妹は日記を付けている
私の秘密、私だけの秘密、それがこの日記には書かれています。お兄ちゃんへの抑えきれない思い、愛情、信頼感、性欲、そしてお兄ちゃんを称える文で構成されています。
私の思いの丈を書くにはノート一冊ではあまりにも足りないのですが、こればかりはどうにもなりません。ですから私だけの、誰にも見られない日記を付けているのです。
書き出しは何にしましょうか……
『私の愛しいお兄ちゃん』
ふむ、悪くないですが……
残念ですがこのご時世で書籍というものをほとんど読むことが出来ません、そのせいで文章力が確実に下がっていると思うのですが、運営の皆様はそんなことを知ったことではないようです。
『誰よりも愛しい貴方へ』
ふーむ……ありきたりでしょうか? お兄ちゃんへの溢れる愛を表現するのにどんな言葉を使えばよいのでしょう……
『私だけのお兄ちゃん』
当たり前のことを言い方を変えただけですね……私しか妹がいないのだからお兄ちゃんが私だけのものであることは必然と言えます。
文章力というものが育たないのではないかと思うのですが、運営の連中は教育機関でやるあの『健全で安全な話』の書き写しだけでまともな文章が書けると思っているのだからおめでたいですね。
『私のたった一人の大切な人』
まあこのくらいで良いでしょう。過剰な文章の装飾は読みづらくなる元ですしね。私とお兄ちゃんの生活の記録としては万人に読まれなければなりませんからね。
実のところ『私にとっての太陽であるお兄ちゃん』という詩的なワードも思いついたのですが、太陽を見ることがまず無いこの世界でそれを書くのは誇張表現だと思ってやめました。
今日はお兄ちゃんが頭を撫でてくれました。これは書いておかなければなりませんね!
それと、お兄ちゃんが私の料理を美味しそうに食べてくれたことも……なんなら一挙手一投足を書き残しておきたいところです。しかし残念ながらページの余白という制限がこの手帳には存在しています。アナログデータの難しいところです。
もし、個人用の端末で運営の持っている計算機のストレージを利用するのであれば無限に近く書き残すことが出来るのでしょう。きっとそれは素敵なことなのですが……やはり書き上がってから読んでいただきたいものです。
運営に日記を読ませて面倒なことになるのは避けなければなりません。当然のごとくストレージの全内容を定期的にスキャンしている場所に置くわけにはいかないわけです。
私の、私だけのお兄ちゃんの記録を残しておく義務があります。お兄ちゃんに見せるには少々恥ずかしいですが後世の人が読むには平易な文章も必要かもしれませんね。
「お兄ちゃんは私を力強く抱きしめて……」
少々の脚色は必要ですね、古今東西伝説といったものはある程度の脚色がされているものです、このくらいなら可愛いものでしょう。
私は多少のアレンジを加えながら事実を書き記していきますお兄ちゃんが私のものであることを強調しながらペンを滑らせていきます。
私は一通り事実を書き連ねたあとに蝋印を押して封書にしておきました。机の中に入れて今までのお兄ちゃんへに対する思いの大きさを確認しました。私はそれに満足しながらその日一日を過ごしたのでした。




