ペアレンタルコントロール
「むぎぎ……どうしてこれが見れないのですか!」
朝起きるとリリーがディスプレイを前に唸っていた。まあいつものことではあるのだが質問はしておこう。
「どうした? また何か禁止データでも見ようとしたのか?」
いつものことだ、コイツは大戦前の情報を収集している。趣味が悪いとか言うのはさておき、運営に目を付けられそうなことはやめて欲しいのだが言って聞くような相手でもない。
「ちょっと年齢制限のある映像を見たいって思っただけですよ、アカウント登録で誤魔化そうとしたんですけどね……ちょっとサバを読みすぎたようです」
「年齢制限って十八禁くらいか?」
「R50です」
「は?」
「五十禁です」
「何をどうやれば三十歳以上サバを読めると思ったんだ……」
というか五十禁ってよっぽどのデータだろうな……ロクなことを考えない奴だ。そもそも五十以上にならないとみることが出来ないって動画なんて誰が見れるのだろう?
「戦中、戦前のデータへのアクセスは厳しいんだから諦めろよ……」
「でもでも! このデータ一部界隈じゃ話題なんですよ! なんでも過激な表現が含まれているのに公式が配信してるとか……」
「そんなものを求めるんじゃない……運営もピリピリしてるんだからわざわざ危険なデータを見ようとするなよ……危険なことには首を突っ込まないのが賢い人間だぞ」
「私は愚か者なんですよ!」
胸をはってそう言うリリー。危険なデータを見ようとするのは愚かというより蛮勇だぞ?
リリーはどうやってコミュニケーションをとっているのかは知らないが、とにかくそう言った情報に耳ざとい。もう少し健全な情報を見て欲しいものだが健全なデータがアレなのでまともに手に入る情報などと言うものはほぼ無かった。
「お兄ちゃん、五十歳超えの知り合いとかいませんか? ちょっとその人に頼んでデータを……」
「いないしそんなこと頼んだらヤバいことになるのは目に見えてるだろうが!」
「ちぇ……」
五十超えの知り合いとか普通にいないんだがな。同世代であっても知り合いなんてものが極端に少ないのは知っているだろうに……
この時代に知り合いなんて関係性を持った人間は少ないことは知っているはずなのに諦めの悪いやつだ。
「頼むから目を付けられるようなことはやめてくれよ……」
「お兄ちゃんはスリルというものを知らないようですね、危険なことほどやってみたくなるんですよ!」
冒涜的な手段をいとわない妹に俺は呆れながら冷蔵庫からゼリードリンクをとりだした。パックを開けて万能の栄養食を胃袋に流し込む、すこしだけ妹の発想から出てきた胃痛が楽になった。
「リリー、頼むから俺への精神攻撃をやめてくれないか? 今度の検診でストレスが原因の不調が発見されそうな勢いなんだが……」
「私はお兄ちゃんが禁書を閲覧していたとしても気にしませんよ?」
「お前がどう思うかじゃなくて俺がどう思うかなんだよ!」
自分が世界の中心のような判断基準にはついていけない。というか俺がやってもダメなものはダメだと思うぞ。
「まあまあ、私も足が着くような真似はしませんから」
そんなことを言うが足が着かない事なら平気でやるとの宣言だ。もう言ってもしょうがないのでせめて運営に目を付けられないことだけを祈っておこう。人が生まれながらに善であるとは言い切れないが目につくような悪でなければいいのではないかと思っていた。
結局、見つかるかどうかが問題なのだ。
「さて、お昼ご飯にしましょうか!」
「まったく……バレないようにな?」
「私がそんなマヌケに見えますか?」
「そういうところだけは信用してるよ」
不毛な議論を諦めて味気ない昼食をとる。美味しいとは言えないかもしれないが食えるだけマシとも言える。現在リリーが手を出していることは下手をすれば配給を渋られるようなことだ。それに比べれば不味いにせよちゃんと満腹感のある固形食料でもマシだ。
そうしてその日は夕方を過ぎ、相変わらず味気ない夕食を食べ一日が終わった。そしてベッドに飛び込んだのだが……
ピー……ザザッ……ピー……ガー
なんだか耳鳴りとおぼしき音が聞こえロクに寝付けない。基本的に音楽などほとんど聴けるものが無いのでその音をシャットアウトできるものは無かった。しかし人間の本能なのか、部屋を暗くして目を閉じているといつの間にか寝ていた。
翌朝……
「あ! お兄ちゃん、おはようございます! どうですこのお宝データ!」
そういってディスプレイを指さすリリー。その先には戦争の映像が映されていた。確実に禁止されているような映像で、持っているだけでも面倒なことになりそうなものだった。
「どうしたんだよこれ……」
「ふっふっふ……データ回線は閉じられても音声回線が生きていればデータの送受信は出来るのですよ!」
「ああ、前時代の更にその一昔前はそんなことをしてたって聞いたな」
「その技術はもう流出してるんですよねえ……」
スピーカーの方を見ると近くに機械が置いてあり、それには見たところスピーカーとマイクのようなものが付いているようだった。
「これを使ったのか……?」
「そうです! 天才な私からすればこのくらい余裕ってわけですよ!」
俺はリリーの将来を心配しながらエキセントリックな映像を熱心に見ている俺の妹を眺めるのだった。




