表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

夜の竜王様と風に愛された姫 2



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 朝日の色は、夕日のそれよりも好きだ。

 静かな森に響き渡る小鳥の鳴き声。木立と木立を飛び回っているらしい、小さな生き物の気配。

 好きだ……。この香りには、負けるけれど。


「――――ん」


 目を覚ますと、一糸まとわぬ姿に、大きな布が掛けられているだけだった。

 驚きのあまり、その布を巻き付けて起き上がる。

 白くて細い、長い手足。昨日までの空色のずんぐりとは、大きく違う。


「人間に、戻った」


 顔をあげると、いまだに黒い竜の体に寄り添っていた。温かくないはずのその体、寒くないのは、魔力で温められていたからだろうか。


「――――魔力、ないって」


 魔力がなくなると、ひどい酩酊感と、体調不良、そして眠気に襲われるはずだ。こんなことに魔法を使ってしまったら、回復が遅くなってしまうのではないだろうか。


(途中で、気配が変わって目覚めたら、人間になっていたから驚いた)


「――――竜王様が、掛けてくださったのですか?」


(今は、魔力が途切れているから……。そんなものしかなくて、すまないな)


 布は、ごわごわしている。野営にでも使われたのだろうか、軍人が多用途に使うポンチョのようだ。


「ありがとう、ございます……」


 どうして、竜と人間なのに、問題なく意思疎通ができるのかと不思議に思いながら、離れがたくもう一度、鼻を摺り寄せる。竜だった時と違って、竜の素肌はザラリとした感触だった。


(本当に、大人のくせに、子どものようだな……。さて、人と竜の血を受け継いでいるようだな。竜人か、珍しい)


 竜人? 初めて聞いた言葉に、頭を傾かせる。そういえば、神殿に勤める時に、父が言っていたかもしれない。もし父がいなければ、十八歳の誕生日は、誰にも会わずに過ごすようにと。

 竜と人の狭間で、選ばなくてはならないから、と。


 言いつけを守ろうとして、神殿から一日お休みをもらった私は、生まれ育った家に戻ろうとしていた。

 そこに、もう父はいなかったけれど……。

 人目を避けて、早朝の道を歩いていたのに、不思議なことにあの、スパイスの効いたミルクティーのような香りがして、気が付けばあの少年の前にいたのだ。逃げ出した私は、いつの間にか小さく変わってしまった、竜の姿を見とがめられて、武器を持った人たちに追いかけられ、今に至る。


(――――ほかの竜の香りがするな。別の竜人にでも出会ったのか?)


「え……」


(なぜなのか、ほかの香りを纏っていることが、ひどく腹立たしいな……)


 竜のしっぽに包まれて、抱き寄せられた。

 目の前に、漆黒の瞳が現れる。その瞳の中に、空色の髪と金色の瞳をした、私の姿が映る。


(――――金色は上位竜の証だ。俺の黒色と同じ。望む、望まないにかかわらず)


 その体に、温度はないはずなのに、なぜかとても温かくて。抱き寄せられた大きな竜に、私はそっと体を寄せた。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 泣きながら森をさまよう子竜がかわいいです〜拾ってかわいがりたい♪ [一言] 書籍化おめでとうございます*\(^o^)/* 竜のライラをぬいぐるみにしてぎゅっとしたいです^_^ あとアルベル…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