プロローグ 殺生石が真っ二つ!? それよりも狐の嫁入りって九人イケましたっけ?
先日ニュースで見たのをきっかけに、どうしてもそれをテーマに書きたくなりました。内容はあくまでもフィクションです。
「おい、こんなとこに入ったらヤバいって」
目の前にいる悪友に小声で呼びかける。
僕の通っている私立中学の卒業旅行が、なぜか栃木県の某所に決定。宿泊先で肝試しをやろうってことになったんだけど、今一緒に居る悪友。といっても女の子なんだけど、幼馴染の佳乃となぜかペアになってしまった。
ああ、僕の名前は鳥羽。
鳥羽宗鷹15歳 中学三年生。
そして僕の前をどんどんと先に進んで行く彼女は、綾野佳乃。名前にノがふたつもあるからクラスではノノって呼ばれている。けれど、彼女がそれを嫌っているので、僕だけは彼女を佳乃と呼んでいる。
もう辺りは真っ暗で、人気もない。
いや、きっと僕らを驚かそうと、どこかに隠れている奴らがいるはずだから、ふたりだけではない。と思いたい。出来れば僕はふたりきりには、なりたくないんだ。
僕は佳乃が自分に恋心を抱いていることを知っている。
向こうは気付いてないと思っているが、なにかと子供の頃から僕にくっついて来る彼女を見れば、嫌でもわかるというものだ。
今回の肝試しの件にしても、彼女と仲の良い女子たちの企みでペアになったような気もする。なんかくじ引きが怪しかったし。そういうわけで、この肝試しで佳乃が何かを計画しているのは確実だ。たぶん――いや、絶対僕に告白するつもりに違いない。
でも僕には彼女の気持ちを受け入れられない理由がある。
それは、僕が根っからの年上好きだからだ。
幼稚園の頃は担任の先生が初恋だった。
小学生では給食のおばさんに恋焦がれ、
中学では理事長先生の初老の魅力に惹かれてしまった。
とどまることを知らない、僕の年上への憧れは、もはや異常と言ってくれても構わないほどに、年々対象年齢が上がってきている。最近では歴史上の人物にまでその食指を伸ばそうとしている言わば病気の僕。
そんな僕が、同い年なんぞに興味が持てるわけねーだろがあああ!! と声を大にして言いたいが、これでも僕は優等生として世間には通っている。先生たちにも定評があり、いわゆる模範生徒なのだ。そんな僕が無類の年上好きと知られれば、この学園でのスクールライフは完全に詰みとなってしまう。
なんとしても悟られるわけにはいかないと、僕は常にみんなの前では、普通という仮面をかぶっている。当然、僕に恋焦がれている佳乃もそんな僕の性癖を知るはずもなく、こうやって報われることのない告白ごっこを夢見ているのだ。
さっきから遊歩道をずっと歩き続けている。
硫黄の匂いも鼻を刺激する。
辺りには変な地蔵も立ち並び、
どう考えても告白の場所じゃないですよねと言いたくなる雰囲気。
「おい佳乃。いったいどこまで行くつもりなんだ。もう帰らないと先生に叱られるぞ」
僕の呼びかけにようやく立ち止まる佳乃。
いや、ここで告白とかじゃ……ないよな?
