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第三話 ハグなんて聞いてませんが?

すみません。なぜか最後の方の佳乃の会話が途中で欠落していたので修正かけました。ご迷惑をおかけしました。



佳乃(よしの)……佳乃っ!」


 勾緒(まお)によってたましいが戻った佳乃。

 たましいを口移しとか、ふざけやがって。

 僕でさえキスなんてまだなのに、佳乃のやつ……。

 ……。

 ……。

 

 って、僕は何を嫉妬しているんだ?

 勾緒にキスされた佳乃か?

 それとも佳乃にキスした勾緒にか?


 さっきの光景がまだ目に焼きついている。

 女の子同士のキスって、なんか……。

 いやいやいや! 僕は何を考えているんだ。

 一度死んだ佳乃が生き返ったんだ。

 そっちの方を気にするのが先だろ!


 僕の呼びかけにまだ反応しない佳乃。

 なぜか彼女の唇ばっかに目が行くって――おいっ! 集中出来ないじゃないか! 僕はこの原因を作った張本人、横にいる勾緒を睨むが、彼女は「?」な表情のまま僕を見つめ返すだけで何も言わない。たぶんさっきの力を使ったせいで疲れているのだろうか、少し息切れ気味の彼女。そして、あろうことか僕は、佳乃に続いて勾緒の唇にも目がいってしまう。ああもう! 僕ってなんなんだよ! 


 思春期真っただなかの僕には、とても耐えられない光景。さすがにモテるって言っても、エッチなことはまだ未経験な僕には、あんなキスひとつでも大事件であって、それを先んじて経験してしまった佳乃や、同性相手とは言え、あんな情熱的なキスを簡単にやってのけた勾緒にも、なぜか敗北感のようなものを感じてしまう。


 いや、キスなんてやろうと思えば出来るけど、僕を好きだって言う者と、僕が好きな人たちじゃ年齢層が違うんだから、それさえクリア出来れば、いつだって……そう、いつだって出来る……と、思……う。


「どうしたの? 顔真っ赤だよ」

「うわああ!! いきなり顔近付けるなって!」


 膝の上で眠ったままの佳乃と、いろいろと考えごとをしてた、僕との隙間をぬって顔を入れて来た勾緒に、大声をあげてしまう。きょとんとした顔がなんかムカつく。キスしたくせに。


「あーそれよりもさあ。久々に霊力使ったんで、あたし疲れちゃった」

「そ、それがどうしたんだよ」


「ん!」

「は?」


 疲れた素振りを見せる勾緒が、両手を僕に向けて広げる。その行為の意味が分からない僕は、彼女を胡散臭げに睨む。


「は? じゃないよ! ハグ! ハグに決まってんじゃん」

「は……はあああああ???」


 拗ねた顔で僕にハグを迫る勾緒。

 当たり前のように両手を出す仕草は、眠そうになって抱っこをせがむ子供のようだ。キスの次はハグをご所望する彼女。もうなんでもありだな。


「なんで僕がハグしなきゃなんないんだよ」

「さっき言ったじゃん。あたしたちはキミの霊力を摂取するんだって。ハグしないと霊力吸えないじでしょ?」


「な、なんだって……!?」


 彼女たちには霊力が必要なことはわかった。

 【黄泉子】と呼ばれる僕の身体にある霊道を通る霊力。自分ではうまく扱えないそれは、どんどんと溜まって行き、やがては僕の存在を消すような一大事となることはさっき聞いた。それを滞りなく円滑に放出するため、彼女たちにそれを摂取してもらわないとイケないことも。でもそれには彼女たちとハグしなきゃダメってのは、聞いていないんですけど。てか、なにそのちょっとエッチな展開……。


 僕がハグについて妄想に耽っていると、痺れを切らした勾緒がしなだれてきた。


「もお、いいじゃんハグくらい。ねぇ早くぅ~」

「えっ、ちょ! あっ!!」


 そう言って僕を包み込むように自分の両手を伸ばし、強引に引き寄せる勾緒。結構力が強かったため、僕は抵抗する間もなく、彼女にギュッとハグをされてしまった。その途端、僕の身体の中心から何かが通り過ぎるような感覚を覚える。これが霊道と通る霊力なのか? むずがゆくなるような肌のヒリつきがおこり、不快なのかそれとも初めてのことで緊張しているのかわからない感情が芽生える。


「はああ……これこれ久しぶりぃ~癒されるぅ~」

「うぐぐ」


 いや、まてまてまて。ヤバいぞこれは。ハグってこんなドキドキするものなのか? なんか良い匂いするし、顔もめっちゃ近いんだけど! はああ。とか言う艶めかしい声が、自分の耳元すぐとかヤバいって! それになんか僕の胸元に当たってる柔らかい物があぁぁ……。


