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ストレス負荷試験

 ある日、スピーカーからとんでもない放送が流れてきた。


『健康的な社会を営んでいられる皆様に、前時代の保存食の配給を行います。保存性を重視した物のため味についてはご容赦ください』


 そんなとんでもない放送が流れた。これを聞いていた市民はみんな釘付けになっただろう。食糧の配給だって!? 信じがたいことだ。しかも前時代の品、つまりちゃんと味がついている物ということだ。これはとんでもないことであり、貴重な品が大盤振る舞いされるというのは大ニュースだった。


「お兄ちゃん! これは大ニュースですよ!」


 リリーがそう興奮するのも当然だろう。食料というのは数少ない娯楽で、非常に高いのでそれが無料で配られるとなれば大ニュースだ。しかし何か裏があるような気がしてならない、運営をそこまで信用は出来ない。


「リリー、『味の方はご容赦ください』って言ってたし、多分味の方はお察しだと思うぞ」


 しかしリリーはまったくめげない。


「お兄ちゃんは不味いものと味の無いものどっちが好みですか?」


 その問いについては……


「確かに不味くても味があるだけマシだな……」


「じゃあ運営に食料をもらいにいきましょう!」


 こうして俺たちは出かけることになった。一体どんな不味いものがあるのだろう、不安でもあり、どんな味でも味がないよりはマシだと思えていた。


「ねえねえ、何が配布されてると思いますか?」


「そうだな……納豆とかくさやとか初心者にはキツい食べ物だと思うな」


「不通にお肉とかお魚って可能性はないですかね?」


「無いだろうな。不通に食べられるものを特別なこともなく配給に回したりしないだろ」


 リリーはすねたように顔をしゅんとさせた。期待なんてするから期待以下だったときにがっかりするんだ。始めから何かあればラッキーくらいに思っておけばそれ以下であることはまず無い。


「しかし何がもらえるんでしょうね……」


「さあな……あの人混みに混じれば分かるんじゃないか?」


 配給所は人でごった返していた。順番待ちの行列が建物の外まで出てきている。一斉に配給すると決定したのは悪手では無いだろうかと思った。それはさておき俺たちも列の最後尾に並ぶ。


 前に並んでいる人は大きい袋から小さいが重そうな袋まで様々なものを持って帰っていっている。きっと美味しいものがもらえるのだろう、そう思えるほど俺は世間知らずでは無かった。


「ええっと……あなた方は昴さんとリリーさんですね……まだ受け取っていないですね、この中からお一人様一個お好きなものを選んでください」


 そう言って差し出された箱には膨らんだ缶詰や手に取っただけでも匂いが漂ってくるお菓子の箱、納豆やイナゴの佃煮まで様々なものがあった。


 俺は何を選んだものかと悩んだ末、無難にジュースを一本もらった、ジュースが大ハズレということはあまり無いはずだ。


「リリー、お前は何を選ぶんだ?」


 少し悩んだ様子を見せてから重そうなお菓子のアソートを選んでいた。中身が傷んでいるわけでもないのに禍々しいまでに真っ黒だった。


 俺たちは帰途につきながらそれについて話した。


「リリー、なんでそれを選んだんだ?」


「普通に量が多いからですけど?」


 シンプルな理由からだった。量が多いからいいものに違いない、それはシンプルな思考だったが大戦前にはそう言った考えを持った人が多い国もあったらしいと聞き及んでいる。


 トンネルを歩きながらこれらが残っていた理由を考える。まあ普通に考えれば不味いからだろう。俺の手にある茶色いジュースが一体どんな味をしているのかが気になった。


「帰って食べれば分かることだな」


 そう独りごちて家路を急いでいった。そうして自宅についていつも通りの認証をして部屋に入ると、リリーがものすごい勢いでテーブルの上にもらってきたお菓子のアソートを開封した。


「真っ黒ですね……」


「そうだな」


 俺はジュースを冷蔵庫に入れてリリーの戦利品を眺める。グミやキャンディといった見た目の物が多くを占めている。そのどれもが真っ黒なあたり今まで残っていた原因ではないかと推測できる。


「じゃあ食べますかね……お兄ちゃんも一個くらい食べてもいいんですよ?」


「そうか、じゃあ一粒もらおうかな」


 黒い塊の中からキャンディを一つ手に取って口に放り込んだ。まだ不味いと言われて不評だった頃の薬のような味が口の中に広がった。


「なかなかの味だな」


「それはどういう意味ですか?」


「残っていたのが納得って意味だよ」


「ふーん……じゃあ私も食べてみましょうか」


 一つのグミを口に放り込んだとき、リリーの顔が歪んだが、それと同時に愉悦を覚えた。


「不味い……でも味があります……」


 無味無臭と不味いもの、どちらがマシかは意見の分かれるところだが、俺は不味いとしても味があるだけ不味い方がマシだと思えた。


「不味いな、でもちゃんと不味いだけの味があるな」


 そうして、味があることに少し感動しながら、不味いものを食べる機会など滅多に無いことを考えればこれもまた良しと思えた。


「たまにはこんなものもいいですね、味があるだけで十分というのがなんとも悲しいですが……」


 そうして気ままに不味いものを少しずつ消費していって半分を切った頃に冷蔵庫にジュースを入れていたことに思い至った。


 コップを二つ取り出し、俺とリリーの前に置く。


「じゃあジュースを飲もうか?」


「私も良いんですか!?」


「ああ、食べ物を分けてもらうばかりってのも悪いしな」


 俺は茶色い液体の入ったボトルをとりだしスクリューキャップを開ける。匂いを嗅いでみて腐ってはいなさそうだと推測する。食料保管の技術を信じないわけではないが、やはり古いものとなると不安は拭えない。


 二つのコップに注いで軽く乾杯をして軽く口に含んでみた。まるで薬品のような味がした。


「なあリリー、今回の配給って昔の薬を配給したんじゃないよな?」


「さすがにそれは無いでしょう。死ぬほど不味いだけだと思いますよ」


 そうして俺たちは不味いお菓子と不味い飲み物で少し豪華な夕食を食べることが出来たのだった。


 後日、運営が『先日配給されたものに人に害があるものはありませんのでご安心ください』と放送するあたり、不味いことは分かっていたようだった。

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