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社長と秘書が異世界召喚に巻き込まれるとこうなる話  作者: 古河新後


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第3話 下剋上

「魔王様」

「なーに?」


 炎の魔王は王座に座り、傍らに置いた果物を自堕落に貪っていた。

 そこへ、四天王――伊右衛門、ヘルマウス、ロードウッド、ウルフが現れる。


「ついに我が国庫が底を尽きました。多くの民が国を出るための許可を求めています」


 四天王の先頭に立つのは、宰相であり半魚人の老魔術師――ウォルターは杖を片手に炎の魔王へ謁見していた。


「はぁ? そんなのダメに決まってるでしょ」

「それでは、税を……税を少し緩和してくだされ!」

「それも却下。あのね、アタシを喚んだのはアンタ達でしょ? なら、アタシがやることはアンタ達の意思でしょうが。無責任に人を喚んでおいて、魔王って祭り立てたクセに言うこと聞けないの?」

「し、しかし……民の生活が……」

「アタシの世界の言葉でね、ご飯が無ければケーキを食べればいい、って言葉があるのよ。食べる物が無いなら、他の国の輸送船襲うとか、窃盗するとか、色々あるでしょ。名案じゃん! アタシ頭良い!」

「なっ! そんなことをしては……他の魔王の報復を受けます! 戦争になりますぞ!」


 ウォルターの言葉に炎の魔王は、パチンッ! と指を鳴らす。


「戦争! それ名案じゃない! 人も減って、勝てば領土も手に入るし、良いことづくしじゃん。魚臭いアンタもたまには良い事言うわね」

「ま、魔王様! お考え直しください! 戦争だけは……どうか!」


 このセルア大陸を納める魔王は全部で四人。そのどれもが一線を格する力を持つ。

 絶対に勝てる保証などどこにもない。しかも、自分たち、西の領土は疲弊し痩せ細っている。


「うるさいわね。もう、決まり。戦争よ、戦争。ほら、四天王のアンタ達も聞いてたならさっさと準備しなさい。取りあえずアタシが隣の国境を消し炭にするから――」


 パァン、と銃声が鳴り、炎の魔王の右胸に穴が開く。


「痛った……なによ?」


 しかし、特に意に返さない様子で四天王の一人であるヘルマウスへ視線を向ける。


「もう、ぼきゅ、我慢できないっきゅ。魔王様のせいで妹死んだっきゅ。仇っきゅ」

「は? なにしてくれてんだぁ! このドブネズミが!! 誰に向かって銃を――ゴフッ!?」


 炎の魔王は吐血する。

 本来なら効くハズの無い攻撃。食らっても即座に治癒する“再生の炎”が発動していない。


「テメェ……王毒を仕込んでやがったな!」

「生きてるっきゅ!? やっぱり化物っきゅ!」


 だらだらと血を口から流しながらも炎の魔王は、ヘルマウスを内側から発火させて処刑しようと手をかざす。


「御免!」

「ぎゃああ!?」


 その腕を横から伊右衛門が妖刀『禁欲』にて切り落とす。


「腕が!? アタシの腕ぇ!」

「魔王様……いや、魔王殿、いや! このクソ女! 拙者も許容限界が越えたでござる! 娼館を全面廃止するなど……言語道断!」

「ふざけんじゃねぇ! エロ侍が!」


 二人まとめて焼き殺す。怒りによって痛覚が消えた炎の魔王は恐ろしい形相で睨み付ける。

 すると、ウルフは炎の魔王へ向かって咆哮を放つと、発生する衝撃波が王の間を大きく揺らす。


「ぐふぅぅ!?」

『死せ』


 テレパシーによるウルフからの言葉。更に気圧を操作し、炎の魔王の近くだけ沸点を下げる。


「おお、ウルフ殿も娼館の廃止にはご立腹ですな!」

『そうではない』


 ボコボコと血が沸騰し、内側から熱せられる痛みを身をもって知る炎の魔王。それでも、怒りは最高潮に。


「この……クソヤロウどもがぁぁぁぁ!!」


 全身に七色の炎を纏い本気の本気、オーバーフレイム状態となる。

 この状態となった炎の魔王を傷つけられるのは同格の存在だけだ。


