国民の祝日
『本日は祝日になります、緊急時以外対応しかねますのでご容赦ください』
朝のスピーカーからの放送はそんなものだった。ほとんどの人間が仕事などしていない時代になってわざわざ国民の祝日という概念が必要なのかは非常に疑わしいのだが、とにかく今日は休日らしい。
「お兄ちゃん、今日はお休みみたいですね?」
「二十四時間三百六十五日休みだろうが……」
仕事などしている人は物好きか貧乏くじを引いた人だけだろう。前時代には無職が疎まれていたらしいが彼らは機械に仕事を任せるということを何故しなかったのだろう? 昔の人の考えは分からないものだな。
「ところでお兄ちゃん、この前の祝日のことを覚えていますか?」
「ああ、何の日だったかは忘れたがお前が楽しそうにしてたのは覚えてるよ」
理由は分からないが楽しそうに出かけていた。犯罪などをしたという話は聞かないので別に詮索はしなかったのだが。
「実はですね……その時面白いものを手に入れまして……見ます?」
「見ないって言っても見せてくるだろうが……」
リリーは深く頷いた。
「さすがですね、私のことをよく分かっていますね! ではちょっと持ってきますね!」
「持ってくる?」
「まあまあ、見てのお楽しみって事で!」
そう言って部屋に戻っていった。なにかレア物でも手に入ったのだろうか? 確かに祝日は警察も機能していない……まあいつも機能していないわけだが……ので闇市が活発になると聞いている。どうせまたくだらないものでも買ってきたのだろう。
ゴトッ……ゴトゴト
物々しい音を立てながらドアが開いた、そこには何の変哲も無いディスプレイを持ったリリーがいた。
「よいしょっと……」
テーブルの上にディスプレイを置いて電源に繋いでいる。
「どうしたんだ? ディスプレイなんて運営に申し込めば確実に手に入るだろう?」
「ふっふっふ……このディスプレイはただのディスプレイではないのです!」
ポチッと主電源を入れる、画面には何も映らなかった。
「ジャンク品か?」
「違いますよ! こうしてみると分かりますかね……」
リモコンで様々な操作をしているが画面には何も映らない、やっぱり壊れてるんじゃないか。
「分かりますか? そう! このディスプレイはネットワークに繋がっていないのです!」
「マジで!?」
現代において手に入るディスプレイは運営の放送しか映らない上何を見ているか、何を再生しているかまでしっかりとモニタリングされている。無認可の映像を映そうとすると時々失敗することがある、そのため『健全な』映像ばかりが流れているものが大半だ。
「そしてこちらが旧世代のゲーム機になります!」
「うっそだろ!? この時代にゲーム機が手に入るのか!?」
リリーがドンと置いたのは灰色の筐体だった。確かに在りし日のゲーム機のように見える。しかし、核兵器による電磁パルスで大半の半導体製品が壊れてしまい、生活必需品意外の生産がほとんどされなくなり、真っ先にゲーム機の製造は打ち切られたはずだが……
「しかもソフトはちゃんと入ってるんですよ! どうです?」
「すごい……語彙が貧弱になるくらいすごい」
胸を張るリリー、俺は実物のゲーム機を見て驚きしかなかった。この時代にゲーム機の実物を見ることが出来るとは思わなかった。
「じゃあお兄ちゃん、ゲームで勝負しましょうか!」
「俺はこんなレア物使ったことがないんだが……」
操作方法も分からないのだが勝負になるのだろうか?
「そこは私が教えてあげますよ、私はたっぷり遊びましたからね!」
それから俺とリリーのゲーム練習が始まった。
「ここでジャンプして敵を踏んでください」
「そこはダッシュジャンプじゃないと落ちちゃいますよ!」
「ボスは特殊武器でないと倒せませんよ」
そんなことを言われながらゲームをプレイしていった。劣悪な環境で生き残るためのゲームなども入っていたが、現代に比べて食事を自由に出来て悪いことをすれば刑務所送りになるなど現代よりマシじゃないかと思えるような環境だったりもした。
「まさか今テレビゲームをプレイできるとは思わなかったよ……」
遊び倒したあとで俺は正直に言った。
「でしょう! 私はいつだって特別な物を手に入れるのが得意なんですよ!」
「しかし……どうやってこのゲーム機を手に入れたんだ?」
「ああ、その事ですか。ジャンクとして『謎の機械』ってラベルがついて売られてたんですよ、クッキー一缶と交換できました」
「じゃあ売ってる方は使い方を知らなかったのか」
「ええ、無知は罪とはいいませんがカモではありますね」
俺たちはその日一日ゲームで遊んで祝日を満喫したのだった。




