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コーヒーとチョコの関係

「お、お、お兄ちゃん!? 配布がチョコで運営ってマジですか!?」


「まず落ち着け、何をいってるのか分からん」


 妹はその場で深呼吸をスーハーとして上気していた頬を落ち着いたピンク色にして俺にその噂を話し始めた。


「運営がですね、チョコレートを配布する計画を立てているって噂があるんですよ!」


「いくら何でも嘘だろう? そんな余裕がないことは明らかじゃないか」


 カカオの木の種子こそ保存されているが生育に成功する環境があるとは思えない、あったとしても研究室内での実験程度だろう。


「それが……チョコに似た味のする合成食料を開発中って噂なんですよ!」


「チョコねえ……まともに食べられる物ができるのか?」


 今までも肉を始めとして合成食料は数多く作られた。そのほとんどは元の味におよばず代用品として用をなすことは滅多に無かった。


 あるいは代用品程度には食べられる物ができるのかもしれないが、それは軒並み味が悪くて本物を恋しくさせるだけだった。


「それが今回は割とすごいらしいですよ! 噂ですけど」


「噂がそんなにあてになるかなあ……」


 今までの経験からいって大抵期待を煽るものほど落差で悲しくなってしまう。期待は絶望の裏返しだ。


「お兄ちゃんももう少し夢を持ちましょうよ!」


「分かったよ……本当だったら俺のとっておきの品を出してやるからその話はこれまで、いいな?」


「ほほぅ……お兄ちゃんのとっておきですか。それは大変楽しみですね」


 楽しそうにしながらリリーは寝室へと向かった。俺は自分の部屋に戻りチョコなんていう高級品が手に入るのだろうかと訝しんだ。


 翌日


『皆様に試験的な配給を行いますので皆様配給所にいつも通りお越しください』


 朝からスピーカーはその事について延々と流していた。いつもの特別配給なら数回放送すればそれで終わりなので運営の態度から本気度が伝わってくる。


「ほらね、お兄ちゃんは私をもっと信じるべきなんですよ」


 ドヤ顔でそう言うリリー。俺はどこまでが信用できるものなのか疑問に思いながらも、ちょうど配給日なので配給所に向かうことにした。


 家を出てトンネルを歩くと時折配給の袋を持った人たちと出会う。まだ袋を開けていないので中身が何かは分かっていないがいつもの袋より大切そうに持っていた。


「さあお兄ちゃん、私が正しいかお兄ちゃんが正しいか今日決着がつきますよ!」


「大げさだなあ……」


 そんなやりとりをしながら配給所に着いた。何故か今日は人が多い、配給を受けるのは決まった日なので受給者の数は変わらない、職員の数が数人増えていた。


 たったの数人、しかし数人に支払うコストを考えたらこんな所に人を集めるのは異様な出来事だった。


「いらっしゃいませ、昴さんとリリーさんですね? 配給前に身体スキャンをお願いします」


「はい」


 そして俺たちはスキャン用の部屋に入り、健康診断を済ませる。いつも通り異常なしなのを確認してから配給を受け取る。


「今回は試験的な物資も入っていますので帰宅するまで開けないようお願いします」


「もちろんですよ!」


 そう言ってリリーは袋を喜んで受け取り、俺の方を見てニヤリとする。『勝ったな』と言いたげな表情をしていた。


 そうして帰宅をしながら試験的な物資について話し合う。


「絶対チョコですって! 間違いないですよ!」


「どうだかな、まあいつもより多いのは確かだろうな」


 そしてやいやい言いながら帰宅をした。家に着くなりリリーは袋をビリビリと破いた。よほど気になっているらしい。


 そこには一枚の銀紙に包まれ『チョコレート類似品』と書かれた板があった。


「すごいな……本当にチョコじゃないか」


「ふっふん! 私の勘は当たるんですよ!」


 俺はそれに驚きながらも、約束を思い出し部屋に戻った。


 引き出しからアルミホイルに包まれたそれをもってリビングにいった。


「クンクン、お兄ちゃん、その手に持っているものはもしやコーヒーですか?」


「鼻がいいな、当たり、チョコレートをお茶菓子に食べようか」


「いいですねえ!」


 俺はコーヒー豆を挽きながら久しぶりに飲むコーヒーに期待をする。劣化が比較的遅いものなので保存が利く、以前特別配給で支給されたものをとっていたが正解だったな。


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