第22話 大好きの意味です。
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その扉は、幾重もの結界で今日も閉ざされている。
その結界は、中にあるものを守るように、そして中の人間を逃さないように見えた。
「アルベルト様」
扉に手をかける。
結界は、私のことを認めているみたいに、するりと中へと受け入れた。
扉の中は、焚き火の真横にいるような暑さだった。
その場所で、静かに立っている黒い髪の人が、振り返る。
「この場所は、危ないって言っているのに。特に、ライラは来ちゃダメだ」
優しく微笑むアルベルト様、その周りを取り囲む魔力は、まるで燃えているようだった。
「……アルベルト様、私に出来ることはないですか」
「……俺のことを信じて、待っていて」
その言葉は、私の胸にズブリと刺さった。
そうやって、父に、アルベルト様に私は守られてきたのだから。
アルベルト様は、多分、自分が傷つくことで、誰かを守れるなら迷わずそれを選ぶのかもしれない。
――そんな、アルベルト様のこと、好きですよ?
でも、私だって、アルベルト様がそんなふうに傷ついているのを知ってしまったから。
――悲しい。心の奥底が抉られたみたいに、痛い。
私は、一つの覚悟を決める。
そして一歩を踏み出した。
アルベルト様は、やっぱりその場所から身動きが取れないみたいだった。
それは、何かの制約のせいなのか。
それとも、ひどい苦痛のせいなのか。
「ライラ……君を守りたいんだ。だから、ここには来ないで」
さっきより、ずっと苦しそうにアルベルト様が、まるで絞り出すような声を出す。
――お断りします。
私はそのまま、アルベルト様の目の前まで歩み寄った。
熱い、焼け焦げてしまいそう。
それでも、離れてみているのに比べたら、苦しくなんてない。
そのまま私は、アルベルト様に口づけを落とす。
一回だけだから、許して欲しい。
私からのキスは……大好きな人へのキスですよ?
マグマのような魔力が熱を失っていく。
私の体は、どんどん小さくなる。
「キュイッ(好きです)」
――――ペット枠でいいから、私のことをそばに置いてください。
「キュイッ、キュイ(アルベルト様が、好きです)」
竜の言葉が、アルベルト様には通じないのをいいことに、私は言いたい放題だ。
「何を言っているのか、分からない……。ずるいよ、ライラ」
「キュイ、キュイイッ(好きだと、言い放題です)」
すっかり、調子を取り戻したらしいアルベルト様が、ふと口の端を緩めてささやく。
「…………そうだね。俺も好きだよ。ライラ」
「…………キュイッ?!」
なぜ、バレてしまったのだろう。
今、たしかに竜の言葉で話していましたよね?
「ふふっ。大好きな肉を食べている時の、いずみの鳴き声と同じだ。あまり深い意味のない好きなのかもしれないけど、嬉しいよ」
「キュ?!」
え? 違います。この姿の時は、お肉が本当に好きですが、その好きとは違います。
今、キスしましたよね?!
「もし、俺の思う好きと違うなら、避けてくれないかな?」
アルベルト様の唇が、ゆっくり近づいてくる。
アルベルト様の思う好きって、なんですか?
「俺が持っている、すべてと比べたって、きっと天秤は迷うことなくライラ一人に傾く。……好きだよ、ライラ」
――――え? 想定に収まらない、本気の好きじゃないですか?
私の好きが、そこまでいくか分からないのに、私はすっかり逃げ場を失ってしまったらしい。
「逃げそびれるなんて、知らないよ。ライラ」
その唇が、竜の鼻先にそっと口づけを落とす。
竜と竜人のキスなんて、ロマンチックな映像ではないよね?
元の姿に戻っていく。
フワリと、アルベルト様のマントに包まれて。
人の姿に戻ったら、もう一度伝えたいです。
アルベルト様のこと、好きだって。
魔力がないから、もう眠りますけどね?
2回の変身のせいで、完全に空になった魔力。
私は眠気に逆らうことができず、深い夢の中へと落ちていった。
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