第9話 色々ありますけど、気になるのは。
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ドスンッ、ガシャッガラガラ、パリーンッ
重いものが床に落ちて、何かを倒したみたいな、ものすごい音で目が覚めた。
「んぅ?」
目覚めは、それほど良い方ではない。
父には、いつも早寝早起きを心がけるように言われていたから、守るように努力しているけれど。
目を開けると、床に尻餅をついたアルベルト様と目が合った。
「…………」
「…………」
その周囲で、サイドテーブルが倒れ、グラスや蒸留酒の瓶が割れて散乱している。
「え? あの……」
思い出してみよう。昨夜の出来事。
そうそう、アルベルト様は、熱があったはず。
もしかして、こんなふうに倒れてしまうほど、まだ具合が悪いのかしら。
心配になった私は、起き上がって竜の姿の感覚でベッドから出ようとする。すると、ズルッと体に絡み付いていた布がずれる感覚がした。
違和感を感じて、胸元を見ると、巻きつけていたブランケットがズレかけている。
「……ふ、ふぇ?」
アルベルト様は、熱があった。
そのあと、何が起こったのだったかしら?
竜になっていた時の記憶を思い出そうとするけれど、それは夢の中みたいに朧げで、前世の記憶を思い出そうというときに似ている。
真っ赤になったアルベルト様が、私のことを凝視している。とりあえず、熱があったアルベルト様と一緒のベッドで寝ていたということで良いですか?
「ふっ、ふえぇぇぇぇっ?!」
なっ、なんてことしてるんですか私!
いくら竜の姿だからって、熱で正常な判断ができない人の寝床に潜り込むなんて!
私は、ブランケットの上から、さらにベッドカバーを頭から被って巻きつけた。
「お見苦しいものを! すぐに着替えてきますから!」
そうだ、アルベルト様より早く起きようと決意していたのだったわ!
竜騎士団の寮に、一応一室が用意されている。
そこに、自宅から持ってきた私の着替えがあるはず。
ベッドカバーを被ったまま、アルベルト様の横を通り過ぎようとした時、腕を掴まれて、引き止められた。
「……その格好で、どこに行くの。それに、ガラスを割ってしまったから、素足で歩くと危ない」
ゆらりと立ち上がったアルベルト様が、なぜか私をベッドカバーとブランケットごと横抱きにした。
「すまなかった……。いくら魔法を使いすぎて酩酊状態になっていたからといって、情けない」
――――お姫様抱っこ!?
アルベルト様は、それどころではない私を抱えたまま寝室を出ると、ソファーにそっと降ろしてくれた。
たしかにこの状況に、どうしていいか分からないほど混乱しているのだけど、それ以上に私は気になることがあった。
「あの……。お体の具合は」
想定外のことを言われたみたいに、アルベルト様が目を見開く。
だって、あんなに熱があったのに、大丈夫なのだろうか。
「……ライラのおかげかな。いつも以上に魔力が安定している」
「なにも、していません」
竜であるのをいいことに、寝床に潜り込んだだけです。
「……いや、こんなふうに俺の魔力が安定しているのは珍しいんだ。」
そうなのですか?
魔法が使えたら使えたで、大変なのかしら。
「待っていて、服を用意してくる」
そう言って、ドアを開けたアルベルト様。
その直後、何故か分からないけれど鳥肌が立つ。
アルベルト様が、なぜか怒っている。
その背中から、絶対にこの人に逆らってはいけないと感じさせるオーラを感じる。
「お前ら……」
ドアの前には、ロバート様をはじめとした、竜騎士団の皆様が勢揃いしていた。ロバート様に至っては、いきなりドアが開いたせいか、膝をついている。
乱暴に閉められたドアと、その直後、爆発するみたいな物音。そして、その後の静寂。
一体何が起きたのだろう。
理解が追いつかない私だけが、室内に取り残された。
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