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ハンバーガー全部合成品で

 俺たちはいつも通り配給を貰いに配給所に来ていた。少し騒がしい気がするのは何故だろう? 特別支給があるとは聞いていないのだけれど……


「お兄ちゃん、集まってますけど何か心当たりはありますか?」


「いや……ないな」


 遠目に見ていてもしょうがないのでやや足取りを速めて建物に近づく。貼り紙がだしてあるのに目がいった。皆それを見てから足を少し止めて配給をもらいに施設内に入っていっている。


 俺たちも貼り紙の前に立って読んでみる。


『実験的な製品を支給します。後日アンケートに答えていただける方を対象に支給しますのでご理解ください』


「リリー、これ……」


「ありがたいですねえ、新製品がもらえるとは……」


「アンケには参加するのか?」


「もっちろんじゃないですか!」


 リリーの断言で俺たちも新製品を配給してもらうことが決まったのだった。


 行列が俺たちの番になり室内に案内される。


「お二人ともサンプルのモニターになっていただけるということで構いませんか?」


 配給係の人にそう聞かれ頷く、リリーはブンブンと頷いていかにも楽しみにしているという風だった。


「では定期健康診断をお願いしますね」


「はい!」


 良い笑顔でササッと診断室に入る。俺も歩いて入って身体のスキャンをしてもらう。もちろん何の異常もなく健康体であると結果をもらい、配給袋を手にした。


 それとは別に小箱を二つビニール袋に入れて渡された。これがサンプルらしい。


「それではお二人とも、後日のアンケートにご協力くださいね?」


「「はい!!」」


 いい返事をして俺たちは本日の配給を受け取った。


「お兄ちゃん! これは絶対に良いやつですよ! 間違いないです!」


「あんまり期待のハードルをあげるなよ……?」


「期待の何が悪いんですか! 久しぶりに美味しいものが食べられるんですよ?」


「美味しい……かなあ……?」


 運営がポンポン配るものに美味しいことはあまり無い。本当に美味しいものを配布するなら大々的に喧伝するだろう、それがないという時点で何かワケありの品のような気がしている。


 リリーが小走りにトンネルを走っていくので俺も早足になってしまう。この小箱の中身が美味しければいいのだが、多分期待を持っていられる間だけが幸せなのだろうと予想していた。


 早めに家に着き認証して玄関を開ける、即リリーが袋を俺の手からとってテーブルの上に中身を広げる、そこには……


『ハンバーガー』


 とだけ書かれた小箱が二つ出てくる。


「お兄ちゃん! ハンバーガーですよ! ほらね! 私の予想の方が正解だったでしょう?」


 俺も少し驚いた。楽しむための食事が配給でそう簡単にもらえるとは思っていなかった。


「ハンバーガーか、すごいな……ん?」


 俺はハンバーガーという文字の下に白地の箱に薄黄色の非常に読みにくい色を使って注意書きが書かれていることに気がついた。


「リリー、そこに合成品って書いてあるんだが……?」


「え!? うーん……」


 じっと目をこらしている。色の薄いインクを使っているところからそれが後ろ暗いことであるのだろうと気付かせてくれた。


「ホントだ……薄い色で書いてますね……」


 俺たちを思い空気が包む。その不安をリリーが破った。


「まあまあ、食べてみれば美味しいかもしれないじゃないですか!」


「そうだな、開けてみるか」


 俺が箱を開けるとこんがり焼けたパンによく焼けた色をした肉が挟んである。見た目自体は非常に食欲をそそるのだが……


「匂いがないな」


「そうですね……」


 ソースまでかけてあるはずなのに焼けたパンも肉も一切匂いがせず、いかにも合成品ですとアピールをしていた。


「暖めてみるか」


「そうです! 焼いたら美味しいかもしれないじゃないですか!」


 俺は電気グリルに二つを並べて弱い出力で暖める。数分で温まった、温まったのだが匂いらしい匂いがやはり一切しないのだった。


「ま、まあ……匂いがなくても味が美味しいかもしれないじゃないですか?」


「諦めが悪いなあ……」


 俺は二つを小皿に置いて一緒に昼食として食べることにした。


 がぶりとハンバーガーらしきものにかぶりついた。多分……


 自信が持てないのはソレに一切の味というものが無いからだった。食感こそ変わっているものの、味はと言えば完全に固形食料やゼリードリンクのそれだった。


「リリー、感想は?」


「うぅ……美味しくないです……味がしないですよぅ……」


 結局、なんとかハンバーガーのようなものを食べきって口を水でゆすいで忘れようという話になった。


 翌朝――


『皆様おはようございます、先日の配給はいかがでしたでしょうか? 一から十までの評価をお願いします』


 朝からそんなことがスピーカーから流れたので、リリーが冷たい目をして『評価一です』と答えていたのだった。

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