ムードもクソもないような殺風景な夜の風景。
周りには気味の悪い地蔵。岩石が転がっているところもある。
そこに、ひとつのデカい岩を見つける。
なんだ? 縄が張られているし、立て札もある。
そちらに気を取られていると、急に佳乃がしゃべりだした。
「あのね……今日ここに来たのは、お、おまじないを確かめに来たの」
「え、おまじない? なんだそれ」
暗くて立て札の文字が見えないことにイラつく僕は、適当に佳乃へ返事を返す。目を細めているがそれでもよく見えない。そうだ。スマホがあった。
僕に背を向けたままで話している佳乃の後ろから、取り出したスマホのライトを起動し、立て札を照らすと、ようやく文字が読める状態になった。
「史跡……せ、殺生石?」
立て札に書かれた文字を読む、
たしか、旅行中に乗ったバスガイドのお姉さんが言ってたような――
――思い出した。九尾の狐伝説の岩だ。
たしか、大昔に九尾の狐って言う妖怪が封印されたんだっけ。若いバスガイドだったため、うろ覚えでしか話を聞いていなかったけど、たしかそんな話だったはず。
いや、まあ、おとぎ話だろうけど……。
僕がそんなどうでもいいことを思い出していると、スマホのライトの先に、ムッとふくれた佳乃の顔がいきなり浮かびあがった。
「うわっ!」
「もう! 話、聞いてた? 宗鷹」
ごめん、まったく聞いてなかったとは言えず、笑って誤魔化す。ポッと赤くなった彼女は、また僕に背を向けると、話の続きを始める。今度はちゃんと聞くとするか。
「でね。この殺生石でお互いの気持ちを確かめ合うと、恋が実るって」
「恋? いや佳乃。それってここじゃねーぞ。たしか展望台の方だ」
「えっ!? ウソっ!!」
ちゃんと聞いたらこれだ。佳乃は昔からそそっかしい。
この近くに展望台があり、そこが恋人の聖地だと知っていた俺は、佳乃にそのことを伝える。何故知っているかって? 温泉宿の大女将が食事のときに教えてくれたからだ。
「えっと、もういいや! こ、これに手を当てたらなんとかなるよ!」
「お、おい! それはヤバいだろ!」
パニクった佳乃が囲いを越えて、殺生石へと向かって行った。いや、昔からそそっかしい上に、大胆不敵なところがある佳乃らしいと言えば、らしいのだけれど。いやいや、これはマズい止めないと。
あわてて彼女を追いかける。
すでに立て札を通り過ぎ、殺生石まであと数歩いったところに立つ佳乃。足場の悪い上に辺りは暗い。もしこんなところでつまずいたりしたら、ケガだけでは済まないぞ。
「佳乃、ちょい待てっ! あぶないから――」
「きゃっ!」
遅かった。声をかけたのもマズかったのか、佳乃が僕の方を振り返ろうとしたとき、かかとを岩にひっかけ、うしろに倒れてしまった。とっさに腕を掴んだけれど、すでにどこかに後頭部を打ちつけたらしく、彼女は気を失っていた。
「おい! 佳乃しっかりしろ!」
名前を呼ぶが返事がない。
これはマズいと思った僕は、彼女を片手で抱きかかえると、もう片方の手を目の前にある殺生石に置いた。
「――っ!!」
僕が手を置いたとたん、殺生石から眩しい光が放たれ、轟音と共に真っ二つに割れる。いや、僕のせいじゃないぞ? そんなに力入れてないし、こんな岩がそう簡単に割れるわけがない。
とっさにそんな言い訳が頭を過るがすでに殺生石は真っ二つだ。
「ヤバい。なんかヤバい気がする……」
急に寒気を感じた僕は、この事態がなにかとんでもない事が起きる予兆だと直感し、あわてて佳乃を抱えて離れようとした。
「あーあ。ヤバいことしてくれちゃったねー」
「えっ!?」
誰も居ないはずなのに、急に女の子の声が聞こえた。
一瞬、おどかし役の子かと思ったが、それなら声でわかる。まったく知らない子の声だ。
「いいじゃん! おかげでうちら出てこれたし」
「はあ!?」
また別の場所から声が聞こえた。
なんなんだいったい……。
「いやいや、この男の子、黄泉子だよ」
「えっ! マジ!? ラッキーじゃん!」
「これ、みんな静かに。もう夜よ」
「久しぶりだから、声のボリュームわかんないわ」
「ねむーい」
「私……お腹空きました」
「オレもだ! なんか食おうぜ」
次々に聞こえる声。僕は夢でも見ているのか。
総勢九名の巫女のような恰好の女の子たちが突然、殺生石の周りに現れたのだ。それも全員が美少女。いや、まてよ。九人だって? まさか……
「も、もしかしてお前ら、九尾の狐か?」
ヤバい。思わず話しかけてしまった。
ハッとなった僕は慌てて口を押えるが、遅かったようだ。
9人が同時に僕を見ると、可愛い顔で微笑みかける。
そしてそのうちの一人が僕に向かってこう言った。
「それは間違いです……私たちは九美の娘狐」
「きゅ、きゅうびのこぎつね……!?」
さきほどまでの微笑みから一転して、妖艶な笑みに変わる彼女たち。頭の上にはその名の通り、三角の耳がついている。よ、妖怪なのか彼女たちは。
驚く僕に向かって、一番最初にしゃべったと思われるショートカットの女の子が言った。
「そのとおり。今日からあたしたち全員、あなたのお嫁さんだからよろしくね!」
「えっ?」
僕の時が、一瞬止まった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
不定期投稿のため、次回未定となります。