言葉が、四天王を動かすきっかけとなった。
「そうはさせないっ! 魔王様、護るっキュッ!」
パンッ! と銃声が響く。しかしアーサーはヘルマウスの銃撃を分かっていたかのように身を反らしてかわす。
「数多の毒を駆使する最も小さき暗殺者『ヘルマウス』。君なら私を殺せるかもね。その攻撃が当たれば」
「よ、避けたっキュッ!?」
「御免!」
横から奇襲する伊右衛門の刀『禁欲』の振り下ろしをアーサーは剣で受け止めた。
「ふむ。それは名刀『禁欲』だね。己の欲を制限すればする程、断てるモノを失くす武器。神へさえも届くソレを君は使いこなせるのかい?」
「ふっ、心配無用!」
と、刃を合わせる剣と刀は、剣の方に切り込みが入ると切れ味で負け、そのまま両断された。
アーサーは咄嗟に伊右衛門から距離を取る。
良い臣下だ。二人とも『魔王』を討つ事が現実的な武器と能力を持っている。土地は細くなれど、人材の質は以前から衰えてない。
その時、アーサーを巻き込む様に真下から木の根が成長してくる。
「魔王様……マモル!」
「古代の魔族……『ロードウッド』。【天地戦争】で破壊された大地を癒した偉大なる魔族か」
刀身を半分に切られた剣はオレンジ色の熱を纏った刃が生える様に出現する。
「ブレイズ・ソード」
アーサーを取り込もうとした木の根は一瞬にして燃え上がると灰となって崩れ去る。
『ウォッ!』
しかし、空気を揺らす震動がアーサーを襲った。
「『七獣王』ウォルフ。偉大なる獣の王よ、同じ王として戦える事を誇りに思うよ」
ウォルフの咆哮は大気を揺らしつつ、対象に震動を押し付ける。これにより、アーサーは体内をシェイクされるに等しい状態になっていた。
「魔王様! 今の内に王間より脱出を! 兵よ! 魔王様を!」
「ハッ! 魔王様、こちらです!」
「え!? 状況が全くわからないのですけど!?」
甘奈はスケルトンに手を引かれて、王間から脱出を促される。現実離れした状況の連続に脳のキャパシティが追い付かない。
「四天王よ! 今こそ、我らが忠義を見せる時ぞ!」
「キュ!」
「承知!」
「マモル!」
『ここで殺る!』
ウォルターの言葉に四天王は一層、奮起する。対して甘奈は、
ええ!? 皆さん、死んじゃう流れになってません!? もっと、こう――
「話し合いとか出来ないんですか~」
「魔王様! 巻き添えを食らいます! お急ぎを!」
兵士のスケルトンに連れられて、王間の扉へ向かって甘奈は走る。それを護る様にウォルターは立ち塞がった。
「やれやれ。出来ることなら被害は最小限に抑えたかったんだけどね」
アーサーはウォルフの咆哮を受けながらも手を前にかざすと、グッ! と手の平を握る。
「騎士王降臨」
魔力が膨れ上がる。




