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古戦場からの中継

 今日は退屈な中継を放映する時間だ。いつものディスプレイが今日は反戦ムード一食になる日、今日この日は嘘はなく地上の様子を見せてくれる。問題があるとすれば、それが核の爆心地だと言うことだろうか。


 なんとも言えない無味乾燥な映像を半日かけてショーをする時間だ。爆心地の取材という名のエンタメ、下品の極みだと思う。


 人間は自信を滅ぼしつつある核でさえも自身の思想のために利用する、趣味の悪い話だと思えてならない。


「お兄ちゃん、あの退屈な中継をこしたもやるんですか?」


「やるだろうな、運営は暇なんだよ」


 暇にも程があるとは思うが反戦の気運を高めるのが運営のトップクラスに重要な目的だ。人の情に訴えることばかりは機械には出来ない重要な仕事だ。


「暇なのも結構ですけど、やり方ももうちょっとないんですかね? 爆心地の平野を写すんですよ? 当然ですがそこに動きなんてないですし……」


「爆心地が映るのはたまたま観測用の重装甲カメラがあったからだろう、格を落とされるような場所には大抵あるんだから今生きてるカメラがそれしかないんだよ」


 軍事重要拠点だった場所にはログを残すためのカメラがあった。それらから『いかにも悲惨』な映像を映すのが連中の役目だ。


 そんな映像を流す日なのだが、この性質上非常に評判が悪い、なんなら合成で用意した地上の映像を映す方が評判がいいくらいだ。


 なにしろまったく動きがない地上を写すのだから見ていて微塵も楽しくない。全て吹っ飛んでいて、それだけなら構わないが動物の一匹も映らない乾いた大地を延々見るほど退屈なものはない。


 だからそんなものを見る気は欠片もなかったのだが、リリーが退屈だとごねてそれを一緒に見ましょうと言い出した。正直、気が進まないのだが渋々付き合ってやることにした。


 ディスプレイをオンにするともうすでに放送が始まっていたのか無味乾燥な地上が映されていた。数少ない地上の観測ポイントはほとんど全て核兵器の直撃を受けている。


 画面に映るのはまっさらになった地上、地平線というのがどういうものなのかを教えてくれる。建物が全て吹き飛び視界をさえぎるものは何も無い。


「これでも地上に出られないんですかねえ……」


 リリーの心からの声に応える。


「放射能もあるしな、向こう当分は無理だろうな」


「現実を突きつけるのはやめてくださいよ……」


 だってなあ……


「お前に地上に出て欲しくないし」


 一応地上に出ることは出来る、ほとんど死刑宣告と同様なので滅多に認められることはないが、末期の病人が地上を診たいといだしたらかなえてもらえることもある。それが幸せなことなのかは分からないが……


「まあ出たら死にますもんね……」


『ここは人間が愚かな行為をした、その中心点になります。現在に至っても草一本生えていません。修復されつつある地上でも核を受けた地域は未だにこうなっております』


 どこだってそうだろうに、あくまで核を受けた地域のみだと言いたいようだ。


「運営もご苦労様ですよねえ……戦争なんて今時どこもやるほどの力が無いでしょうに」


「戦後すぐは割と再戦派もいたらしいぞ、まあ皆死んだって話だが」


「人間はどこまでいっても救いようが無いんですかね? まあ死人を叩きたくは無いですけど」


『人間はかくも愚かな行為によって地上を大いに傷つけました。我々は変わらなければならないのです』


 そんな言葉が流れてくる。地上から地下に生息域を移したという所は十分に変わったと言えるところだろう。


『我々はこのような愚行を繰り返してはなりません』


 繰り返そうにも出来ないだろうに、啓蒙することが目的なのだろうが、物理的に不可能になっているものに気をもんでいるとはくだらない話だ。


「お兄ちゃん、この放送は児童院時代から見てますけど何も変わりませんね」


「地上がそう簡単に変わるとも思えないしな」


 草一本生えていないという噂が有力だが、一部では放射能に耐性を持った生き物が居るという噂もある、もちろん人間の方が相変わらず耐性を持っていないのでどちらにせよ意味が無いのだが。


「取り返しが付かないってこういうことを言うんですかね?」


「まだ人間は生きてる、取り返しは付くだろ。ものすごく長い時間はかかるだろうがな」


 絶望的なまでの時間をかけて地上を修復していくしか無い、取り返しが付くにしても俺たちの世代では無理だろう。


 残念だが俺たちは地下かドームで暮らしていくしか無い。どちらにせよ太陽を拝むことは不可能だ。退屈な地下での生存を延々と続けていくしか無い。


「お兄ちゃんも現実的ですね、よく心が折れないものですね」


「こんな時代だからな、メンタルくらい強くもってないと生きていけないだろう?」


「平和主義者でもないのに戦争には反対なんですよね?」


「当たり前だろう、俺たちがひどい目に遭うのはいやだからな。後世の連中がどうしようと勝手だが俺の生きている時代では勘弁してほしいものだよ」


 俺は自分でも分かっているが人格者ではない、精々自分の生活が無事ならそれでいいと思っている。なんなら後の世代が悲惨な暮らしをしようとも俺たちが無事ならいいとまで思っている。


『ここは開戦後始めて我が国に核兵器が落とされた場所です、この負の遺産を忘れることなく……』


 そんなことを放送で言っているが俺はこの放送で思い出したくらいだ、なんなら一週間後には忘れている自信がある。そのくらいの量の核兵器が使用されたのだから……


「一応退屈な映像もこれで終わりですね」


「戦争映画とか平気で見る割に、お前はこういうの興味無いんだな?」


「私が求めているのは面白さであって思想ではないのですよ。名作なんて大抵ちゃんとしそうとは別に面白いですからね」


 ドライな性格と言えばそうなのだろうが、リリーはとことん興味が無いようだ。しかしまあ現在映っている『健全な』映像に比べれば多少なりとも興味を引かれたのだろう、少なくともディスプレイをオフにすることは無かったのだから。


「さて、お兄ちゃん、夕食にしましょうか?」


 見ると時計はもう夕食時を指していた。


 こうして地上の状態とは無関係に地下の時間は過ぎていく。ここは平和の楽園なのだろうか? 俺はここが平和な地獄なのだろうとふと思ったのだった。

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