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通貨『チョコレート』

 チョコレートが配給された翌日、やはり闇市場は賑わいを見せていた。


 話によるとチョコレート類似品一枚が固形食料30個分というレートになっていた。チョコレート一枚で一月くらい生活できそうなレベルだった。


 そんなぶっ壊れレートを噂に聞きながら俺たちは話をしていた。


「もったいないことしましたかね……」


「そうでもないんじゃないか。チョコなんて食べるものだろ、美味しかったんだからそれでいいじゃん」


 俺はそう言うもリリーは何処か納得をしていないようだった。


「また食べたいですよね……」


「それはそうだけどさ、現実問題無理じゃね? アレを手放すやつとかほとんどいないだろ」


 リリーは気が重そうに頷く。


「そうですね、実際私もチョコレートがあったら絶対クソまず固形食料と交換なんてしないですもん」


「世知辛いよな……」


「平等っていうのも上手くいかないものですね」


 全市民に平等に配られたところで、誰か他の人のものを欲しいと思うのは止められない。しかし、交換に値するものがほとんど無いというのが難点だ。


 そうしてその日は終わっていった。これといって特別なことも無い、ごくありふれた退廃的な日常だった……


 翌日


「お兄ちゃん! 大変ですよ!」


「なんだよ、朝っぱらからうるさいなあ……」


「とにかく放送を聞いてください!」


「ん……?」


 リビングに向かいスピーカーがオンになっているのを確認する。緊急放送のシグナル用の赤いLEDが点灯している。


『……ます……現在、チョコレート類似品の市販がされている状況を鑑み、回収を決定しましたので残っているものがあれば配給所に返還してください。返還していただいたかたには固形食料一ヶ月分を支給します』


「あらら……」


「食べておいてよかったですね……まさか運営がここまでやるとは思いませんでしたよ」


「さすがに通貨状態になりかねなかったからな、運営も重く見たんだろうな」


 通貨が廃止されたためそれに相当するものの取り締まりはそれなりにやっている。強制力が無いのでただのお願いではあるのだが、ここまで普及する品が出てきたことは滅多に無かった。さすがに貨幣経済の復活しかねないヤバい品を配ったと気がついたのだろう、大盤振る舞いで回収をするようだ。


「食べたもの勝ちなんでしょうか?」


「どうだろうな、一応返却すれば補填はあるって言ってるけど……」


「お兄ちゃんは固形食料一月分で交換しようと思いますか?」


「絶対に嫌」


「しばらくはチョコレートが出回るでしょうねえ……」


「やらかしたのは運営だしな。文句を言われるいわれもないさ」


 合法的に手に入ったんだから文句を言われる筋合いは無い。食べたもの勝ちだ。


「しかし、これはちょっと困ったな……」


「何がですか? 私たちはもう食べちゃったんですから関係ないでしょう?」


 リリーは呑気にそう言う。しかし重要な部分がかけている。


「こんな事があったら当分は食糧の配給は渋くなるだろう?」


「ああ、そうですね……さすがに今回ほどのやらかしはしないでしょうね……」


 当面の所、人権的な配給品は期待できないだろう。もったいないことは確かだ。


「まあ今回は私たちが上手くいったって事でいいじゃないですか!」


「そうだな、俺たちがうまくやっただけでも十分か……」


「そういうことです」


 そんな会話をしながら俺たちは白湯を飲んだ。やはり味が無いというのは口を満足させてくれないものだなと思いながら、当面甘いものが食べられないのを悔やむのだった。

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