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第6話 ペット枠に納まってしまったようです。



 ふわふわした、極上のクッションの上で目が覚めた。身じろぎすると、予想外にくるんっとバランスを崩してそのクッションから落ちてしまう。


 なんだか、体のバランスを取るのが難しい。


「起きたの、ライラ」


 最近では聴き慣れてしまったその声に、知らないうちに緊張していたらしい体の力が抜ける。


 そのまま、フワリと優しく持ち上げられて、アルベルト様と同じ目線になった。


「キュイッ(急に持ち上げないでください)?!」


 そう、持ち上げられて……。


 これは一体、どういう状況ですか?

 説明していただけるのでしょうか、アルベルト様。


「ライラ……だよね? その色合いからしても、状況からしても間違いないと思うんだけど」


「キュイッ(ライラですっ)」


 え。頼みの綱のアルベルト様も、状況を把握してないんですか? 


 これは困りましたね。

 私は、首を傾げる。なんだかおかしなことに、なってしまったみたいだ。


 そのままアルベルト様は、広い部屋を横切って、私を鏡の前に連れて行ってくれた。


 そこには、相変わらず黒一色の印象を受けるアルベルト様と、鮮やかな空色の生き物が映っていた。


「……キュッ、キュイッ(ひっ、これはいったい)?!」


 鏡の向こうで、手足の短い、丸々とした生き物が驚いているのが見える。そして、私の動きと同じように動く。


 うん、間違いなくこれ私だわ。

 なんだか懐かしい驚き。

 これはデジャヴというやつだ。


 そう、この状況は、あの時に似ている。前世の記憶を持つ自分が、魔法と竜のいるファンタジー世界に、チートも持たない、むしろ落ちこぼれとして転生したことに気がついたあの時の。


「……キュッ、キュイ(むしろ、この姿にも落ちこぼれの予感しかしない)」


 くるくる鏡の前で回ってみる。


 この空色の生き物は、竜に見える。でも、それにしては手足が短いし、尻尾は体のバランスに対して太いし、金色の瞳はクリクリと丸くつぶらだ。


 まさか、竜の落ちこぼれに姿を変えてしまったという状況ですか?


 転生者として過ごしてきた私は、想像もできないことは現実に起こるのだと、それだけは既に知っている。


 それにしたって、チートなし、むしろ落ちこぼれ転生させた上に、神様ひどすぎませんか。

 

 そんな少しズレた私の困惑をよそに、アルベルト様が鼻先を擦り寄せてくる。


「間違いない、この匂いは、ライラだ」


 えぇ〜、その表現ちょっとイヤです。


 私が困惑気味に上目遣いで眺めると、アルベルト様がなぜか少しだけその目元を赤くした。


「そんな目で見ないで欲しい。でも、この姿だと、はっきりとライラのいい香りが……」


 スンスンッと感じる鼻先の感覚。

 それは、どこか胸の高鳴る状況で……。

 うう、これは仕方ない。たぶん本能というやつだ。


 そう、自分に言い訳をして、私もアルベルト様の首元に鼻先を擦り付けようとした。


 その瞬間、ドアが勢いよく開く。

 我に返ったみたいに目を開いたアルベルト様の顔が、今度こそ紅く染まる。

 私の顔色は、この動揺に反して、多分変わっていなさそうだけど。


「おいっ、堅物のお前が、女連れ込んだって本当か?! どんな美女。…………なんだその珍妙な生き物は」


 急に羞恥心を感じて、アルベルト様の腕の中から飛び降りる。ちょこちょこ歩いて見上げると、ドアの前に立っていたのは、ミルクチョコレートみたいな色をした、癖のある髪と同じ色の瞳をした、ワイルドな印象を受ける男性だった。


「キュイッ!」


 ライラと申します。と言ったつもりだ、私は。

 でも、残念ながら私の方から元気に出てきた音は、やっぱり竜の鳴き声だけだった。


「……その鳴き声、まさか竜の子どもか?」


「ロバート、少し話がある。悪いが最重要機密だ。聞いたら巻き込まれるのだが、もちろんいいな?」


「拒否権なしの真面目な話か。ちっ、上官様を揶揄ってやろうと思ったのが裏目に出たな」


 頭を掻きむしるロバート様は、その言葉とは裏腹にニヤリと口の端を上げて、私のことをいかにも興味津々といった瞳で見つめた。


 拒否権なしの案件に巻き込まれた割には、なんだか楽しそうに見えるんですけど。

 この人、私のことで絶対楽しもうとしている。


「こう見えて、意外と口も固くて頼りになるから」


 困ったように微笑んだアルベルト様が、私にしゃがみ込んで話しかける。

 ……うぅ、アルベルト様がそう仰るなら、無条件に信じますけどね?


「意外ってなんだよ。まあ、俺が楽しめれば、それでいい。職務上、他のやつに言ってはいけないことを言ったりしない。その辺は弁えている」


 先ほどの、私の直感は、ピッタリ当たっていたことが証明されるのは、後日もう少しロバート様との距離が近くなってからなのだけど。


「ところで、これはなんだ?」


「………………俺の、可愛いペット、かな?」


 そのまま、拾い上げられて、強く抱きしめられる。


「キュイッ(まさかのペット枠)?!」


 アルベルト様の問題発言。

 それとも、それが事実なのだろうか。

 たしかに丸々としたこの姿は、ペット以外の説明がつかない。


 お父様。竜騎士の落ちこぼれ娘は、竜騎士様のペット枠に納まってしまったみたいです。


 竜騎士団の皆様と、アルベルト様との共同生活は、こうして幕を上げたのだった。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
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