妹とダウト
「ダウト!」
そんなやかましい声がリビングから聞こえてきた。カードゲームでもやっているかのような声だが、もちろんウチにはそんな相手はいない。もし一人でカードをプレイしているのなら少し可愛そうになる気がするほどだ。
「ふぁああ…………」
朝の空気は何処か気怠い気分にさせてくれる。果たしてリリーは一人でカード遊びをしているのだろうか? ちょっとしたイタズラ心を覚えながらリビングのドアを開けた。
「3!」
リリーはディスプレイに向かって電子画面でカードを切っている。さすがに相手が居ないわけでは無さそうだが、相手がいるならいるで問題だった。この部屋に誰かが来ているのか? もちろんそんなはずはなく、ディスプレイにゲーム相手たちとカードの手札一覧が表示されている。
「おーい? どうしたんだ!? どうやってテレビにこんなものを映してるんだ? というかどうやったんだコレ!?」
俺が驚きの声を上げると何のことはないように妹は言う。
「メンテですよ、定期メンテ。まあ定期とは言いがたいですが、とにかく監視用機材の総メンテナンスが入るって話を小耳に挟みましてね」
「そんなことどうやって知ったんだ?」
メンテで運営が公式にアナウンスすることはない。いつ監視機材がダウンしていつ復旧予定なのかなどご丁寧に教えてくれるはずもない。
「ああ、ディスプレイに入れてるこのプログラムを売ってた人が教えてくれたんですよ」
「海賊版ソフトか……」
「お兄ちゃん、あんまり不穏なことを言わないでください。ソフトで違法になるのは売った側のみですよ。買った人とコンピュータにインストールしてそれを使うまでは自由です」
「詭弁だな……」
そう、確かに違法ではない。徹底的に配布している連中を締め上げるようなことはするが、ユーザは捕まえない。この手のソフトは通信監視で遮断してしまえばいいという考え方をしている。
「しかし、ディスプレイでこんな事が出来るんだな……」
「緊急用のモニタリング昨日と通信機能をハックしてゲーム用にしたそうです」
良くない使い方だとは思うがこの技術力は素直にすごいと思っていた。暇な人間が技術を持て余すと何をやるかと言うことを考えるとなんとも言えない気分になった。
「それでダウトをやっているのか?」
「ええ、ちょっとこのゲームが終わるまでお話は待ってもらえますか?」
画面には会ったこともない人たちがマルチウインドウで表示されている。これだけの数の人間がディスプレイを改造しているという普及率に驚いた。普通の人間はそんなことはビビってやらない。恐れ知らずの猛者たちが一同にウインドウに表示されているわけだ。
「じゃあ俺は先に朝ご飯を食べてるな」
「えー……待ってくれてもいいじゃないですか……」
リリーは不平をあげた。
「だってそのゲームいつまで続くか分かんないし……」
「私がもうじき勝ちますから、はいそれダウト」
ごっそり山札がリリーが疑いをかけたプレイヤーに移っていく。勘の良いやつだ。そういえば俺が嘘をついたときも秒で見破っていたっけな、コイツに嘘をつくのはどうにも分が悪いらしい。
「あー負けた負けた」
「七番さん強すぎですよ」
「五番さんが弱すぎるだけでは……?」
「三番さんだっていきなりダウトかけられてたじゃないか」
喧々諤々の議論が繰り広げられている。画面の隅に7と表示されているのでおそらくリリーは勝ち続けていたのだろう。圧倒的に賞賛されていた。
「ではまた次のメンテで」
「おーけー、次は勝つよ」
「またねー」
「リベンジするからな」
そんなやりとりをしながら画面がいつも通りのものになり、産めよ増やせよと宣伝を始めた。うんざりしながら電源を切ってこちらに向いた。
「では朝ご飯を食べましょうか」
「そうだな」
モソモソとした固形食料をかじりながらリリーに聞いた。
「お前ってダウト強いの?」
「強いですよ? 見てたじゃないですか」
なるほど、確かにさっきの勝負では圧勝だったようだ。
「じゃあ俺と勝負してみるか?」
「お、いいですねえ……じゃあお兄ちゃん、勝負をしましょうか」
迷うことなく御禁制品のカードを引き出しから取り出す。コイツがいつかやらかすのじゃないかと心配でならない。
ゴクリとリリーはゼリードリンクをがぶ飲みしてカードを用意する。俺も急いで固形食料を口の中に押し込んで勝負をしようということになった。
そして少しして……
「ダウト」
俺の声で山札がまとめてリリーの手札になる。端的に言ってコイツはものすごく顔に出やすかった。さっきは何故勝てていたのか不思議になるほどの弱さだった。
最後の一枚を切って勝負が終わる。俺はリリーに聞いた。
「なんでお前こんなに顔に出るんだ?」
「それは……お兄ちゃん相手だからですよ!」
「?」
「はあ……分かっていただけないようですね、まあそうだろうとは思っていましたが……」
なんだかひどく軽く扱われているような気がする。
「まあいいでしょう。お兄ちゃん、またカードに付き合ってくださいね?」
「ああ、そのくらいなら構わんよ」
そうして決着がつき、俺はコイツが施設に送り込まれるようなことにならないなら遠慮なく付き合ってやるのに、そう思いながらカードを引き出しの二重底にしまっているのを眺めるのだった。




