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配給キャンディ付き

『新年の記念と皆様への感謝を込めて配給に特別品を付けることが決定しました』


 そうスピーカーから流れてくるなり、リリーは快哉を叫んだ。


「よっしゃあああ! 特別配給ですよ!」


「ここのところ無かったから珍しいな」


 俺はその程度の感想なのだが、リリーの方はテンションが非常に上がっていた。


「ヨシ! お兄ちゃん! これは久しぶりに闇市に流れるものが増えるフラグですよ!」


「真っ先に闇市に流そうとするお前も大概どうかと思うな……」


 もうすこしまともな使い道を思いつかないのだろうか……? 真っ先に流通に乗せようと考えるあたりが商売人といった根性だ。一応闇市も規制されてはいるはずなんだがな……運営は本気で帰省する気が無いようなのでどうしようもないな。


「配給は……明日だな」


「よっしゃああ! 私の資産が増えちゃうううううう!!!!」


「リリー、もう少し静かにしようか?」


「これで静かにしろって方が無理でしょう! 久しぶりの配給追加ですよ!」


 どこまで期待していいのかは不明だが、何ももらえないわけではないのが確定しているだけでも心を躍らせるのには十分なのだろう。ここ最近の合成食料にうんざりしていたのだろうが、もう少し静かにできないのだろうか……


「配給内容は非公開か……」


「楽しみをとっておくという運営の判断でしょうね」


 なにがあっても好意的に解釈するつもりのようなので、明日の配給に期待して、その日は寝ることにした。


 なお、隣の部屋から不気味な笑い声が聞こえてきたのは言うまでもない。イベント前の幼児みたいな性格をしている妹だった。


 ――翌日


「ふぁあ……あー……お兄ちゃん、おはようございます!」


「おはよ、ちゃんと睡眠はとろうな?」


「無茶を言わないでくださいよ! あんな放送の後で期待するなって言う方が無理ですよ」


「一応健康診断もあるんだからな?」


「だいじょーぶですよ! 私は健康に気を遣う方ですからね!」


 大概闇市で買ってくる食べ物が不健康なものばかりだというのにどの口で言っているのだろうか……自分ではそう信じ込んでいるようなのでそれについて水掛け論をするのはやめておこう。


 配給所へのトンネルの中で、リリーは楽しげに早足で歩いていた。俺は置いていかれないように足を進めながら今日の配給品について考えていた。


 話題にはなっていないようなので、あまり期待は持てないだろうなと思うのだが、それをはっきり言うのは躊躇われた。


 そうこうしているうちに配給所に着いたので、一通り健康診断をしてから配給袋を受け取った。


 その袋はいつものものと大差ない重さで、袋のサイズが大きくなっているということもなかった。これはハズレかな?


 リリーが袋を俺からもぎ取って主さと大きさを確かめる。そしてトンネルのライトに透かしてみて、大きなものが入っていないのを確認してため息をつく。


「期待外れだったか?」


「いえ、何が入っているかは開けてみるまで分からないものですよ?」


 そうして帰宅するなり、袋をザバっとテーブルの上に開ける。いつもの合成食料に、カツンという金属の音がした。


 リリーはそれを聞いて生活必需品をより分けてからソレを見つけた。


「なんだ? 缶か?」


「お兄ちゃん! これは当たりですよ!」


 そう言ってリリーは両手に『キャンディ』と書かれた缶を二つ持って勝ち誇った笑みを浮かべる。


「飴か、久しぶりにまともなものが食べられるな」


「それもそうなんですが、この缶にはいろいろな味のキャンディが入っているわけですね……つまりは……分かりますよね?」


「分かりますよねと言われても……さっぱり分からんのだが」


「まずはお皿を二つ用意します」


 キッチンから皿を持って来るリリー。


「ここに二缶を開けるんですよ!」


 色とりどりのあめ玉が二枚の皿の上に盛られる。


「ここでー! このキャンディの白いやつを取り分けるわけですね」


 リリーが一つの皿から白いキャンディをもう一つの皿へと移す。白いキャンディを入れた皿から白以外のキャンディを別の皿へと移していく。


「これでミント味とそれ以外がより分けられたわけですね」


「そんなことをしてなんになるんだ?」


 俺の疑問にリリーは『まだ分からないのか』という顔をするのでイラッとする。


「ミント味は不人気! つまりこちらをキャンディの缶に詰めて交換に出すわけですよ!」


「ものすごくせこい売り方だと思うけど、買う人がいるのか?」


「世の中にはミント味が大好きという変人がいるわけで、そういう人には刺さる缶となるわけですよ!」


「ミント好きの人に謝っておけよ?」


「では私はこのミント缶を売ってきますね! こういうのは鮮度が命ですから! では言ってきます」


 颯爽と闇市に向かうリリーを見送りながらオレンジ色のキャンディを一つ口に入れる。ちゃんと味がして甘いし、合成香料がほとんどだとしても果物の香りがするのは非常に貴重な品だ。


 ミント味がどんな味かは知らないが、一応売れるだろうなと思う程度には美味しかった。


 そしてしばらく待っているとリリーが楽しげに帰宅した。どうやら成果は芳しいようで、袋を持って帰ってきた。


「成果はどうだった?」


 俺の問いかけにサムズアップで答えるリリー。


「完璧ですよ! 全部野菜とお肉に交換してきました!」


「マジか……」


 まさかの高評価だ、ミント味がそこまで受けのいいものとは思わなかった。


 その日は随分と豪華な夕食となり、残りの食べ物は冷蔵庫で保存をしてしばらく後にリリーが売り払うということになった。


 幸い冷蔵機能が発達したおかげで食材が腐るようなことは無い。美味しい食事のために今日もリリーは資産運用をするのだった。

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