第23話 夜のグラデーションと竜の姫。
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夢の中で、空色のとても美しい竜が、満月の夜空から降り立った。
その竜は、色合いは違うのに、どこかほむらと似ている気がした。
優しげで、体温の低い竜なのに、どこか温かそうで、思わず擦り寄りたくなる。
(……ベリア)
「……みそら」
その竜は、父の名前を呼ぶと、するりと風をその体に纏った。そして、その姿は、一人の空色の髪と瞳をした美女へと変わる。
「会いたかったわ。ベリア」
「俺もだ。みそら……」
その女性が纏うのは、風の魔法で作られたドレス。
金の瞳と髪が、そのドレスに映って、煌めいては消えていく。
竜が人に変わる。
誰がそんなことを、信じるだろうか。
それは、御伽噺の出来事だと、私も、つい最近まで思っていた。
でも、夜の竜王の御伽噺は、風の精霊に愛された姫が、ある日呪いにより竜になってしまったことから始まる。
竜になった姫に恋した、夜の竜王は、その魔力で人の姿になり、呪われた姫と過ごすのだ。
「ねぇ、ライラは元気にしている?」
「ああ。元気だ」
「外の世界に出てしまったらしいわね。ほむらに聞いたわ」
「ああ、約束を違えてすまない」
美女は、首を振った。
そして、父に縋り付く。
「私たちの子どもは、私と同じで竜の血があまりにも濃すぎるわ。そして、今代は、竜の血が濃い子どもが、そして、人の血の濃い竜が、不思議なことに多く生まれている」
「……ライラが、番の香りに惑わされず、自分で判断できる18歳になるまで、守ってみせるよ」
「見つかってしまったのね?」
「ああ、見つかった相手が悪いな。可哀想だが、ライラは、こらから先、18歳まで誰にも会わせるわけにいかない」
二人は、なんの話をしているのだろう。
そういえば、父の見た目がとても若い。
過去の出来事なのだろうか。
「あなたが知っているのは、その人だけ?」
「いや、もう一人は俺の手元で守っている」
月夜に照らされて、煌めく父の髪。
その月に照らされて、まるで夜のグラデーションに、溶け込んでしまいそうな、空色の髪。
二人の逢瀬を見つめていた時、場面は切り替わり、空色の竜が再び私の目の前に舞い降りる。
(夢の中でしか、会えなくてごめんね? これは、竜の魔法なの。あなたが、自分の意思で好きな人を見つけたときに、発動するようにしていたの)
「…………あの、お母様?」
(可愛いライラ。竜の血が濃い竜人は、きっと全てが、あなたの香りに惹かれるわ。だって、ここまで竜の血が濃い女性は、今代はあなただけだもの……。ましてやあなたは、夜の竜王の愛した、風に愛された姫と同じ色合いをしている)
残念なことに、空色の竜は一方的に私に何かを伝えるだけみたいだ。
でも、間違いない。記憶になくても、私と同じ、その色合い。そして、どこか記憶の奥底に残る、その声。
「お母様」
(一つだけ教えて? あなたの愛する人は誰?)
愛しい人。その言葉を示す名前は、今はもう、私の中に一つしかない。
「アルベルト様……」
(祝福するわ)
美しい空から響くような竜の鳴き声が、あたりに響いて消えていった。
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