七色の砂糖菓子と君の色
ライラに贈るお菓子を選んでいた時に、その七色の砂糖菓子と出会った。
俺の闇に染められた髪と瞳。対比するような色とりどりの光の中に、空色が納まっているのを見て、思わず手に取っていた。
「喜んで、くれるだろうか」
俺の前で、ライラが涙を流したことは、一度もない。
父を失って、たった一人、ライラは気丈にも、地に足をつけて立っている。
俺たちを救うために、その身を挺して戦った上司の愛娘。部下としてという、言い訳だ。
そんなことは、もう理解している。
『ライラは、甘いものが好きなんだ。料理も美味い。先日は……』
隠されるように、竜騎士団で育てられた俺には、同世代の友人はいなかった。
もちろん、最近では俺と同世代の人間もいるが、王族の血を引いている上にこの色合い。距離を置かれるのは、仕方がない。
そう、幼い頃から諦めていたのに。
それなのに、あまりにベリア殿が、ライラのことを愛しそうに話すから、そしてその話の中の彼女が、あまりにも可愛らしいから。
「どうして、今、ライラに会うことができないのですか?」
幼い俺は、思わず聞いていた。
その瞬間、微かに顔を歪めたベリア殿は、金色に輝く自身の左目をそっと押さえた。
そこに隠されている魔法陣。それは、本当は俺が受け継ぐべきもので……。
「ライラが十八歳になった時に、会ってほしい。それまでは、誰の目にも触れさせるわけにはいかないんだ」
その理由は、ライラに出会った瞬間に、理解した。強固な結界が解かれて、隠されていた空色と金色が、まるで世界を塗り替えるようにその色を露わにする。
彼女は、まっすぐ地に足をつけて俺を見た。
美しい色と、芳しい満開の花畑のような甘い香り。連れ去って、俺だけのものにしてしまいたい。それは、抗い難い本能だ。
『竜が、番に出会うと、愛するものを連れ去ってしまう。番に見つかると、十八歳になるまで抗うことが出来ない』
竜騎士団の団長室。俺の魔力だけに反応して開くようになっていた引き出しに、まとめられた資料。
第一級の極秘文書にあたるだろうそれは、ベリア殿の字で綴られていた。
番は、一人、あるいは1匹とは限らない……。
ましてや、金の瞳を持つライラは、竜の血が濃い人間であれば、誰もが欲するだろう。
たとえば……。
灰色の髪と、深紅の瞳をした兄。ディハルト・デザートリア。
そう、兄も俺と同じように、竜の血を色濃く継いでいる。
「きれいだな。……きっと」
――――きっと、喜んでくれるに違いない。戸惑いながらも、甘いお菓子にライラの瞳は、いつも釘付けなのだから。
この後すぐに、死を覚悟して、愛竜から飛び降りることになることも、彼女とともに過ごすことになることも、今はまだ誰も知らない。
色とりどりの砂糖菓子を陽光に透かせば、ひときわ美しく空色の光が、そこから零れ落ちた。
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