バレンタインSS 竜とチョコレート
バレンタインですね。
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「これは何?」
黒い騎士服を相変わらず着込んで、黒い色合いのアルベルト様が、不思議そうに首を傾げた。
「チョコレートです!」
「ちょこれーと?」
苦労して材料を手に入れたチョコレート。
時々王都に出かける竜たちに、手紙を持って行ってもらって、ロバート様に代理購入していただいたのだ。
今、私の手元には、そのチョコレートを使って、苦心して作り上げた、ちょっと形の悪いハート形のチョコが乗っている。
「――――食べたことないな」
「そうでしょう、そうでしょう。王都でも、まだ一部にしか流通してないんです! 手に入れるの苦労したんですよ!」
そのチョコレートを、転生前覚えている知識をもとに、溶かして固めただけの、艶はなくて形が悪くても、まあ味は王都のショコラティエ保証付きのこちら。ぜひ、アルベルト様に捧げたい。
「どうして、今日、ちょこれーとなの?」
「バレンタインだからです」
「ばれんたいん?」
ほほ笑む私に、もう一度不思議そうに首をかしげるアルベルト様。
もちろんこの世界に、そんな風習はない。
それでも、アルベルト様にもらった、色とりどりの砂糖菓子のお礼は、今日この日でなくてはならない。
「――――好きな気持ちを伝える日なんです」
ぼそぼそと、小さな声になってしまったのは、許してほしい。恥ずかしいから。
「え?」
アルベルト様の耳元が赤くなった。
それを見た私まで、妙に照れてしまって、赤くなる。
「――――ありがとう。うれしいよ」
素直に、チョコレートを口にしたアルベルト様。
それを、頬を赤らめながら、ニコニコと見つめる私。
――――そこまでは良かった。
「好きだ。かわいい。愛してる。ライラ」
「ち、近すぎます! どうしちゃったんですか?!」
「ほかの竜にくっついたらダメだよ。ほむらもダメ。俺だけのライラで……すやぁ」
――――すやぁ?
そういえば、アルベルト様の顔が赤い。
いぶかしく思った私も、チョコレートのかけらを一つ口に放り込む。
とたんに、軽い酩酊感が襲い掛かる。
まさか、チョコレートが竜にとっては、お酒のようなものだとは。
「アルベルトさまぁ……。しゅきでしゅ。しゅきしゅき」
竜、あるいは竜人たちの口にはまだ入っていなかったらしいチョコレート。
お酒には強いのに、チョコレートには弱かったらしく、眠ってしまったアルベルト様。
一方、私はチョコレートを食べた後に、竜の姿になって、たくさんの竜に醜態をさらしてしまったらしい。覚えていないけど。
残念なことに、チョコレートはアルベルト様に「俺と二人きりの時だけにして」と、事実上禁止されてしまったのだった。
後日、魔法を使い過ぎた竜人たちが、苦痛を紛らわせるための、蒸留酒の代用品として、竜騎士団でチョコレートが正式に採用されたらしい。
残念ながら、バレンタインのチョコレートを楽しむのは、私たちには難しいのだった。
「来年は、クッキーを焼こう……」
夕日に向かって、私は呟いた。
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