遠距離有線通信
「ふぁああ……眠い」
俺が気怠いながらも起きてリビングに向かうとディスプレイがオンになっていた。まあ『健全な』そう言う動画を見たいこともリリーにはあるのだろう。俺はそう言ったことを見て見ぬ振りを出来る人間だ、だからリリーが多少特殊な性癖をディスプレイに流していたところで俺は引かない……
リビングでディスプレイに映っているのは少女だった。それはいい、成人年齢が下がって多少幼い子でもそう言う動画に出ることは出来る。しかし画面の中の少女はあまりにも幼かった。
頭が回転を始める『アウトォォ!』という言葉が浮かぶ、いやいや待て、世の中にはロリババアなる業の深いジャンルもあるじゃないか、多少特殊な趣味をしていたとしても……画面を見る、さすがにアウトとしか言いようのない少女だった。
「リリー……お前、さすがにその趣味は……」
「ああ、お兄ちゃんですか、おはようございます」
「いや! 何をそんなにしれっとしているの!? その画面の子は誰!?」
『貴方が噂の『お兄ちゃん』ですか? よろしくお願いします』
画面の中から話しかけられた……? え、今映っているこの子は誰?
「お兄ちゃんは私が何かを見てると思ってたんですか……この子は今地球の真裏にいますよ」
「え……もしかしてコレって通信回線?」
「もしかしなくてもそうですよ」
しかし……
「回線は遮断されたんじゃないのか?」
「ふっ……運営のザルフィルターなど私たちからすればないも同然ですよ!」
『実は迂回路が見つかりまして、妹さんとお話しさせていただいてるんですよ』
画面の中の子が説明してくれた。相変わらず危険な橋を渡ることには定評のあるリリーだ。今更その程度のことで驚いたりはしない。
「お兄ちゃんは私が何を見てると思ったんですかねえ?」
ニヤニヤした目で俺を見るリリー、そこへ画面の中から声がかかった。
『リリーちゃん、通信が始まってからずっと『お兄ちゃんがー』『お兄ちゃんはー』って言ってたんですよ、だから見せてって言ったら嫌がるし、会えて良かったです』
「それはどうもご丁寧に」
「ちょっと!? それは言わない約束でしょう!」
どうやらコイツにも可愛げというものはあるらしい。俺のことをどう言っていたのかは気になるが下手な答えだと俺にダメージがおよぶので聞かないことにしよう。
少女はまだ児童施設にいるんじゃ無いかと思われるような容姿をしている。見た目で人を判断してはいけないのは本当だが、それにしても幼かった。
「ところでリリーとどんな話をしてたんですか?」
『自分の恋人がいかに素晴らしいかについてですね』
「う゛ぁああああああ!!!!」
リリーが悶絶した。恥ずかしいなら黙っておくべきだということも知らないのだろうか?
墓まで持っていくべきことは話すべきでは無いのだ、俺だって多くのことを話していない。人の口に戸は立てられぬからな。
「おおおお兄ちゃん! 違うんれす! ひゅいテキトーな話題を喋ってただけで……」
『リリーちゃん、ものすごく饒舌だったよね』
「ひう!! 黙っててください!」
リリーはディスプレイにキレながら俺への釈明を続けた。
「私はただ単にお兄ちゃんと夫婦であるという客観的事実を述べただけであって、決してそこに主観的要素の入る余地は……」
『リリーちゃん、パートナーを選ぶ権利が手に入ったときに小躍りするほど嬉しかったって……』
「黙っててもらえますか? 回線をぶち切りますよ?」
『リリーちゃん、怖いんだけど……』
向こうの少女もドン引きだった。
「まあなんだ、俺も結構お前のことは好きだしそれでいいんじゃないか?」
「ひゃう……お兄ちゃんが私のこと……好きって……」
ぷしゅうと倒れたリリーを見て画面内の少女は『ダメみたいですね』と言っていた。
『おっと、長時間の通信は探知されるかもしれないのでそろそろ切断しますね』
「ああ、コイツの相手をしてくれてありがとう」
『いえいえ、お気になさらず、ではでは』
そう言って通信を切断した。それから一時間ほどしてリリーが復活してから延々と釈明を聞く羽目になったのだった。お兄ちゃんやるのも楽じゃないなあ……




