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第35話 大好きではなく尊敬してる。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 なぜか、メイド服は、しっくりと馴染む。

 初めてメイド服が用意されていた時には、あんなに動揺したのに。


「ロバート様……」


 部屋のドアを開けると、ロバート様が、護衛騎士のように控えていた。


「――ロバート様が、騎士様みたいです」


「俺は、騎士だ。しかも副官だ。一応な」


 それもそうだ。

 しかも、王国の誰もが憧れる、竜騎士団の副官様だ。


 父のことも、アルベルト様のこともずっと補佐してくれていたのだと、今の私は知っている。


「……行くのか?」


「そのために、戻ってきたんです。……ああ、一つだけ」


 ありったけの感謝を込めて、私は全開に笑った。

 あんなに、ボロボロになってまで、私のことを探し出してくれる人なんて、たぶんロバート様しかいないから。


「迎えに来てくださって、ありがとうございます。頼りになるロバート様が、大好きです! 行ってきます!」


「ああ、行ってこい。誰もあの場所に入ることができないが、ライラなら……。あと、大好きより、この場合は尊敬しているだ。聞かれたら竜騎士団の分裂の危機だからな?」


 左の掌を胸に当てた、最上の敬意を表す騎士の礼。

 そんなことしてもらえるほどのこと、私には出来ない。でも、それでも。


「ありがとう、ございます」


 それでも、私はやっぱりこの場所が大好きで、竜達のことも大好きだから。アルベルト様と、この場所で生きていきたい。


 あの扉は、今日も来るものを拒む雰囲気で、目の前にある。


 それでも、扉は私のことを待っていたとばかりに、ドアノブを回せば、簡単に私が通れるだけの隙間を開けた。


「アルベルト様?」


 暗い室内は、あの時のような熱風が吹き荒れていたりしない。

 ただ、暗い闇があるだけ。あの時とは、違う空間みたいだ。


 一歩踏み出した途端に、足元に浮遊感を感じる。

 急にぽっかり空いた、深い穴に落ちてしまったみたいに。


「きゃああああ!」


 黒い粒子が作る魔力が作り出した世界に、吸い込まれていく。


 思い出が、手にのせた砂みたいに、サラサラとこぼれ落ちていく。

 

「痛ったぁ……」


 お尻から落ちたけれど、思ったよりは衝撃が少ない。そこは深い森で、とても懐かしい場所だった。


『おや、小さな竜が紛れ込んだのか』


 その声が、あまりに懐かしいから、私は思わず勢いよくその方向へ振り向いた。好きすぎて、どうしたらいいか分からないほど胸が高鳴る。


 目の前にいたのは、大きな漆黒の竜だ。その瞳も体躯も真っ暗だから、闇に溶けてしまっているみたいだ。


『……夜の竜王様』


 思わず私が呟いた言葉は、深い深い森の中で、木霊すこともなく消えていった。


最後までご覧いただきありがとうございます。


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本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ライラはメイド服も鳴き声も可愛い〜可愛いところがいっぱい♪ ロバートさんはワイルドかつ紳士的^_^ でも「大好き」はアルベルト様のためにとっておきましょう(๑˃̵ᴗ˂̵) [気になる点] …
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