表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

雨林と大河の奥にあるエルフの里

 正十郎とローズを乗せたエルフたちの馬車は巨大な雨林の中を進み始めた。

 馬車の車両にも雨が当たり、屋根からの音に座って寝ていた正十郎は目を覚ます。


「やはり……横になるべきだな」


 と、まだ着かない様子に椅子に横になる。しかし、雨音で目が冴えた。


「雨か。外の者たちは大丈夫かね?」

「私に聞かれても知らないわ。まぁ、少なくとも対策はしてるでしょう」

「事情を?」

「この雨は彼らの結界よ。エルフたちが意図的に降らせているの」

「なんと! 水位の調整はどうなっているのかね? 湿気による森林へのダメージは?」

「……着いてから聞いてみれば?」


 ローズは馬車のカーテンを少し動かして外を覗くと、馬車の護衛を請け負っている者たちは防水マントを着ていた。正十郎も窓を覗く。


「雨で何も見えんな!」






 大陸を分けるライン大河に生える大樹エルドラドにあるエルフの里へ入ることが出来るのは魔法で伸びる蔦によって道が作られた時だけであった。


「帰ってきました!」


 水煙の向こう側から討伐隊の馬車が里へ帰還した。それを待ちわびて居たのは、討伐隊に参加した者たちの身内と、ブラットボーンに囚われていた娘たちの家族であった。


「マリア様」

「エギル」


 討伐隊を率いた里一番の剣士――マリアには里の長老衆の一人である老人が出迎えた。


「数名負傷者が出ました。すぐに治療を」

「はい。マリア様はよくぞご無事で。娘たちも」

「……手遅れの者たちも居ました。それに私達も彼らがいなければここには戻れなかったかもしれません」

「彼ら、とは?」


 エギルが問うと、後方の馬車から降りる二人の人間がいた。


『ふっはっは!! なんだこれは! 巨大な木の上にいくつもの家がある! 下は河が流れている! なんか光がぽわぽわと浮いているよ! ローズ君!』

『ちょっと、恥ずかしいから大声を上げないでよ』

『ふっはっは! これほどの光景を目の当たりにしてソレは無茶と言うものだ! 凄まじくマイナスイオンを感じるよ!! おお? 下の河にも人がいるぞ! 釣りをしているのかな!?』


 訳の分からない言語を叫ぶ人間の男と少女。エギルは、あの方々ですかな? とマリアを見ると、彼女は乙女の顔で正十郎を見ていた。


「マリア様」

「…………」

「マリア様ー」

「え? なんですか。エギル」


 マリアは、ばっと視線を戻す。エギルは一度嘆息を吐き、


「長がお待ちです。此度の件の報告を」

「はい。行きましょうか」

『失礼、あの木の上の家屋はどうやって建てたのかな? ヘリ無しでどうやって材料を?』

「すみません、まだ翻訳が追い付かないので今しばらくお待ちを」

『くっ! 言葉の壁は思ったより高いな! ローズ君! 翻訳してくれ!』

『対話できる術があるみたいだから、しばらく待ってって言ってるわ』

『そうか! いやー、すまないね! いつもなら轟君が分かりやすく翻訳してくれるのだがな!』

「…………」

「彼が婿候補第一位ですかな?」


 エギルの言葉に足を止めていたマリアは、びくっと反応する。


「な、なにを言っているのですが! 早く行きますよ!」

「ほっほっほ」


 小さい頃からマリアの教育係であったエギルは、剣にばかり興味を注いでいた彼女も、ようやくその様な感情を抱く様になったのだと笑う。






 正十郎とローズは里にある来客用の宿屋に通された。

 高級感を連想させる内装に加えて、風通しの良さは海岸沿いにあるリゾートホテルを連想させる。


「良い部屋だな。ベッドも心地よい」

「まぁまぁね」


 用意された部屋はVIP扱いと言っても差し支えないレベルだ。


「ふむ、床もしっかりしているな。バランスだけではこうはならんか。やはり木材が根本から違うという事だな!!」

「……お兄さんって向こうじゃ建築家とか?」

「違うよ!」


 なんにでも興味を持つだけの人間か。とローズは自分のベッドに座ると、


「あら。懐かしいわ」

「何か見つけたのかね?」


 ローズの反応を正十郎は見逃さなかった。彼からすれば少しでも情報を集めている最中なのだ。


「ここ『神の遺産』があるわね」

「ほう」


 意外と驚かない正十郎にローズは窓からソレがある方角を見る。


「『戦いと機械の神』エクス。彼の遺産があるみたい」

「そうか! それよりも、この玉はなんだい? 水晶のように見えるが中で煙が動いている!」

「それ、照明よ。魔力を込めると光る――ってお兄さんは魔力無いんだっけ?」

「そのようだね!」


 時間帯は夕刻。もうじき、夜になる。

 正十郎は、部屋にある器具を物珍しそうにいじり、ローズはエクスの事を思い出す。


“皆、君を嫌っているね。けど私はそうは思わない。君が居るから命は回る。君が居なければ人は滅んでしまい、私は生まれなかっただろう”


