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妹と怖い話、リトライ!

「お兄ちゃん! 怪談をしましょう!」


「えぇ……なんだよまた急に……」


 まーた、くだらないことを思いついたのだろうか? 思いつきで行動するのは勘弁して欲しい。


「前も怪談しなかったっけ? アレから一年もたっていないと思うが……」


「はいはい、てってってー! 『実体験! 怖い話の本』」


 何やら妙な擬音と共に一冊の本を取りだした。どうやら怪談を集めた本を手に入れたので怪談をしたいようだ。また大戦前の本を買ってきたのか……


 怪談という文化も廃れて久しい、何しろ多くが死者の霊が云々を扱っているのだ。大戦が起きて人類の大半が死んだというのにそれらの霊が出なかったことでとどめを刺されてしまった。


 それでも戦後すぐは降霊師を名乗るような奴が大戦で死んでしまった人の霊を呼び出しますという商売をやっていたそうだが、当然ながら遺族を怒らせるだけに終わってしまった。


「お兄ちゃんは超自然的なものを信じる心が足りませんね! こういうのは雰囲気を楽しむものですよ!」


「お前だって信じてないくせに……」


「私は信じてますよ! いずれ超自然的な力が私たちに美味しい食事を提供してくれると!」


 あまりに低い目標だった。というか超自然的な力を使っても食事が限界なあたりこのご時世の救いようの無さを表していると思う。


 もっとも、金銀財宝をもらおうが、それらの人工の互換品が安く出回る用になってしまった以上、価値のあるものなど食事くらいのものなのかもしれない。


「とりあえず怪談、始めて見るか?」


「はい!」


 いい声で返事をするリリー。それから怪談パーティーが始まった。


『…………そうして全員いろいろあって死んでしまったのです……」


「こわいなー」


 全員死んだのに何故話が残っているのかなど気にしてはならない、きっとそう言う雰囲気も楽しむことが必要なのだろう。細かいことを気にしたら負けだ。


「お兄ちゃん、あんまり怖がってないですね? では次はとっておきをいきますよ……」


「その本は呪われていて読んだ人は本の世界に閉じ込められるそうです……」


「そして最後には本から呪いの神様が出てきて地上を焼き払ったそうです……」


 まあ、うん……実際日常を焼き払った人間のほうがよほど怖いなとは思うよ。事実が書籍を超えることなどよくあることらしいしな。核戦争の方が見えない幽霊よりよほど怖いと言うことを考えると昔は『もしも』こんな事があったならと考えていたようだが『実際に』人類の多くが消えてしまうようなことは予想もしていなかったのだろう。


 起こりえないことを想像するのは楽しいが、それを実際に体験するのはゴメンだということだろう。


 事実が想像を超えた、皮肉な話である。この手の話は精々十人くらいしか死人が出ない、それに対して地球単位で死人が出る災厄が起きるなど考えなかったのだろう。


「お兄ちゃん、怖いでしょう?」


「あーうん……こわいな」


「あんまり怖そうじゃないですね?」


「まあ人が死ぬのはいつものことだからな。当時はまだ今ほど無理矢理延命を必死にしてはいなかったらしいし」


「心霊現象が医療でどうにかなったら怖さの欠片も無いじゃないですか!」


 確かに霊障が医学的に解決したらもはや超常現象ではないな……


 呪いを医者が解決したら読者が怒り出しそうなことになるんだよなあ……


「まあでも面白かったぞ、現代じゃそういう話もすっかり消え去ってしまったしな」


「どーして面白い話を検閲するんですかねえ……」


「検閲品を持ってる自覚はあるんだな……まあ理不尽に人が死ぬ話なんて話せないからな、あと死後の世界なんてものを肯定するのもアウトだし……」


 リリーはつまらなさそうに俺の意見を聞いている。確かに現実の言論統制が世界をつまらなくしたかもしれないが、生きている人間の平均余命を伸ばしたのもおそらく事実だろう。


 世界があらかた終わってしまっているというのに妹が熱心に旧世代の文化を漁っているのはなんとも言いがたい。


「まあ確かに心霊現象で村一つが消えるよりは核兵器で国一つが消える方が怖いですね……」


 そう、現実の方がよほど怖い、心霊現象で国が一つ消えたなどという話があるのだろうか? そうなったらもはやオカルトではなくSFと呼ばれるものになるだろう。昔一人の死は悲劇だが一万人の死は統計であると言った人がいたらしい。それはまったく持って正しいのではないだろうか。


「しかし、今の世界って『渚にて』とか『ザ・スタンド』みたいな世界ですよねえ……」


「お前古文書まで読んだのかよ……すげーな」


 どちらも大戦前に有名だった本だ。どちらも大戦で散逸してしまい、現存する書籍を持っている人は貴重だった。


「まあ交換していってるので同時に持ってたわけじゃないんですけどねー……でも私の読書遍歴に残ってるのは本当ですよ?」


「その内ネクロノミコンでも見つけそうで怖いな」


「まああったら絶対読むでしょうね」


「頼むから思想矯正は受けなくて済むようにしてくれよ……」


「思想矯正って一度受けてやっと一人前の遊び人って感じがしませんか?」


「そういうところだぞ?」


 妹が自由すぎて怖い……


 俺はどうか……どうか妹が思想矯正システムのお世話にならないことを祈りながら、どんな怪談よりもそんなことが起きる可能性があることの方が恐ろしいと背筋を寒くしたのだった。

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