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第25話 子守唄と魔力の光。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 取り敢えず、アルベルト様の私室に抱き抱えられまま戻ってきた。


 ここに来るのも、ずいぶん久しぶりな気がする。


 いつも、整理整頓されてどこか生活感のないアルベルト様の私室。何故か今日は、雑多な印象だ。

 空になった蒸留酒の瓶も、置かれたままのコップも、ここしばらくの生活が垣間見えるよう。


「……魔力を使った後は、強いお酒を飲む竜騎士が多いって、ロバート様が言っていました」


「……そうだね。魔力が欠乏した時の苦痛を誤魔化すために」


「今は、平気ですか?」


「ライラに魔力を分けてもらったから、なんともない」


 たぶん、なんともないはずはない。


「取り敢えず、寝室お借りします。服着るので」


「あ……そうだな」


 寝室に入って、私にグルグル巻きついていたマントを外し、手早く服を着る。


 早急に、風の魔法でドレスを作る方法を身につけよう。そうしよう……。


 雑多に物が置かれて、荒れていた私室に比べて、寝室は片付いている。


 ……というより、絶対このベッド、私が整えた3日前から使ってない。


 つまり、アルベルト様は、ちゃんと寝てないのだ。


 そんな、アルベルト様の目の前で、魔力が尽きたからと肩まで借りて、スヤスヤ寝ていた自分が恨めしい。


「アルベルト様! この後のご予定は」


「……ライラのおかげで、あの部屋での用事が思いの外早く済んだから、この後は溜まっていた書類業務でも」


「つまり、大きな予定はないってことですね?」


「ん……? まあ、そうだな」


 それなら、アルベルト様には、休息が必要だ。

 放っておいたら、たぶんまた、夜中まで働き続けてしまうに違いない。


 これはいけない。

 アルベルト様の生活改善をしなくては。


「とりあえず、寝ますよ」


「は?!」


「ちゃんと睡眠をとってください」


「ああ、そうだよな。……でも、まだ昼間」


 もう何日も、ちゃんと寝てないですよね?

 よく見たら、隈がすごいです。


「……寝るまで、そばにいてあげますから」


「……起きるまで」


「え?」


「あ……。ごめん」


 どうして、謝るんでしょうか。

 そんな、可愛い我儘、嬉しいだけなのに。

 もっともっと、言ってくれたなら、私はとても幸せなのに。


 そのまま、アルベルト様をベッドに押し込む。

 その横に、椅子を置いて、サラサラしたその黒髪をそっと撫でる。


 この色合いは、とても懐かしい。

 この世界では、アルベルト様しか見たことがないけれど。


 気がつけば、私が口ずさんでいたのは、遠い世界の子守唄で。

 不思議なことに、私が歌うたびに、室内にそよそよと風が吹いて、キラキラと魔力の粒が舞い降りる。


「その歌……」


 ぼんやりと、焦点の合わない、眠そうな瞳で、アルベルト様がつぶやく。

 降り注ぐ魔力の光のせいなのか、子守唄のおかげなのか、アルベルト様は眠そうだ。


「……起きたら、聞いてください。この歌の故郷のこと。起きるまで、ここにいますから」


「うん」


 静かな室内で、私はまだ、どこか幼さが残るアルベルト様の寝顔を、飽きもせずに見つめていた。

最後までご覧いただきありがとうございました。

誤字報告ありがとうございます。


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本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ベルンさんとみそらさんの月夜の逢瀬が美しかったです^_^ 変身した時の服は私も気になっていました笑 幼さの残るアルベルト様の寝顔、可愛いです♪ 髪を撫でながら、陛下に負けないイケメンにな…
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