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第7話 この生活に慣れてしまったらいけないのです。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 あれから数日。すっかり、ここでの生活にも、竜の姿にも慣れつつある私は、やはり順応性が高いに違いない。


 まあ、ちがう人(竜)生を歩むのも二度目なのだもの。悩んでばっかりいるのも、性に合わないし。


 お気に入りのブランケットは、アルベルト様のお下がりだ。それを巻きつけていると、アルベルト様がそばにいるみたいで、とても安心する。


「ライラ、こっちこ〜い」


 アルベルト様はお仕事中。代わりにロバート様が、護衛と称して、私と遊んでくれている。


 美味しそうな串焼き肉を片手に、ロバート様が手招きする。


 竜の姿では、精神年齢が下がってしまうのかもしれない。でもそんな、そんな食べ物なんかに釣られたりしないんだから!


「ライラ、ヨダレが垂れてるぞ?」


「キュイッ(うそっ)」


 慌てて口周りを手で拭いていると、ロバート様はお腹を抱えて笑い出す。騙された。


 護衛をしてくれるのは、ロバート様ばかりではない。竜騎士団の寮で暮らし始めた私は、今や竜騎士団員のマスコット的存在だ。

 思った以上に、竜騎士たちは仲が良かった。

 そして、竜のことをとても大切に思っていた。


 この中で、つい先日まで働いていた父に、ふと思いを馳せる。竜騎士団でお世話になって初めて、父が竜騎士団の団長を務めていたことを知った。


 18歳になったら、話してくれるつもりだったのだろうか。仕事に関することを、父は話してくれなかったから、それすら私は知らなかった。


 もっと、知りたかった。もっと、話がしたかった。


 そう思ってしまうと、もうダメだった。

 一回、泣いてしまったあの日から、すっかり私は泣き虫になってしまった。


 だめ。ロバート様が、本当は私を元気付けようとして、こんなふうな構い方をしてくれているんだってこと、知っているんだから。


「……あー、泣くなよ嬢ちゃん。こう見えて、御令嬢の涙には弱いんだ……。ほら、串焼き肉食べろ」


 ほら、ロバート様が困った顔になってしまったわ。


 父の代わりに団長に昇進したアルベルト様。アルベルト様は、高貴なお方らしい。

 それでも、竜騎士団は完全な実力主義で、ロバート様は平民の出でありながら、アルベルト様の副官を務めている。


 言動からは、軟派な印象を受けるけれど、職務に忠実で、有能で、とても面倒見が良い。肉に釣られたわけじゃない。本当のことだ。


 他の隊員たちは、私のことをアルベルト様のペットの子竜だと思っているけれど、ロバート様だけは、私の事情を知っている。


 アルベルト様から話を聞いていたロバート様は、父には恩があるからと、二つ返事で協力を申し出てくれた。


 泣いていても何も解決しないのは、経験済み。

 私はロバート様が用意してくれた串焼き肉にかぶりつく。


 本当は、お菓子も食べたいのだけれど、この姿の時にお菓子を食べて大丈夫かがわからないと、お預けをくらっている私。


 早く人間に戻りたいものだわ。


 ハグハグと、お肉を食べ続ける私を、ロバート様が慈しむような瞳で見つめていた。


「…………キュイ」


 汚れてしまった口を、タオルで綺麗に拭いてくれるロバート様。口では色々言っていても、ロバート様は面倒見がいい。


 その、あまりの万能さに感激して、潤んでしまった目で見つめていると、ふわっと体が浮き上がる。


「……ただいま、ライラ」


 アルベルト様! お帰りなさい!


 待ちに待っていた人が、ようやく帰ってきたのが嬉しくて、抱き上げられたまま、思わず背中の羽がパタパタと勢いよく動いた。


「ロバート、ライラの護衛、感謝する。何か変わったことはなかったか?」


「ああ……。今の所は。だが、噂は既に広がっているぞ。金色の瞳は、やはり別格だからな」


 私のことですか? たしかにこんな色合いの竜、見たことないですものね?


 ゆらゆら揺れる尻尾を見つめる。


 なぜ、私は髪の毛にしても鱗にしても、こんなに派手な色なのか。


「そうだな。まあ、この姿なら俺のペットだと言えば、手出しが出来る人間はいないが……。でも、ライラは人間だ」


 そう、私は人間のはず。竜の姿に、だいぶ馴染んでしまったけれど、元に戻らないことには始まらない。いくら一生懸命キュイキュイ言っていても、私の言葉はアルベルト様にも、ロバート様にも通じないのだから。

 

 私は、気合を入れて「キュイッ」と鳴いた。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
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