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報道管制

『皆様におかれましては本日もご健勝のこと……』


 何やらスピーカーが時勢の挨拶をしていた。知ったことではないので聞き流していた。


「あらら、運営もご苦労なことですね」


「何かあったのか?」


「ああ、一昨日まで参加してたグループが摘発されたんですよ、さすがに殺されはしないでしょうが矯正施設送りでしょうね」


「お前はそんなもんに参加してたのかよ……」


 リリーは胸を張って言う。


「私はコソコソしたことをさせれば右に出るものは居ませんからね!」


「何処がどうなれば自慢になるんだよ……」


 危ない橋を渡るのが好きなやつでも思想矯正はされたくないと思うぞ。というか最近ちょいちょい見かけないと思ったら外出していたのかよ……


「で、何のグループだったんだ?」


「はい、運営への不満をぶちまける会でした」


 良い笑顔でそう言うリリーに俺はあきれ果てた。この時代に運営への不満ってどう考えても死亡フラグだろう。そんなリスキーなものに参加するんじゃない……


「それでお前は摘発されなかったんだな?」


 連帯責任ということもあり得るのでコイツに捕まられると非常に困るのだが。


「大丈夫ですよ、一昨日兄弟姉妹で結婚を許している運営は狂っているって言い出した人がいて、喧嘩別れしましたので」


「それはそれでどうなんだろうな……」


「何をおっしゃいます!? お兄ちゃんとの結婚は正義でしょう?」


「そう思うならそれで構わないが、運営批判は程々にしておけよ? 思想矯正は結構厳しいって話だからな」


「大丈夫! 私は完璧な人間ですから!」


 何が大丈夫なのか……心配でしょうがないのだが、まあ会合の仲間たちだって人を売るような真似はしないだろう。というかそう言った集会では匿名での参加が基本だと俺は知っている。


「やり過ぎんなよー? 最近人類の減少が始まってるって噂なんだから向こうもピリピリしてるんだよ」


「知ったこっちゃないですね。私たちの仲が良ければ他のことは大体知ったことではないんですよ!」


「それでキレたのかよ……一応聞いておくが運営に通報したわけじゃないんだよな?」


「当たり前ですよ、配給以外であそこと関わっていいことはほぼ無いですからね」


 ドライにそう答えるリリー、俺は運の悪い人たちを思うと気の毒でたまらないのと同時に妹が施設送りにされなかったことを感謝した。


 言論の自由の形がすっかり変わってしまってから幾年経ったのだろう、もはやモラルなどと言うものは各自が勝手に守るものとしてルール化もされていなかった。不健全な人間は矯正施設で修正して世に送り出す。人間として生きる喜びなどすっかり無くなっていた。


「お前が無事だっただけで御の字だな……」


 俺がそうこぼすと耳ざといリリーは俺に言う。


「ほほう……可愛い妹が無事で心底嬉しいって感じですかね?」


「気のせいだろ」


 俺はそう言って顔を背けた。妙なところでやたらと勘の良いやつだ……


「はいはい、これで当分このエリアにいる人が減りますね……」


 確かにそうだ。集会の自由と移動の自由が無い以上ここいらの移動可能なゾーンに入っている人ということになる。つまりこのあたりの幾人かは収容されたということだ。


「配給……減るかなあ……」


「いえ、むしろ増えるかと」


「え!?」


「いいですか? 配給対象は減ったわけですね、そして私たちは捕まらなかった善良な人間なわけです。運営が飴と鞭を使いそうじゃないですか?」


「世知辛いなあ」


「世の中なんてそんなものですよ、矯正施設でもそう変わらない食事は出るらしいですし、そんなに気後れする必要も無いでしょう」


 世間は思っている以上に冷たいようだ。人間関係もここまで希薄になると他者への思いやりもなくなるらしい。昔の人間達はもう少し関係性を重要視していたと聞いたことがあるが終わってしまった時間を取り戻すことは出来ない。今は現実に向き合うしか無いな。


「お兄ちゃん、私たちが一緒にいられるってこと以上に重要なことがありますか? 世界の人口なんて正直どうでもいいんですよ、お兄ちゃんと暮らせるならね。食事のレベルはちょっと不満ですけど……」


「薄情だな」


 俺は思わず考えていることを口にしてしまった。


「私にとってはお兄ちゃんが全てですから、他の人に情を持つことなどありませんよ」


 きっぱりとした他者への拒絶だった。


「お前は人間が嫌いなのか?」


 リリーは少し考えてから答えた。


「お兄ちゃんが大好きなだけですよ」


 ふふっと笑ってこちらを向く、その心からの笑顔にうそ偽りは無さそうだった。


 余り人類としては感心できないのかもしれない、それでも俺が特別であることに何処か幸福感を覚えてしまうのだった。

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