「馬鹿ねぇ。私が居なければ貴方は死ななかったのに」


 彼は、終わりの無い私の事を理解しているつもりだったのだろうか? それはとんだ勘違いだ。故に彼は死んだ。


「ふふ。彼の死はとても素晴らしかったわね」


 悲しみなど無い。死は“存在”と対極に位置するモノ。


“ローズ。パラディオンも君の事は気に入ってる様だ。もし、私がこの戦争で死んだら、君の側に置いてやって欲しい”


「残念。友達作りは趣味じゃないのよ」


 今は、この片眼を抉り、下界にまで落としたあの女を同じ目に合わせる事しか考えられない。その為には多くの死を世界中にバラ撒かなければ。


「――はは。嘘」


 近くに死の匂いが無いかを探った所、あるではないか。

 ここ数日で死ぬ、死の運命が――


「ローズ君。このペンはインクが無いのだが?」


 正十郎は棚の引き出しから紙を見つけて、何やら書こうとしていた。


「何をやってるの?」

「轟君の事を教えて貰おうと思ってね! 言葉が通じないなら絵だ。私たちと彼らの顔の造形や美的センスはほぼ同じと考えている。ならば、絵による説明なら何とか意識疎通が出来るハズだ!」

「向こうが翻訳をしてくれるまで待てば?」

「ふっはっはっ! 私の性分ではないのだよ! 足を止めるのは歩みの遅い者に合わせる時のみ! 特に轟君は少々人に流されやすい所もあるからね! 一刻も早く見つけてやらねば! それに知恵の賢者と唄われるのであれば、私のスパイダードリームは繋がっているよ!」


 違う生物の合成などこの世界では禁忌の類いなのに、エルフが進んでやる事はないだろう。


「その轟って人、お兄さんの恋人かなんか?」

「違うよ!」

「赤の他人って事?」

「違うよ!」

「…………イトコでしょ」

「ふっはっはっ! 流石だ、ローズ君! ハズレだ!」


 ハズレなんかいっ! と心の中で突っ込むローズは、相手にするのも疲れてベッドで仰向けになる。


「じゃあ、そこまでする義理ないでしょ」

「それがあるんだよ。彼女は私の“家族”だからね」

「ちょっと……それ不正解でしょ」

「会社の部下であり、最も近い家族なのだよ」


 ローズは少しだけ正十郎の記憶を見る。他世界の死は自分の糧にはならないので意味がない行動なのだが、彼の複雑な物言いに興味が出たのだ。

 正十郎の生き様は――


「お兄さん」

「なんだね?」

「ハードな人生を送ってるみたいね」

「ほう! あの僅かな会話で私の足跡を見切るとは……やるね! その慧眼素晴らしいよ! どうかね? 私の会社に来ないかい? 福利厚生は勿論、有給、春夏のボーナスは一年目からでも出るよ! 手探りでも社員研修は完備している!」

「遠慮しておくわ」

「気が変わったら、いつでも名刺の番号に連絡してくれたまえ!」


 ローズは正十郎から渡された名刺を見ていると、


『ローズ様、セージューロー様』


 格式の高い服を着たエルフが二人の元を訪れる。


『長がお会いしたいと。そこでお食事などはいかがですか?』

「ほう! お気遣いどうも! で、ローズ君。彼はなんと言っているのかね?」

「ここのトップが会いたいそうよ。夕食を食べながらね」

「それはありがたい! 空腹は思考を鈍らせるからね!」


 正十郎と違い、ローズはわざわざ自分達と会う意味を考えていた。


 ブラッドボーンの事はあの隊長エルフから聞いただろうし、あるとすればお兄さんの事かしら。


「さぁ行こうか! 私は腹ペコだ!」

「ま、行けばわかるか」


 例の死相も自分達の向かう先に伸びているし、対象者の顔を拝むとしよう。

次回予告。

正十郎は長と邂逅し、ローズを通じてこちらの意志を伝える。しかし、長の娘より求婚され、それを妬む者にハメられ、近づく者全てを抹殺する『神の遺産』パラディオンと相対する事となった!


甘奈は突如として現れた『騎士の魔王』と相対し、出会い頭に彼に求婚される!


完!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