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報道の力

『本日午後より地上の様子を中継させていただきますので皆さんふるってご視聴ください』


 そんな言葉がスピーカーから流れてくる、ロクな番組を放送していない運営からすればソレが嘘八百だとしてもエンタメになると教えてくれる。


「運営もよくやりますねえ……暇なんでしょうか?」


「実際地上の環境回復の大半は機械任せだしな。暇なんだろう」


「「はぁ……」」


 二人揃ってため息をついた。退屈な地上を眺めてどうしろというのか? どうせ『演出』が大量に入った映像が流れるだけではないか。


「お兄ちゃん、前回は草原でしたけど今回はどこだと思いますか?」


「うーん……湖あたりかなあ……」


「私は森だと予想しますね!」


 リリーが楽しそうに言う、その程度は地上の中継も役に立っていた。


「森はなぁ……さすがにそこまで植物が生い茂るのは不自然だろう?」


「それを言ったら微生物の一匹もいない湖だって虚無だと思いますがね?」


 二人してため息をついた。どちらにせよ地上に出られるほど甘い環境ではない。ソレを隠しているつもりの運営に付き合ってやるのが情というものだろう。期待を持つことは決して悪いことではない。


「お昼にしようか、ちょっと早いけど放送をリアルタイムで見たいしな」


「物好きですねえ……ゼリードリンクと固形食料のどっちがいいですか?」


「固形食料を頼む」


 リリーが固形食料を二個取り出しテーブルに置く。


「私はね、このクソまずブロックがまともな味になってくれないかと思ってるんですよね」


「理想は無理の無いものにしておくことをお勧めするぞ」


 食料がまともになるのは期待できないにしても特別品くらいは配ってくれてもいいと思う。しかし、全人類に平等に配れるほど食糧事情は恵まれていないだろう。だからこそ人口が増えたお祝いなどが配られるわけだ。


 そんなことを考えながらブロックを囓る。ボロボロと口の中で崩れて何の味もしないモソモソとした食感が非常に気持ち悪い。


「しかし不味いですねえ……いえ、不味いなら不味いでいいんですけど味がしないのはちょっと……」


「誰だってそう思ってるよ」


 悪名は無名に勝るという言葉があったらしいがまったくもって事実だろう。不味いほうが味がしないよりずっとマシだ。とはいえ、妹の前で弱音を吐くわけにも行かないので虚勢を張ることにした。


「でもこれだって慣れれば食べられるものだろう?」


 俺は我慢してそう言うとリリーはジト目でこちらを見た。


「その割には随分不味そうなものを食べている顔をしてますね」


「どんな顔だよ……」


「まあそれはさておき、そろそろ放送が始まる頃ですよ?」


 その言葉に俺は時計を見る、午前中に食べ始めていたが、今は昼を回っていた。


 ディスプレイをオンにして放送に合わせると高山あたりの湖辺を表示していた。


「お兄ちゃんの予想あたりですか……」


「あまり嬉しくはないがな」


『皆さん! 現在では地上がこれほど自然が豊かになりつつあります! 希望の時代はもうすぐやってくることを我々運営は保証します!』


 ご苦労なことだ。種の分かっているマジックを見せられてもつまらないことこの上ない。もうちょっと芸がないのだろうか。そんなことを考えているとアナウンサーが躓いた。


 ビリビリ


 何かを引き裂く音と共に湖が引き裂かれた。背景には無機質な機械が映っている、ソレも一瞬のことで『ただいま調整中です』という画面になって放送が停止された。


「今更取り繕ってどうするんですかねえ……アレはGBかBBですよ、ちゃちな合成ですね」


「しかし背景に布を使うとはな……普通に緑か青に塗ればいいのに……」


「茶番なんてそんなものですよ」


 そうしてその日、そのチャンネルは自然豊かな風景を『しばらくお待ちください』という文字と共にずっと放送していたのだった。


 翌日――


『昨日は大変申し訳ありませんでした。原因を調査したところ局との映像が混ざったと言うことが判明しました。視聴者の皆様に誤解を与えたことを大変遺憾に思います』


「苦しい言い訳だな」


「そう言ってあげない、どうせこの人も上に言われたことをそのまま喋ってるだけなんですから」


 そう考えればこの人も立派な被害者か……


『前回の映像は自動で録画サービスより削除されておりますのでご了承ください』


 証拠隠滅は完璧か……


「お兄ちゃん、ちょっと出かけてきますね」


「え!?」


 俺が聞き返す間もなくリリーは家から出て行った。何をするのだろうと思って少し考えていると割とすぐに帰ってきた。


 そして一枚の光学ディスクを差し出した。


「これが放送事故の映像記録です!」


「そんなもののために今出て行ったのかよ!?」


 俺は呆れた。何か急ぎの用事なのかと思ったらただの放送事故の記録の収集だったようだ。


「これで今の映像を何度だって楽しめますよ!」


「お前さあ……」


「何ですか?」


「いい性格してるよまったく……」


 ドヤ顔で胸を張るリリーに俺は勝てないなあと諦めながら、これから当分の間民間で物笑いの種にされるアナウンサーさんを気の毒に思ったのだった。

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