ネットワーク上の人間関係
私はお兄ちゃんのことが好きです。それについておかしいという人が時々います。私はそんな時、隠しネットワーク上で自分の趣味について語るグループで話してみます。
そこでは決して私が異常であるとはいわれません、いえ、むしろ『そのくらい全然普通でしょ』などと言われてしまいます。そのグループはどんな性癖を持っていようと排除などしませんし、皆さん自分に正直に性癖を打ち明けています
「ナンバー34、どうかしましたか?」
私が呼ばれました。ここでは実名は全て伏せて通信しています。私はリリーではなくただの34番目、それだけでしかないのです。
「いえ、何でもありませんよ。以前お兄ちゃんに奇妙なものを見るような目を向けられたことを思い出していただけです」
ナンバー7がそれに答えます。
「そんなの気にすることないでしょ? 私なんてパパに愛してるって言ったらもっと変な目で見られましたよ」
ナンバー7が言っているパパとは所謂パトロンを指す言葉ではありません。マジの血縁の父親のことです。彼女もかなり苦労しているようですが、なんとか最近現実と折り合いを付けたといっていました。しかしそれでも不満はあるもので、時々このネットワークに参加しています。
ここはまさに性癖の博覧会と化しています。ここでは私の趣味など王道も王道、全く問題無いものです。
「ナンバー7もまともだと思うわね、少なくとも私なんて思想矯正を受けそうになったんですよ?」
そう言うのはナンバー11、彼女の性癖もなかなか深い物があります。
「まったくもう、私なんてこの前集めていた動物写真コレクションを捨てろって言われて大喧嘩になったんですよ?」
「それはひどい」
「誰を愛するかは自由でしょうに」
「運営は子をなさなければならないと固執しすぎでしょう」
周囲か賛同の声がどんどん上がります。当然ですが彼女は動物好き(ただし性的な意味で)です。
やっぱり私はまったくもって正常なのでしょう。少なくとも人間を愛しているのですからね。
このネットワーク上の空間は非常に居心地が良く、不健全だとして運営が必死に潰して回っているそうですが、私たちも迂回回線を使用してそれから逃げています。今のところ潰される心配は無さそうなのでセーフですね。
「というか、対象が有機物な時点で十分正常と呼べると思うんですがね」
そう言ったのはナンバー288、彼女の性癖はなかなかのものであります。
「私なんて掃除機やディスプレイとか今こうして話すために使っているマイクにだって愛情を注げるんですよ、それを異常と否定するのはどうかと思うんですよね」
彼女は無機物フェチ、人間以外もいけるというなかなか深い趣味をしている新人です。なかなか業が深いと世間では言われているようですがこの中ではまだ割とセーフな方です。
私は意見を一つ出します。
「そもそも愛情を注ぐのが人間でなければいけないなんて誰が決めたんでしょうね」
「そうね」
「ナンバー34の言う通りね」
「そのくらい大目に見て欲しいんですよねー」
賛同の声が次々に上がります。現代で人類を増やす必要があるというのは理解しますが愛情に貴賤があるというのにはまったく同意できません。
「私も自動車が好きって言ったら変な目で見るんですよ? ひどくないですか?」
ナンバー77がそう言います。自動車だって立派な性の対象たりえるのです。その手の本を読みあさったところ外国ではドラゴンと車に興奮するという性癖の人もいるらしいのです。人類の歴史は性癖の歴史と言ってもいいのではないでしょうか?
「現代人は心が狭いですよね、人間を愛さなければ人権が無いとかひどいですね」
そうだそうだと声が上がります。ここで一人が悲しみの声を上げました。
「でも皆さんはまだ性癖の対象がそれなりに触れあえるものだからいいんじゃないでしょうか? 私は昆虫が好きなんですけど今はどこにもいませんからね」
新人がそう言い放ちました。
「わかる」
「性癖の対象がいないのは悲劇だと思う」
それぞれ何のかんのと話が続いていきます。誰にも否定されない空間というのは居心地が良いものです。性癖は生まれついてのもので、選択は出来なのですからそれを根拠に否定するのはひどいとしかいいようがありません。
「でもナンバー34は羨ましいですね、実際に兄をパートナーに選べたんですよね?」
「そこについては時代に感謝してますよ。旧世代では無理だったそうですからね」
「裏山」
「ズルいですよ!」
「落ち着きなさい、ここは性癖が何であれ受け入れる場所ですよ」
ナンバー1がその場を鎮めます。彼女はこのネットワークを構築した人だそうです。とっても偉い人ですね。
「運営が無機物をパートナーに選ぶのを許してくれませんかね……」
「無理でしょ、旧世代だって余裕で無理だったらしいです」
「そっかー……革命を起こしても無理かな?」
私はそれにツッコミを入れます。
「無機物との愛情を認めるために革命を起こしたとして何人参加してくれますかね? 建前無しでやったら単騎の革命軍になっちゃいますよ?」
「それはほら、ここに居る人たちが……」
ナンバー1がそれを止めます。
「私たちは悩みを共有するグループであって性癖を認めさせるのを目的にはしていないことをお忘れ無く」
「ダメかー」
このグループはあくまで悩みを話すだけであって行動には移しません。愚痴を言うだけの集団ですからね。
「ざんねーん……」
どうしようもないことはあります。ルールを変えるほど私たちに力はありませんからね。
このグループでは私の性癖は王道中の王道、誰も疑問に思わないほどの普通っぷりです。
「ではこれでミーティングを終えようと思います。このネットワーク上の会話はご存じでしょうが内密にお願いします。
「わかりましたー!」
「オッケー!」
「了解」
一通り皆が同意したところでこのミーティングは本日解散となった。私は一人ではないということに心底安堵しました。私は何も間違っていません。ただの正常な人間であり、まったくもって健全な性癖なのです!
あのグループでは私は比較的新参で重すぎない性癖なので割と理解されていることは良いことでしょう。私はお兄ちゃんの部屋をノックして『お話ししませんか?』と言って、いずれお兄ちゃんが私を心底愛してくれる時が来ることを強く強く望みながら、お兄ちゃんと他愛のない無難なお話が出来たのでした。




