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第23話 夜のグラデーションと竜の姫。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 夢の中で、空色のとても美しい竜が、満月の夜空から降り立った。


 その竜は、色合いは違うのに、どこかほむらと似ている気がした。


 優しげで、体温の低い竜なのに、どこか温かそうで、思わず擦り寄りたくなる。


(……ベリア)


「……みそら」


 その竜は、父の名前を呼ぶと、するりと風をその体に纏った。そして、その姿は、一人の空色の髪と瞳をした美女へと変わる。


「会いたかったわ。ベリア」


「俺もだ。みそら……」


 その女性が纏うのは、風の魔法で作られたドレス。

 金の瞳と髪が、そのドレスに映って、煌めいては消えていく。


 竜が人に変わる。

 誰がそんなことを、信じるだろうか。


 それは、御伽噺の出来事だと、私も、つい最近まで思っていた。


 でも、夜の竜王の御伽噺は、風の精霊に愛された姫が、ある日呪いにより竜になってしまったことから始まる。


 竜になった姫に恋した、夜の竜王は、その魔力で人の姿になり、呪われた姫と過ごすのだ。


「ねぇ、ライラは元気にしている?」


「ああ。元気だ」


「外の世界に出てしまったらしいわね。ほむらに聞いたわ」


「ああ、約束を違えてすまない」


 美女は、首を振った。

 そして、父に縋り付く。


「私たちの子どもは、私と同じで竜の血があまりにも濃すぎるわ。そして、今代は、竜の血が濃い子どもが、そして、人の血の濃い竜が、不思議なことに多く生まれている」


「……ライラが、番の香りに惑わされず、自分で判断できる18歳になるまで、守ってみせるよ」


「見つかってしまったのね?」


「ああ、見つかった相手が悪いな。可哀想だが、ライラは、こらから先、18歳まで誰にも会わせるわけにいかない」


 二人は、なんの話をしているのだろう。

 そういえば、父の見た目がとても若い。

 過去の出来事なのだろうか。


「あなたが知っているのは、その人だけ?」


「いや、もう一人は俺の手元で守っている」


 月夜に照らされて、煌めく父の髪。

 その月に照らされて、まるで夜のグラデーションに、溶け込んでしまいそうな、空色の髪。


 二人の逢瀬を見つめていた時、場面は切り替わり、空色の竜が再び私の目の前に舞い降りる。


(夢の中でしか、会えなくてごめんね? これは、竜の魔法なの。あなたが、自分の意思で好きな人を見つけたときに、発動するようにしていたの)


「…………あの、お母様?」


(可愛いライラ。竜の血が濃い竜人は、きっと全てが、あなたの香りに惹かれるわ。だって、ここまで竜の血が濃い女性は、今代はあなただけだもの……。ましてやあなたは、夜の竜王の愛した、風に愛された姫と同じ色合いをしている)


 残念なことに、空色の竜は一方的に私に何かを伝えるだけみたいだ。


 でも、間違いない。記憶になくても、私と同じ、その色合い。そして、どこか記憶の奥底に残る、その声。


「お母様」


(一つだけ教えて? あなたの愛する人は誰?)


 愛しい人。その言葉を示す名前は、今はもう、私の中に一つしかない。


「アルベルト様……」


(祝福するわ)


 美しい空から響くような竜の鳴き声が、あたりに響いて消えていった。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
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