「何あたしの頭の上でいちゃついてんのよ宗鷹!」

「ぐげっ!!」


 膝の上で寝ていた佳乃の声と共に、僕のあごに強烈なパンチがヒットする。思わず仰け反ると、ハグをしていた勾緒もサッとうしろに下がった。


「サイテー!! あたしがどんな気持ちでここに来たか、知っててやってるの? ううう……」


 僕の膝にいた状態から一気に飛び起きた佳乃。いや、お前さっきまで死んでたのに元気過ぎないか……。半泣きの彼女は僕と勾緒を交互に睨み怒鳴りだす。


「こいつら誰よ! てか、なんでここにいるわけ? 理由を説明してよ宗鷹!」

「え……いや、なんて言うかその……」


 説明しろと言われても、どうせ言ったって信じてもらえないだろうに。岩を触ったら割れて、こいつらが出て来たなんて、僕があたおかだと思われるに違いない。


「てか、なんでこいつらみんなして頭の上に耳なんて生えてんの? おかしくない? ちょっ、警察に行こうよ宗鷹!」


 うーん。ちょっと面倒な流れになって来たぞ。佳乃が勾緒たちの恰好や姿を怪しんでるし。警察なんて行っても無駄だとは思うけど、ここで揉めるのは困る。


「ちょっと! なんか言いなさいよコスプレ女!」

「お、おい佳乃!」


 結構正義感の強い佳乃は、ドンと勾緒の肩を押して詰め寄る、困り顔の勾緒は、僕の方を見るが、こうなった佳乃を止められる者は誰も居ない。


「うーん。仕方ないなあ……。おーい、(えにし)ちゃーん」


 僕があてにならないとわかったのか、うしろにいる別の娘狐を呼ぶ勾緒。すると、今までまったくこちらに関わろうとしなかった娘狐のひとりが、こちらへとやって来る。縁と呼ばれた彼女は、髪は黒髪でショートボブ。類に漏れず彼女にも狐耳がピンと立っている。身長も勾緒たちよりも高い。近付いた時点で気付いたけど僕よりも少し高いようだ。たぶん172か173くらいだろう。すらっとしたモデル体型なのに、出るとこ出てるし、雰囲気からして大人っぽい。


「な、なによ! 仲間呼んだって、こ、怖くないんだからね!」


 僕の袖を掴みながら強がる佳乃。

 黙ったまま目の前に立つ、切れ長の彼女の瞳がじっと佳乃を見つめているからか、少し怯えている。これまで関わってきた他の娘狐たちは、能天気そうな女(勾緒)偉そうな女()ケンカ好きそうな女()だったけれど、彼女はそれらとは違い、非常に落ち着いた感じで、これまでとは違う不気味さを持っている。初見の佳乃が怖がるのも無理はない。


「なあに勾緒。(わたし)をわざわざ呼んだ理由を端的に述べなさい」

「えーめんどくさいなあ縁ちゃんは。そんなのいつものやつに決まってるでしょ! この子、お願い」


 神経質そうな縁が、勾緒の方をチラと見たあと、ため息をつく。


「まったく。人間の娘など面倒なだけ。いっそ殺してしまえば良いのに」

「「ひっ!!」」


 そう言って縁は片方の手をかかげると、鋭利な黒い爪を伸ばした。殺気を感じた僕らは驚き、後ずさりする。


「まあ、そう言わずに頼むよ縁ちゃん。彼女、この子の友達みたいだし、せっかく命助けたのに、また殺しちゃったら意味ないでしょ」

「……仕方ないわね」


 勾緒の説得により、しぶしぶといった感じで爪を元に戻す縁。ホッと息をつく暇もなく、またも正義感の強い佳乃が、今度は縁に食って掛かる。


「あ、あんたたち、いったい何者なのよ! 宗鷹やあたしになんの用があるわけ? そのデカいお姉さんも感じ悪いし、ホントにけいさ――」


 早口に叫ぶ佳乃が全てを言い終わらぬうちに、それを黙って聞いていた縁が、指をパチンと鳴らすと、佳乃のようすがガラリと変わった。


「――っと。あれ? 誰かと思えば、宗鷹のご姉妹(きょうだい)さんたちじゃないですかあ。なんでこんなとこにいるんですか?」


 佳乃はまるで、ずっと知り合いだったかのように、勾緒や縁たちに微笑んでいる。いったい何が彼女に起こったのかわからず、僕は言葉に詰まる。


「てか今回、修学旅行に合流するの難しいって言ってませんでした? でもここに居るってことは、みなさん大丈夫だったんですねー。ふふっ」

「……お、おい、佳乃……」


 続けて語る佳乃の言葉を聞き、僕は思わず彼女に声をかけるが、いつものようすとは違い、なにかに洗脳されたかのように、娘狐たちの都合の良いストーリーを次から次へと作り上げていく佳乃。ふいにさきほど縁が鳴らした指を思い出し、彼女たちへと振り返る。


 僕の視線に気付き、ニコリとする勾緒と、まったくこちらを見ようとせず、じっと佳乃の言葉を聞き入る縁。佳乃の突然の変わりよう。きっと奴らが何かしたに違いない。僕は彼女たちの得体のしれない能力に戦慄(せんりつ)を覚えると共に、改めてこの小娘たちが、自分たちとは違う、もものけの類であることを思い知るのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。


不定期投稿のため、次回未定となります。

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