第34話 自由に守りたい。
しばらく、無言のまま、いずみの背中にしがみついていた。やっぱり、ほむらとは違って安定した飛び方だ。
(どこまでも連れて行ってあげたいけれど、竜騎士団までしか送れないわ)
「いずみ……?」
(さっきは、なぜか私たちを縛る力が弱まったけれど、竜を縛る制約があるから)
「……いずみは、自由になりたい?」
いずみは、黙ったまま何か考えてるみたいに、空を仰いだ。本当なら、いずみはどこまでも飛んでいくことが出来るのだ。
(竜騎士団の人間は好きだわ。団長副官のアイツは、自分のことはいつも後回しで、ハラハラして目が離せないし。アルベルトも、あんな境遇なのに、優しさを忘れない)
いずみが、下降し始める。遥か下に、今となっては我が家のように愛しい、竜騎士団の宿舎が見えて来る。
――――団長副官って、もちろんロバート様のことよね?
ロバート様のチョコレート色の髪と瞳。そして、屈託のない笑顔と、そこに秘められた仲間を守るという決意の込められた表情が浮かんで消える。
(……そうね。自由になりたいわ。自由になって、自分の意思で守りたい)
静かな滑空。いずみは、音もなく庭へと降り立つ。
そこには、身なりを整えたロバート様がいた。
先日お会いした時の、ボロボロの姿が嘘みたいに、騎士服をきちんと着こなしたロバート様は、ワイルドな上にカッコいい。
気がつけば、青みを帯びたプラチナブロンドの美女が、私の隣にいた。慌てた様子のロバート様が、新しいマントでその美女を包む。
「そのままでいいのに」
「俺が良くない。いや、世間的に完全にアウトだ。本当に、みそらといい、いずみといい……ほむらに至っては裸のままいたら捕まるぞ」
「だって、私は竜だもの」
「少なくとも、お前たちは、俺ら竜人と変わらない。どちらの血が濃いかの違いだけだ。いい加減、場所と状況を弁えてくれ」
「……ふんっ」
竜が人に変わるのは、とても不思議な光景だ。
ましてや、大人の竜が、美女に変わるなんて、御伽噺の一幕みたいだ。
あれ? 今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。ほむらって言った?
「面倒な。……これでいいわね?」
本当にめんどくさそうに投げやりな言葉が聞こえた直後、水の魔法がタイトなシルエットのドレスを作り出す。妖艶な美女。そんな言葉が似合う。
「わぁ……」
あまりの美しさに、ぼんやりしていると、魔力が切れたのか、今度は私の風魔法で作ったドレスが消えてしまう。
「ひゃぅ?!」
慌ててしゃがみ込んだ私に、ベストなタイミングでロバート様がマントを掛けてくれる。
ロバート様が私の体を隠すのが、妙に上手いと思ったら、竜たちのせいだったとは。
「とりあえず、着替えてからだな」
その言葉には同意しかない。
私は、慌ててそのまま残されていた私の部屋で、最近か慣れてしまったメイド服へと着替えたのだった。
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