第26話 御伽噺の結末は。
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父にしか、話したことがない私の秘密。
18歳まで、外の世界との交流を持たなかったにも関わらず、私がこうしていられるのは、あの世界の記憶があるからだ。
スヤスヤと眠るアルベルト様は、可愛らしい。よく考えれば、前世の記憶を合わせれば、私の方がだいぶお姉さんなのだ。
守ってもらってばかりなんて、少し残念すぎる。
「アルベルト様のために、何ができるかしら」
アルベルト様は、私のために、陛下に逆らった。
庶子として生まれたアルベルト様は、子どもの頃から、この黒い髪と瞳を持つがために、竜騎士団の中で隠されて育った。
そんな、今までの忍耐の日々を私のために、捨て去ってしまった。
そして、アルベルト様のお母様は、竜騎士だったという。
もしかすると、父と母の秘密についても知っていたのかもしれない。
「お父様……、今すぐ話がしたいです」
私は、父が残してくれた資料を開いた。
そこには、さまざまな魔法陣、竜の生態、竜人と竜の関係が書き残されている。
「……これ」
読み進めていく先に、あの部屋に置かれていた剣が描かれていた。
「竜と人の盟約……」
そういえば、陛下が押しかけてきた時に、アルベルト様が竜との盟約と口にしていた。
竜と人の盟約とは、何なのかしら。
残念ながら、その剣の周囲に書かれている文字は、古代の言葉なのか、私には読み取ることができない。
せっかく、異世界の知識と記憶を持って生まれたのに、私には、丸々とした竜になる以外の能力がない。
「異世界に転生したら、多言語を理解できるチートとか定番でしょ。ハードモードすぎるわ」
ため息を一つついて、次のページをめくる。
そこには、美しい空色の髪と金の瞳を持つ女性、そして黒い髪と瞳を持つ男性が描かれていた。
夜の竜王と、風に愛された姫の物語。
この物語自体は、御伽噺として伝えられ、とくに珍しい物ではない。
でも、私の視点は、一点に集中した。
「あ……。夜の竜王様の持っている剣」
その剣は、あの部屋にあったものと同じに見える。
何故か震える指先で、次のページをめくれば。
先ほどの剣に、倒れた一匹の黒い竜から生まれた宝玉が埋め込まれようとしていた。
眠る空色の髪をした女性を抱き抱え、その剣を手にする王族。その剣は、黒い竜へと向けられる。
その髪と瞳を見た私は、思わず息を呑む。
「……陛下?」
そういえば、夜の竜王と風に愛された姫の物語は、どんなものだっただろう。
父が買ってきてくれたくれた絵本。
どうしても思い出せない結末。
その結末を聞いて、泣きじゃくる幼い私と、困ったように、それを宥める父の思い出が過ぎる。
物語の結末を読まなくては。
溢れる焦燥感と、なぜかイヤな音を立てる胸に手を当てて、私は漠然とそう思った。
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