「殺してやるわ……お前ら全員……生きながら内側から焼き殺してや――」


 すると、フッ、とオーバーフレイム状態が解除された。


「召喚者は一度だけ、召喚した者の力を停止させる事ができるのです」


 コツ、とウォルターは杖を一度着く。炎の魔王は驚きの眼を彼に向けつつ、ゴフっと吐血した。


「それと、魚臭いは無いでしょう?」


 グォ、と炎の魔王に影がかかる。見上げるとロードウッドの足の裏が落ちて来ていた。


「ち、チクショォォォォォォ!!」


 ズゥゥゥン! と言う音と共に炎の魔王は死んだ。






 他の魔王領地。

 常に同格の者を警戒する魔王たちは炎の魔王の魔力が消失した事を感づく。


「あ? 死んだぞ? マジか、あの女」


 と、両腕に女を侍らせる上半身半裸の東の魔王。


「……ついに動く……か」


 と、読んでいた本をパタン、と閉じる南の魔王。


「さて、価値の無い領地だが、他に越される前にいただくとしようかね」


 と、剣を腰に携えてマントを翻す北の魔王。


 魔王たちは、各々で他の魔王を殺るために勢力の拡大を目論む。






 パンッ! と銃声が響く。

 ロードウッドに踏み潰された炎の魔王の死体にヘルマウスは念のため、一発撃ち込んでいた。


「それにしても、ロードウッド殿もこのクソ女にはご立腹でござったか」

「コイツ、森燃やす。仇」

『ヤツの癇癪で何度か木々を焼かれた事がある』

「自業自得っきゅ。でもヤバいっきゅ」


 この場に居る者達は全員が理解していた。

 やべー、他の魔王が攻めてくるよ、と。


「喚ぶしかあるまい」


 ウォルターが杖を突くと、炎の魔王の血肉が溶けて赤と白の魔法陣が王の間に出来上がる。


「先代の魔王様の意思に沿い、国を護れる強き者を望んだ」

「強かっただけっきゅ」

「性格は最悪だったでござる」

『居ない方がトロイメアの為だろう』

「火ダメ。絶対」


 四天王は炎の魔王の我が儘と傲慢な様を思い出し、殺ったのは間違いではなかったと逆にスッキリしていた。


「今回はソナタらの意に合わせる。炎の魔王に苦しめられた者として、同じ者を喚ばぬ為だ」


 フォ! と魔法陣から文字が浮かび上がり五人の頭上で回転を始める。


「各自、己の理想とする魔王を思い浮かべよ。さすれば全ての世界に置いて、最も最適な者が召喚されるであろう」


 四天王は眼を閉じる。


“まともなのが良いっきゅ。出来れば、ぼきゅが近づいても怒らない人がいいっきゅ”

“優しくて、可愛くて、恥じらいのある者を望むでござる”

“撫でてくれる人……”

“博愛主義者”


「む? お前達……己の欲に溺れ過ぎだ。対応者が居なければ術はスカり、次の召喚魔術は十年後になるのだぞ!」


 複雑な条件であればあるほど、ハズレる可能性が高くなる。炎の魔王が良い例だった。


「しかし、譲れぬでござる!」

「ぼくもっきゅ!」

『ワタシはあまり過剰な条件ではないが……』

「木を大切にする。誰でもいい」

「いいから考えを一つにまとめよ!」


 発動の指定時間まで後僅か。四天王達の決める条件が適応される様に術を発動してのでやり直しは効かない。


「伊右衛門! 諦めるっきゅ!」

「なにを言うか! 切り捨てるでござるよ!」

『お前ら、武器を向け合うな』

「光合成……」

「まずい! もう時間が――」


 カッ、と召喚魔術は起動。膨大な魔力と光の柱が上がった。






「喚ぶの早ぇな」


 と、服を着て軍法会議に向かう東の魔王。


「ウォルターか……」


 と、本を持ち廊下を歩く南の魔王。


「喚んだが……余の動きとどちらが早いかな?」


 と、馬に乗り西の国境へ部隊を引き連れる北の魔王。






 光が消え。眩んだ眼をこらしながら彼らが見たのは気を失って倒れる一人の女性――轟甘奈(とどろきかんな)だった。

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